第22話 学園都市 ワイズアビス⑨

「くっ!後ちょっとだって言うのに……!」


 その激戦区から少し離れた場所で、私とレンさんは戦いを見守っておりました。

 台座への通路はそこまで広くないので、隙をみつけ脇を抜けて精霊石を奪取、というのも難しそうです。というところで、今のところは出来る事がありません。壁歩きとか、天井歩きとか出来るようになりませんかね?


「ところで、レンさん。ちょっと宜しいですか?」


「……ん?何だ?」


 再び、唐突に話しかけた私の声に、レンさんは怪訝そうな表情をしながらも耳を傾けました。


「レンさんは精霊魔術を毛嫌いされておりましたが、今は如何でしょうか?

精霊たちを見ることが出来るようになられましたが。」


「……い、いや、まあな。古代語魔術が最も偉大なのは変わらないが、まあ精霊も……。」


 周囲の精霊たちが見えている、という事もあってか、歯切れが悪い回答です。結構小心者ですね。いつもの傲慢な物言いはどうされたのでしょうか?


「まあ、個人の好みはどうでもいいのですが。

 ここは卒業が掛かった局面で、レンさんにはもう余裕がありません。もう一回入りなおしてという時間的な面でも、人手という面でも。手段を選んでいる場合ではない、ということです。

 そこで相談なのですが、ここは一つ、精霊魔術が使えないか、試してみるのは如何でしょうか?」


私はそう提案しました。


「俺が精霊魔術を?

 ……あの骸骨野郎にそれが通じるのであれば、確かにこの局面を打開する一手にはなりそうだが。

 とはいえ、天才の俺とだとしても、そんな簡単に習得出来るものでも無いだろう?」


 下等な精霊魔術だとしても、という前置きも聞こえてきそうな感じですが、私は更に説得にかかります。


「ええ。普通では。

 ですが、ここは精霊石の影響か精霊が多数おり、その力に満ちています。

 そして、レンさんも初心者とはいえ、大分精霊たちに好かれる体質のようです。上手く精霊たちが意を汲んでくれる可能性は十分にあると思います。

 それに、失敗しても特に失うものはありません。不利な現状が継続する、というだけですので。」


「……そ、そうだな。好転はすれど、悪化はしない、か。

 それならやってみる価値はあるか?」


 上手く乗せられてくれたようです。やっぱりチョロイ感がします。

 そんな性格だから悪女に騙され、お金を巻き上げられたりされたのでは無いでしょうか(本人ではないですが)。もう少し思慮深くなられた方良いのではないかと思います。


「では早速。まずは、目を閉じて周囲の精霊たちの気配に集中してください。」


「こ、こうか?」


 学生らしく学ぶ姿勢というのは身についているのか、私の言う事に素直に従って下さいます。


「そうですね。

 気配が感じ取れたら、次は自分も魔力を彼らの前に差し出して餌付――、いえ、対価を払うので協力してくれるよう語りかけ、お願いして下さい。そのお願いで引き起こしたい現象のイメージとともに。

 そうですね……。」


 黒馬の跳躍力・スピードに、皆さん苦労されているようです。あの足を止める事が出来れば、大分有利になりそうな気がします。


「骸骨騎士の足元。地面から、錐状の岩が突き出してきて黒馬の脚を貫く、というのはどうでしょうか?

 まずは骸骨騎士の足を奪い、動きを封じるということです。」


 その私の提案に、レンさんは目を瞑ったまま頷かれます。


「分かった。それでいこう。」


 無言でイメージを固められるレンさん。

十分に固まっただろうな、という頃を見計らって発動の合図をだします。


「では、目を開いて、対象を見ながら指示をして下さい。」


「地霊よ!彼の者の足をとめろ!」


 目を開いたレンさんがそう声をかけると、周囲の精霊たちがそれに呼応し動き始めます。その動きはどことなく楽しそうです。そして――。


「!」


 骸骨騎士の足元の地面から岩の蔦が伸び、今にも跳躍をしようとした黒馬の脚を貫きました。

 黒馬は無音の呻きを上げ、苦しみながら足を止め態勢を崩します。

どうにか上手くいってくれたようですね。これで一安心です。ほっ。


「今だ!」


 その隙を見逃さず、アレンさんたちが切りかかります。

先陣を切ったクレイさんの剣は槍に阻まれますが、逆にそれを受け止め固定する事に成功します。

 そこへ駆け寄ったミレニアさんは、槍の柄を踏み台に跳躍し、手にしていた小剣で背後から腕を斬り落としました。

 そして、すかさずアレンさんが詰め寄り――。


「は!」


 精霊力を込めた剣を斜めに振り下ろしました。

 完全に断ち切れてはいないものの、その輝く軌跡は骸骨騎士の胴体に大きな傷跡を残しました。

 それがかなりのダメージとなったのか、黒馬に続き、その主人も無音の呻きを漏らしながら苦しみ出します。

ここで、畳みかけるのが吉でしょうか。もう一手打った方がよさそうです。


「レンさん!もう一回魔力を集中してください!

 次は、雷光が手元から骸骨騎士まで伸びるイメージで!地霊・風霊に呼びかける!」


「あ、ああ?」


 有無を言わさぬ私の指示に、レンさんは異論を挟む間もなく従います。そして――。


「地霊・風霊よ!彼のものまで伸びる雷光の槍を我が手に!」


 レンさんがあげた声に応え、轟音とともに杖から雷光が走ります!

 それは狙いたがわず骸骨騎士を直撃し、その体を粉砕しました。

 結果としてこれが止めの一撃となり、胸から上の大半と片腕を失った骸骨騎士の体は、黒馬とともに虚空に飲まれ、消えていきました。

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