第13話 犯罪都市 シュバルツアンク⑧

「お帰りなさい、ミレニアさん。」


 そういって出迎えた私に、ミレニアさんは驚きの顔を向けます。


「あんたは……、リリシア?他のやつらはどうしたの?」


「はい。アレンとクレイは役所に用がある、ということで出かけました。今は私一人です。」


 お二人は事後処理がある、とのことで一応は存在する国の役所へと出かけられました。

 十中八九穏健派が勝利されるだろう、ということで事の経緯と今後について話をされにいかれたようです。


「如何でしたか?代表選は。」


「如何も何も、どうせ穏健派が勝つでしょ。

 全部兄貴の手の上だったんだから。上手く転がされた私やバレンの奴はいい面の皮よね。全く。」


 そうです。今回の事件は最初から最後までジェイドさんの思い通りに事が運んだ形だったようです。

 第三王子であるクレイさん、ミレニアさんの幼馴染でもあるアレンさんがこの街を訪れる事を知ったジェイドさんが、それを利用して策を弄されたとか。

 特にぼろを出すことを期待されていた訳ではないようですが、裏切り者であるメンバー(最初に殺された方は、強権派の内通者だったようです)を粛清するついでにあぶり出しを、というその程度だったようです。

 仲違いしていたミレニアさんをバレンさんたちの側から引き剥がす、というところも狙いでしょうか。


「それで、これからどうされるのですか?」


「さてね。もう利用されるのもこりごりだし、街から出て別のところに行こうかな、と思ってるけど。正直兄貴とも顔会わせ難いし……。」


 そこで、言葉を濁すミレニアさん。


「やはり、ジェイドさんに振られた、のですか?」


「!……何でそんな事が。」


「いえ、何となくミレニアさんがジェイドさんの事をお兄さんとして、ではなく異性として好きなのかな、という感じがしていましたので。

 それに、ジェイドさんの好みは男の方のように見受けられましたし。」


 どうやら、ジェイドさんは美少年と戯れられるのがお好きなようで、配下の中にはその専属部隊もあるようです。

 勿論、ビジュアルだけではなく、腕も確からしいですが。耽美な世界ですね。腐腐腐。


「そうよ!兄貴に告ったのはいいけどあっさり振られたって訳!

 妹は、いや女性は対象じゃない、ってね!薄々は気付いていたから、いいけどさ……。」


 ちょっと涙目のミレニアさん。薄々気づいてはいても、ショックを受けられたことでしょう。

 兄が同性愛者、しかもそれが理由で、好きな相手に振られた訳ですから。


「告白された、ということは、仲違いの原因も解決された、ということですね。」


 お二人の仲違いの原因は、ジェイドさんがミレニアさんのお父様、ゲイル・ロークの死の真相を隠していたことにあったようです。

 それをミレニアさんに話す、話さないというような会話を別の幹部の方としているのを断片的に立ち聞きしたミレニアさんは、ジェイドさんが父親の死に関して関わっていると誤解して、疑心暗鬼のうちに仲違いしてしまった、というのが経緯です。

 やはり、情報は正確、裏取りが出来ないと危ういですね。思い込みや思い入れがあれば尚更に。


「そう。実際は国の関与なんかなく、ただの事故だって、話。

 兄貴が全く関係ない訳ではないけど、別本人が何かしたって訳じゃないからさ……。」


 どうやらゲイルさんとジェイドさんのお父様は、街を防衛した時以前からの盟友だったらしいのですが、街の方向性で揉めていた時期があったようです。

 ジェイドさんのお父様は若干強行派寄りの意見だった、ということです。

 それで、話し合いで激昂した際、誤ってゲイルさんを傷つけることになってしまったようで。

 ゲイルさんは、悔悟の情に打ちひしがれる盟友を赦し、そして娘を頼むと言葉を残して亡くなられました。

 その後、ミレニアさんを引き取ったジェイドさんのお父様は、ジェイドさんと一緒に兄妹のように育てるとともに、穏健派の重鎮としてギルドを運営された、ということです。


「そうですか。蟠りが解かれたのであれば、それは良かったのではないでしょうか。

 ところで、ひとつ相談なのですが。

 街から出るつもりだが行くあてが特にない、とのことであれば、私たちのパーティーに加わって頂けないでしょうか?

 正直、前衛お二人に非戦闘要員の私という非常にバランスの悪いメンバーですので、ミレニアさんに加わって頂けるととても助かります。

 庶民感覚、というところでも。」


 宿とりとか、食事とか、もろもろの。冒険者歴としては私より長いお二人ですが、正直あまり期待できません。


「……う~ん。私にとってもそんな悪い話ではないのだけど。兄貴の狙いの一つには、それもあった気がするから、ちょい業腹ものなんだけどな……。」


 確かに、最初から最後までジェイドさんの掌で、というのは気に喰わない部分があるかもしれません。


「旅の間に、ジェイドさんよりも好い男を捕まえて、見返してやられたらどうですか?

 或は、拒絶したのを悔やむ位の素敵な女性を目指してみられるとか。

 いずれにせよ、世界を回られる予定のようですから、色々とチャンスは得られると思います。

 それに、どうしても嫌であれば途中で抜けられればよいかと。」


 そこでミレニアさんは少し思案にふけり、そして意を決したように口を開きました。


「……そうね。あんた一人にあの二人の相手をさせるのもちょっと可哀相だし、私も一緒に行こうかな。うん。

 リリシア!これから宜しくね!

 それと、私は二人同様に、ミレニアで。二人でいい男を捕まえましょう!」


 こうして、ミレニアさんという新たな仲間を加えた私たちは、シュバルツアンクを後にし、一路東へと歩を進めることとなりました。

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