第17話 学園都市 ワイズアビス④

 翌日、準備を整えてレンさんと合流した私たちは、早速精霊回廊へとやって参りました。

 場所としては、街から徒歩で1~2時間進んだ小さな山の麓にあり、入口付近には簡易な社が建てられております。

 そこに駐留していた監視員の方に、教授の課題で訪れた旨お話すると、入口に設けられた扉を開けて中へ案内して下さいました。


「そう大きな危険は無いと思うが、気を付けていきなさい。

万が一の時は……、分かっているね?」


 そう仰ると、扉を閉め社へと戻っていかれました。

 いざとなったら、わざと道を間違えて戻ってくるように、ということですね。それすら出来ない状態だとどうにもならないかもしれないですが。

 もしかしたら、精霊たちが外部へ異変を伝えてくれるような仕掛けが施されているのかもしれません。


「……すごいな。深部から物凄い精霊の気配を感じる。」


 中へ入るなりアレンさんそう呟かれます。洞窟内には魔石を利用した灯りがところどころに設置されておりますが、奥までは見渡せません。

 ですがその暗闇の先に、確かに目的のものがある、ということが感じ取れたようです。


「……ふん。どれだけあてになるのかしらんが、しっかりと道案内しろよ?

こっちは高い報酬を支払ってんだからな!」


 正確には、支払う『予定』ですね。まだ頂いておりませんので。

とりあえず未収金として借方に計上しておきましょう。焦げ付かないといいですね。


「分かっている。とにかく、精霊の気配の濃い方向に行けばいいんだろう?」


 前述の通り、この洞窟は正解=精霊石のある方向かって行かないと入口の戻される、という仕組みです。

 つまり、岐路(選択肢が2つとは限りませんかね)の度に、正解を選び続ける必要がある、という事になります。

 正解側は精霊石の影響が大きいため、精霊の気配が濃く感じられる、という形でしょう。もしかしたら、多少の偽選択肢が含まれている可能性もありますが、基本はそれで良さそうです。

 数個の岐路で済めば運と総当たりで何とかなりそうですが、数が多くなれば、それだけで奥まで辿り着くのはちょっと厳しいですかね。

 2択だけだったとしても、20個岐路があれば正解率は1ppmも無いでしょうか。所謂シックス・シグマの不良率を下回る確率ですね。正規分布の6σそのものには及びませんが。

 アレンさんの先導の下、私たちは次々と現れる岐路(やはり3叉路等もありました)を注意深く進んで行きました。


「……あれは魔物、か?」


 そうアレンさんが指さす先に視線を移すと、動く骸骨さんたちが見て取れました。所謂、ボーンサーバント、という奴でしょうか。

 他にも、粘土なのか岩なのかで造られたと思しきゴーレムたちも見て取れます。


「そうだ。回廊のガーディアン兼・訪問者への試練のため、ああいう輩が各所に配置されているはずだ。

 対処は任せるぞ?こっちは雇い主だからな。」


 そう言って下がろうとしたレンさんを引き留めたのは、ミレニアさんでした。


「はあ?何言ってんの、あんた?

 訪問者への試練なんだったら、あいつらのお客さんはあんただけでしょう?

 私たちの仕事は深部までの道案内をすることであって、護衛って訳じゃないんだけど?何だったらあんた一人で戦って貰ってもいいのよ?」


「……な!」


 予想外の言葉に唖然とするレンさんに対して、ミレニアさんが更に畳みかけます。


「それとも何?

 自称天才様はあんなのに勝つ自信も無いって訳?自分への試練だってのに。

 はん!それで、女の後ろに隠れてがたがた震えているっての?

 それはそれは、随分と偉大な魔術士様だこと!」


「……っぐ。分かった!俺も戦ってやる!

 この天才の素晴らしい魔術を見て腰を抜かすんじゃないぞ!」


 どうやら、上手く乗せられたようです。頭はいい、というふれこみですが、結構チョロイ方なのかもしれません。

 とは言っても、自称“天才”魔術士というのは伊達では無いらしく――。


「業火よ!焼き尽くせ!」


 レンさんの放たれた魔術の炎にのまれ、魔物たちはあっさりと動きを止めました。

そして、その様子を見届けると、得意げにドヤ顔をされます。


「何やってんのよ!こんな密閉空間で火を放つなんて!

 あんた馬鹿なの!さっさと消しなさいよ!ほら、早く!」


 ただ、残念ながらミレニアさんのクレームにより、それは長く続きませんでした。

ミレニアさんの言に従って大人しく氷系魔術で火を消されたレンさんは、その後は無言であとについてこられました。

 こうやって、調教というのは為されるものなのですね。勉強になります。

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