第11話 犯罪都市 シュバルツアンク⑥

※ここからは、後でアレンさんたちから伺った話を元に、多少の脚色をして再現をしております。予め、ご了承ください。


「で、どういう要件なんだい?」


 そういって、俺はベッドに腰かけ、眼前の椅子を勧めつつミレニアに話をただした。彼女は身に着けていた外套を脱ぐと、それに従って椅子に腰を落とす。中に着ていたのは昨晩と同じ給仕服……だった(勝手に持って来て大丈夫なのだろうか?急ぎ逃げたのであれば、返却の余裕がなかった、という事なのかもしれないが)。

 久しぶりに再会した(といっても、昨晩少し話をしているが)彼女は、昔と変わらないボーイッシュなイメージを維持しつつも、全体的に成長をしており、かなり女性らしさが増していた。


「……うん。いきなり、こんな時間にごめんね。どうしても、アレンに相談、協力してもらい事があって……。本当ごめん。」


 昨晩とは違い、しおらしい態度で突然の訪問を謝罪するミレニアに、若干違和感をぬぐえなかったが、それは、昔のイメージに引き摺られている部分もあるからだろう、と考え、ひとまず脇に置いて話を進める。


「いや。どうせ、こんな身の上だから、そこは気にしていないが。」


「そう!ありがとう!」


 そういうと、若干間を詰めて、俺の手を取って少し下を向いたあと、見上げる形で笑顔を見せる。


「やっぱり、アレンは頼りになるね!

……で、その相談なんだけど。」


「今朝の殺人事件の事、か?」


 時間もなく、隣にクレイたちが控えている、ということもあり、核心から入る事にした。


「そう、なの。

 アレンも知っている通り、私の父が父なだけに、疑われていて……。

 それで、姿を隠すような真似をしていたの。」


「今までどこに?」


「ちょっとした知り合いのところ。と言ってもギルド関係者であることには変わりが無くて。

 いつ目をつけられるか分かったものじゃないから、居場所も告げずに出てきたの……。」


 そう言って、辛そうに顔を伏せる。

 演技がかっているようにも見えるが、俺にはその真偽が見分けられなかった。


「ジェイドを頼らなかったのか?あいつは、兄、みたいなものなんだろう?」


 幹部でもあるあいつに助けを求めるのが最善の手だろう。勿論、下手人でないのであれば、だが。これは当然の疑問だ。


「……とんでもない!確かに、兄妹のように育てられたのは確かなんだけど……。

 今は喧嘩中、みたいな感じで。それに、私を一番疑っているのはあいつだろうし。」


 本人から聞いた見解とは行き違う発言だ。最近不仲である、というところは一致しているが。


「どうして?」


 そう問いかけると、ミレニアは沈黙する。不仲の理由も含めて、当然気になるところだ。

暫しの間をおいた後、意を決したように口を開く。


「……。実は、あいつ、私に隠している事があるみたいで。

 ……父の死のこと。」


「親父さんのこと?」


「そう。何か真相を隠しているみたいなの。

 穏健派ということで国との協調路線を進めている、というだけじゃなくて、裏では国と密約を交わしている、という噂もあって。

 それで、父の死にも関わりがあるらしいの。権力拡大をして邪魔になりそうな父を、国と共謀して、って!」


 誰かから聞いた話なのか、或は吹き込まれたのか。

何かをきっかけに疑念を抱くようになった、ということのようだ。


「きっと、孤児になった私を引き取ったのも、邪魔になりそうな私を監視していざとなったら、という腹積もりなのよ!

 今回の件で、私を殺人事件の犯人役に仕立て上げて、殺すつもりなんだわ!」


 声を荒げてそう主張するミレニア。

 だが、本当にそうだろうか?それが本当に真相?

 でも、それであれば、わざわざ俺たちを係らせようとは思わない気がする。そんな単純な話ではないはずだ。

 そう思案を続ける俺に対して、先程とはうって変わった艶っぽい声を出し、ミレニアは本題の望みを告げる。


「だから、助けて貰えない?ジェイドの奴に雇われているのでしょう?

 それを逆手にとって、どうにかあいつから逃れるのを手伝って貰いたいの。

 ……勿論、お礼はするわ。」


 そう言うと、ミレニアはおもむろに立ち上がり、こちらへ近づいてくる。

 そして、眼前にいつの間にか大きく開かれた胸元から覗く大きな双丘が迫り、それを押し付けられるように、ベッドに押し倒された。若干大人びた顔で、濡れた瞳が鈍い光を湛えている。


「……おい!お前、何をやって……。」


「アレンになら、私……。」


 そう零す薄紅い唇が、ゆっくりと近づいてきて……。



 と、『これから!』というところで、横やりが入ったため、その後の話はまたの機会に、となりました。もし、お二人の間にそういった進展がみられれば、ですが。

周囲に、ものの焦げる匂いが漂い始めたのです。


「……なんだ!?

火事、か?このタイミングで、なんて!」


 慌てて廊下へ飛び出すと、煙が充満し始めておりました。

 完全ではないものの、大分視界が遮られつつあり、早急に避難が必要、という状態です。とりあえず煙を吸い込まないように屈みましょう。

 隣の部屋からも、先ほどまで濡れ場?を演じていたアレンさんたちが飛び出してきました。


「!どうして!」


 ミレニアさんの口からも、驚き声が漏れています。

 彼女がこの現状に関わっている可能性は高そうなのですが、どうなのでしょうか?

 それでもこの事態は想定外、ということもあるかもしれません。要するに、誰かさんに裏切られ、嵌められた、という事ですね。


「何だ!お前たちは!」


 そして、よく見ると、廊下に黒装束の男たちが無言で立っており、殺気とともにこちらに近づいて来ていました。

 火事に紛れて刺客を送り、確実に私たちを始末する、という布陣ということなのでしょう。


「くっ!」


 アレンさんたちが応戦しますが、相手はかなりの手練れのようで、押され気味、しかも更に人を投入してくる、という大盤振る舞いで、非常に危機的状況です。

 非戦闘要員の私には何もできないのですが。ひとまず、姿勢を低く保ち、足を引っ張らないように、自分で動ける状態を維持します。

 ついでに、さらっと荷物を回収しました。もし実際に火事にあわれた際は、物をとらずに手ぶらで逃げましょう。お姉さんとの約束です。


「ひとまず、階段の方へ!早く!」


 どうにか刺客の一人を押し返し、距離をとったアレンさんが避難をただします。正直、こういう場合退路も断たれている可能性が高いので、望み薄ではありますが。

 階段へと駆け込み、いざ降ろうとすると、やはり眼前には同じように黒装束が姿を現し……。


「くっ、どうにか、外までの突破口を……。」


 お二人は武器を構え、どうにか突破口を、ということで私たちを挟んで応戦態勢をとられます。これは絶体絶命、という奴ですかね。

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