第8話 犯罪都市 シュバルツアンク③

 次の日の朝、宿の外、というより街全体が騒がしい雰囲気に包まれておりました。


「……一体どうしたっていうんだ?朝っぱらからなんか騒がしいな。」


 アレンさんたちも同意見ということで、ひとまず外にでて情報収集に勤しむことになりました。そして、騒がしさの爆心地を辿って行ってみると、それは昨晩訪ねた歓楽街のところに行き着きました。


「……なんだあれは?」


 そうクレイさんが指さす先には、布を被せられ、壁にもたれて路地に座り込む男性が一人。その周りをおそらく官憲、と盗賊ギルドの関係者らしき方々が囲んでおります。

 一応、警察組織も機能している、ということでしょうかね?ばっちり癒着している、というところがあからさまに示され過ぎている感もしますが。

 そして、壁の側に目を移すと、そこには血?と思しき赤い液体で描かれたと思われる文字が躍っておりました。


「”弑逆の罪は死をもって ―盗賊王―”、か。

今いちよく分からないが、盗賊ギルドの内部抗争なのか?」


 クレイさんはそう感想を漏らされました。

 確かに、”盗賊王”というのが、盗賊ギルドの、というより現体制を作り上げた方の事を指すであれば、そういうことになるのでしょうか。

 ただ、本人は既にお亡くなりになっているはずですので、当人が化けてでて殺した、というような事は無いと思いますが。死人を蘇らせる術というのは、寡聞にも聞いた事がありません。

 何らかの意図をもって名前を騙っているか、或いは関係者に対する警告・メッセ―ジの類といったところでしょう。弑逆という言葉が使われているのは、”盗賊王”はギルド内部の人間に殺された、ということを示唆しているのでしょうか。

 そんな感じで、遠目に観察をしながら考えを巡らせているクレイさんと私ですが、一方のアレンさんは目を伏せたまま、何か考え込んでおられるご様子です。何か思い当たることがあるのかもしれません。実は、”盗賊王”の縁者とお知り合い、とか。

 そんなこんなで、現場近くに佇んでいた私たちに、死体を囲んでいた方々の中の一人が近づいてきました。


「お前たち!処理の邪魔だからさっさと散れ!

冒険者と言えど、この街で勝手な真似をしたらただでは済まんぞ!」


 そう追い立てられた私たちは、他野次馬たちと一緒に、一旦その場を離れることにしました。


「何を受け取っていたのですか?」


 そう、私はクレイさんに問いかけました。

 先ほど、盗賊ギルドメンバーと思しき方が、私たちを追い払う最中に、紙のようなものをクレイさんのポケットに忍ばせているのが見てとれました。

 本人も気づいてはいらっしゃったのですが、まだ確認されていなかったようで……。


「そうだった。ちょっと待ってくれ。今から確認してみる。

……どれどれ、と。」


 そう言って、紙を取り出して広げると、中の文字を確認されます。


「……。うん。とりあえず昼頃に冒険者ギルドへ、という事だけだな。

十中八九ギルド違いの輩だろうから、中継して別の場所に案内される、ということになるのだとは思うが。

やはり、というか当然のように俺たちの出自も調査済みのようだな。」


 確かに、いるだけで目立たれるお二人のことですから、当然調査されますかね。そうでなくても、関所等とも連携してある程度街への出入りは監視されていそうです。


「まあ、あれこれ悩んでいても仕方無いから、早めに昼食をとってギルドへ向かうとしようか。」


 そうして、手頃な店を見つけ軽く昼食をとった(今回はパスタではありません)私たちは、再度冒険者ギルドへと足を運びました。


「お待ちしておりました。……さあ、こちらへ。」


 カウンターをしていた強面のお兄さんは、私たちの姿を確認するや否や、脇を通して奥へと誘いました。

 意を決し、奥へと進んだ私たちを出迎えたのは、顔の半分を隠した、あからさまに”盗賊”という感じの男でした。やや細身ながらも、鍛え抜かれた身体が見て取れ、油断ならない雰囲気を醸し出しています。


「……こっちだ。下は暗い。はぐれないようついて来い。」


 そう言って、屋敷の地下、というより地下迷路?とでも称した方が良いであろう場所へ誘います。

 因みに、迷宮と迷路は意味が異なり、迷宮は基本一本道ですので、今回は迷路が正しいはずです。

 恐らく、各要所を繋ぐ秘密の抜け道で、道を憶えて抜けない限りは中でのたれ死ぬというコンセプトでしょう。もしかしたら、日替わりで正解が変わる、というようなオプションもついているかもしれません。

 途中で先導をどうにかして逃げ出そうとしても、抜け出すのは困難を極めそうです。右手の法則、とかでなんとかなりませんかね?


「もう少しだ。余計な事は考えるなよ?別に取って食ったりはしない。」


 そんな思考を見透かしたのか、先導の男がこちらに声だけ向けます。


「そちらもな。流石に一回では道も覚えられないし、野郎の後ろを襲ったりはしないさ。

安心して下手な鼻歌でも披露しておくといい。」


 クレイさんの軽口に、先導は鼻を鳴らして答えます。


「ふん。中々の減らず口だ。

 ……おっと。残念ながら俺の名人芸を披露するのはまたの機会となりそうだ。」


 そういった視線の先にはわずかな扉の輪郭が見て取れます。先導はそれをスライドさせて開けると、中へと私たちを招き入れます。


「さっさと入りな。」


 二重扉の先は明かりのついた回廊となっており、その更に先に目的地となる部屋はありました。


「ここだ。中でお前たちに用のある御方がお待ちだ。せいぜい行儀よくしろよ?さもないと、明日には川でひと泳ぎする羽目になるかもしれん。」


「そしたら名人芸とやらを聞かせてくれ。

音から逃れるために這い上がってくる位の元気が湧いてくるかもしれんからな。」


 先導の無言の圧に催促され、私たちは中へと歩を進めました。

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