第24話 学園都市 ワイズアビス⑪
「ふん。まあ、結果的に目的は果たせたからな。よくやったと褒めてやってもいい。」
街に帰り着く頃には夜も更けており、周囲は闇に閉ざされていました。
といいながらも、魔術研究の進んだ都市だけあって、魔石などを使用した街灯がところどころに設置されており、歩くのに苦労する、というような状態ではありませんが。
「はあ?何の役にも立たないお褒めの言葉なんかどうでもいいのよね?
ちゃんと出すもの出して貰える?」
「……、わ、分かっている!
明日研究室まで取りに来い!ちゃんと満額払ってやる!」
「一人につき銀貨6枚、分かっているわよね?ビタ一文まけないわよ?
むしろ割増料金が欲しい位よね。安普請で床が抜けるは、あんな化物と戦わせられるはで、こっちはいい迷惑よね、本当に!」
「じゃ、じゃあ明日な!昼前頃に来いよ!」
レンさんは不穏な空気を察知されたのか、慌てて帰路につきます。
精霊とともに、空気も察知できるようになられたようです。素晴らしい事ですね。まあ、空気というのは誰かにとって都合のいい流れ、というだけの話なので、あえて読む必要があるのか、というところは疑問ですが。
そんなレンさんの後ろ姿を見送り、私たちも宿に戻って休むこととなりました。今日は盛り沢山で疲れましたね。記録するだけでも一苦労です。
次の日、再度レンさんの研究室を訪問した私たちは、レンさんとその指導教授に出迎えられました。
「はじめまして。儂がこやつの指導教授でクロウと申します。」
クロウさんはまさしく魔術士、といった風貌のお爺さんで、温和そうな印象の方でした。
レンさんはその横で渋い顔をしながら大人しくされております。報告にあたって、何か小言を貰ったのでしょうかね。
「弟子が世話になったようで、ありがたいことです。
お陰様で無事試練をクリア、晴れて卒業させることが出来そうです。
こやつはこんな性格ですので、旅中不快な思いもされたかと思いますが、若輩者がしでかしたことと、どうか許してやって頂けると助かります。」
「いえ。俺たちも仕事ですので。お気になさらず。」
クレイさんは大人の対応で、そう答えられます。
それに笑顔で頷かれたクロウさんは話を続けられます。
「こやつの人望のなさとも相成って、あの精霊回廊のクリアは難しいのでは、と思っていたのですが、あなた方のような冒険者と巡り会えて幸運でした。
しかも、精霊魔術の手ほどきまでして頂けたとか。儂も、こやつの古代語魔術偏重をどうにかしたいと、常々思っておりましたが、精霊に好かれているというのに、本人は精霊魔術を見下す始末で。
これが改善の機会になれば、と思い今回の卒業試練を課したのですが……。
予想以上の成果となって、この上ない喜びです。重ね重ね御礼申し上げます。
つきましては、こやつ自身の報酬とは別に、儂からも何かお礼を差し上げたいと思っております。」
お礼、というところでミレニアさんの瞳が輝きます。
これで、報酬の三重取り、になるでしょうか?ぼろ儲けですね。ありがたいことです。浮利を追っている感がしなくもないですが。
「といったところで、ここからが本題なのですが……。
実は、儂からも皆さまにお願いしたい事がありましてな。」
「お願い、ですか?それはどの様な?冒険者に対する依頼ということですか?」
『依頼』と言わず『お願い』としたところに違和感を覚えたクレイさんが聞き返します。
「いえ。依頼ではなく、お願いになります。
どうか、こやつ、レン・クロサキを皆さま一行に加えて頂けないでしょうか?」
そう言い、レンさんの方に視線を向けるクロウさん。
本人にとっても突然の話だったのか、レンさんが慌てて口を挟みます。
「なっ!何を言っているんです!突然冒険者になれ、だなんて!
どういうつもりです!折角卒業だ、というのに!」
「まあ、落ち着いて聞きなさい。
お前さんが古代語魔術の研究をしたがっていることも、それで家の再興をしたいのだ、という事も分かっとる。
だがな。今回の事で、賢いお前さんなら学んだだろう?ただ古代語魔術に打ち込めばいい、という訳でもないということを。
どうじゃ?この方たちと世界を回って見聞を広めてみては?
古代語魔術以外にも目を向け、他の魔術や冒険術、他国の情勢などを学んでみては?それは、お前さんにとって掛け替えのない経験となることじゃろう。それこそ、研究室に籠って得られるものの何倍もの。
折角精霊魔術も使用できるようになったことだしな。リリシア殿のご助力があれば、その習熟も出来よう?」
「そ、それは……。」
そこでクロウさんは私たちの方へ向き直られ、更に言葉を重ねます。
「重ねてお願いします。無理を言っているのは重々承知しておりますが、私としても、若い才能をこんなところで埋もれさせず、もっと花開かせてやりたいと切に願っておるのです。
どうか、仲間に加えてやって頂けないでしょうか。」
そう言い深々と頭を下げられます。寧ろ、こちらが恐縮してしまいますね。
「い、いや。顔を上げて下さい。我々としても、いきなりの話ですので……。」
慌ててそういうクレイさんに、アレンさんが横から口を出します。
「いいんじゃないのか?こちらとしても、魔術士が加わるのは願ったり叶ったりだろう?
俺程度の魔術じゃどうにもできない事態もあるだろうし。な?」
「そうですね。性格的なところは置いておくとしても、魔術士としては十分に優秀な方かと思いますので、加わって頂ければ今後の旅が楽になるのではないでしょうか。」
と、私も同意を示します。
「まあ、いいんじゃないの?とりあえずこき使ってやれば、多少は役には立つでしょ。
あ、そうそう。仲間になったとしても、報酬はチャラにならないからね?
きっちり、耳そろえて支払って貰うわよ?」
因みに、私たちのパーティーでは基本的に報酬は人数で等分、個別管理となっています。
その中から共通で必要な分をパーティーの財布に供出する形です。前述の通り、今現在その財布はミレニアさんが管理されている、という状態ですね。
そして、ありがたいことに非戦闘要員である私も皆さんと同じ額だけ頂いております。あまり、使い道もないので貯まる一方ですが。その内、パーティー内金融業でも開けそうです。
勿論、法定金利内で、ですよ?そんなものがこの辺りの国にあるのか存じ上げませんが。
とりあえず、年単利で20%位にしておきましょうかね。クレイさんはまず使用されないでしょうから――、結局ターゲットとなる可能性が一番高いのはレンさん、という事になるのではないでしょうか。お得意様ゲットだぜ、です。
「――そうだな。我々にとっても悪い話ではない、か。
リリシアに精霊魔術を手取り足取り、というのは許し難いが。
分かりました。そのお話、お受け致しましょう。」
小声で何か言われたのはよく聞き取れませんでしたが、クレイさんも了承され、こちら側の意は決しました。後は――。
「わ、分かったよ!仕方が無いから、お前らに手を貸してやる!
天才の俺が仲間に加わってやるのだから、有り難く思えよ!」
「こら!お前さんはまたそんな口を!全く、仕方のない奴じゃの。
皆さん。多々ご迷惑をかけてしまうとは思いますが、温かく見守って頂けたら有り難く。
どうぞ宜しくお願い致します。」
レンさんも同行の意を示し、これで、勇者候補一行に新たな仲間が加わる運びとなりました。
当然のように、レンさんに加えてクロウさん・冒険者ギルドからの報酬も回収しましたので、お金にプラスして戦力増強(3割強アップです)と、この街で得られた戦果はかなりのものと言えるでしょう。
4+1のパーティーとなった私たちは、レンさんの卒業を待ち、その後北東へと歩を進めることとなりました。
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