第21話 学園都市 ワイズアビス⑧

 それから2・30分も進んだところで、私たちはようやく最終目的地と思しき場所へとたどり着きました。


「ここが力の源泉か?物凄い力を感じるが……。」


 見ると、大きな空洞となっている場所の奥、若干高台となっているところに台座が置かれており、その上に丸い石が一つ鎮座しています。あからさまに、これぞ目的物!って感じです。初心者安心の親切設計ですね。

 世の中には、最深部と見せかけて、途中にある落とし穴の先の微妙な位置に目的物がある、というような塔やら洞窟やらが存在するらしいです。

 逆に『最後の幻想』とかだと、ほぼ一本道になっていますので、それはそれでどうなのかと思いますが。


「あれが精霊石か!これで……!」


 そう言い、一目散に台座へと駆け寄ろうとするレンさん。果たしてそう簡単に手に入るのでしょうか……。


「危ない!上です!」


 私のあげた声に弾かれ、急停止し横に転がるレンさん。その脇に、空より降って来た巨大な槍が突き刺さります。


「なっ、なんだ!」


 そして、槍に続いて漆黒の馬に跨った骸骨騎士が台座の前に降りたちます。

 音もなく着地したその騎士は、静かに大槍を引き抜くと、私たちにその切っ先を向けて、戦いの構えをとります。


「こいつが宝物の守護者、という訳か!

 いいだろう!勇者の子孫たちなんていなくても、この天才魔術士レン・クロサキ様が始末してやる!」


 レンさんはそう宣言されるや否や、後退って距離を取ります。

 まあ、魔術士なので当然と言えば当然の行動なのですが、ちょっと格好が悪い感もします。

 ……おっと。職業差別はよくありませんね。ちょっと反省です。

 そのレンさんの行動を骸骨騎士は手出しせずに見送り、どこからでも来い、とでも言わんばかりに、悠然と構えたままです。


「なめやがって!後悔するなよ、骸骨野郎!」


 レンさんは魔力を集中し、古代語を唱え始めます。

 今までとは違い、かなり威力の高い術を使うおつもりのようです。あれですね。強攻撃はタメが大きい、と。そうじゃないと駆け引きになりませんからね。


「我が意に従って、爆裂せよ!」


 レンさんのその言葉に応え、骸骨騎士の周辺が歪みはじめます。

そして、それは直ぐに収束し――。


「どうだ!」


 耳を劈く轟音とともに爆発を起こし、骸骨騎士を飲み込みます。その爆風は私のところまで届き、風が頬を撫でながら通り抜けました。

 凄い威力ですね。耳がおかしくなりそうです。ですが……。


「なっ!馬鹿な!直撃のはずだぞ!」


 レンさんの驚きの声が示す通り、爆心地には、先ほどと変わらず悠然と佇む骸骨騎士の姿が。

 しかも、ほぼ無傷、という状態です。


「古代語魔術では駄目です!

 どうやら、無効にする障壁が張られているようです。

 他の魔術を使うか、物理攻撃を加える必要があります!」


 声を張り上げて、レンさんに助言をします。

 この洞窟の趣旨通り、あくまで精霊魔術を極めさせる、という目的に沿ったボス?が配置されている、ということのようですね。これは中々厳しそうです。

 レンさんは精霊を感知出来るようになったとはいえ、それを魔術転用する、というところには至っておりません。

 そして、流石に近接戦闘に習熟しているとは思えないレンさんが、徒手空拳や杖で殴って(正しい使い方、かもしれませんが)どうにか出来る相手とも思えませんので。打つ手無しの大ピンチです。


「おいっ!大丈夫かっ!」


 と、あきらめかけたところで救いの手が。アレンさんたちが追いついてきて下さったのです。


「遅い!何をやってんだ貴様らは!俺がこ――。」


「だから、アンタの護衛は仕事じゃない、って言ってんでしょ!

本当に脳みそつまってんの?馬鹿なの?死ぬの?寧ろ、死んじゃえば?」


 と、レンさんが苦情を言おうとしたところで、お約束通りミレニアさんに封殺されます。

 安定のコンビネーションですね。もし漫才コンビを組まれたら、お茶の間の人気者になれるのではないでしょうか?


「リリシア!大丈夫か!」


「私は大丈夫です。それよりも、眼前の骸骨騎士にご注意下さい。

 どうやら、障壁が張ってあるらしく、古代語魔術は通用しないようです。精霊魔術か、或は物理攻撃で対応するしかありません。」


 心配そうに呼びかけてこられたクレイさんに対して、私はそう返しました。

 どうやら、私たちがはぐれてから、皆さん休まずに先に進まれたようです。途中埋まっていた通路も、精霊たちに協力して貰ってどうにか通り抜けて来られたとか。

 皆さん、ご協力頂きありがとうございました。


「分かった!クレイ、ミレニア!行くぞ!」


 アレンさんは私の助言に了承の意を返し、骸骨騎士の下へ駆け寄ります。

残るお二人もその後を追い駆け出しました。


「お、俺も!」


「あんたは役立たずなんだから、下がっていてくれる?邪魔よ!」


 珍しくやる気をみせたレンさんですが、ミレニアさんに役立たず呼ばわりされ、涙目でまたまたうしろに下がります。

 自分へと迫りくる三人。骸骨騎士はそこで初めて動きを見せます。


「来るぞ!」


 黒馬は一声嘶くと、アレンさんに向けて大きく跳躍します。そして、着地と同時に大槍が振り下ろされます。


「ぐっ!」


 アレンさんはぎりぎりのところで横へ転がり、どうにか凶刃から逃れます。

 その隙に、と斬りかかるクレイさんとミレニアさんですが、骸骨騎士は素早く大槍を引き戻し、横薙ぎにして近寄らせません。


「一筋縄にはいかない、か!だが、やるしかない無いな!」


 その声を皮切りに、お三方と骸骨騎士は激闘を繰り広げられます……。

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