~第一章~ 犯罪都市 シュバルツアンク

第6話 犯罪都市 シュバルツアンク①

 皆さんこんにちは。お久しぶりです。勇者候補一行の記録係、リリシアです。

 突然ですが、私たちは犯罪都市と呼ばれる街、シュバルツアンクに来ております。

 この街は、国内外の物流の要所にあり非常に栄えておりますが、その名の示す通り、暴力・犯罪が蔓延るところでもあります。そのため、街には活力が満ちていますが、その担い手たちはどこか影を背負っているような印象を受けます。

 ――と、一般的に思われているイメージそのままでお話してしまいましたが、実際のところ、そこまで治安が悪い、という訳ではありません。

 この街を取り仕切っているのは領主や中央政府ではありません。しかし、盗賊ギルドが絶対的権力を握って統治を行っているため、きちんと場所代、みかじめ料を払ってさえいれば、逆に安心して商売が出来る、といわれています。

 犯罪に近しいものが仕切っているが故に、よそ者による跳梁は許さない、ということです。面子?というものもあるでしょうか。

 何故そんな統治が国から黙認されているか、といいますと、袖の下や利権で、という訳ではなく(勿論それもあると思いますが)、過去、他国から侵略を受けた際、英雄と讃えられた一人の盗賊が、ギルドのメンバー達とともにこの街にて籠城・防衛戦を行い、見事守り切った功績によるものと言われております。

 その後行われた交渉の結果、適正な量の税をきちんと国に納める代わりに、ギルドによる自治権を勝ち取ったという形です。

 荒れくれものをまとめ上げて戦力としたうえに、国とも交渉が出来るなんて、凄い方がいたものです。それが実際の出来事であったのなら、ですが。

 そんな街の中で、対照的とも言える光を背負った私たち一行――いえ、私以外のお二人は他から浮いて非常に目立っており、周囲の人間たちの視線を集めております。

服装は駆け出し冒険者相応ですが、お二人の顔立ちは高貴さが滲みでております。……フードとか被った方が良いのではないでしょうかね?この街の住人にとってみれば、まさに鴨がネギを背負って歩いているようなものかもしれません。

 とはいえ、いいとこのボンボンに見えても(というかそのものですが)、お二人はきちんとした冒険者ですので……。


「……おっと、とりあえずその手を放そうか?」


 そう言って、財布を掏ろうとした少年の手を掴むアレンさん。少年は財布を握ったまま必死に手を動かそうとしますが、微動たりともしません。

 暫くして、少年が諦めて手を開くと、アレンさんも手を放します。すると、舌打ちをして少年は逃げて行きました。

 失敗にめげず強く生きて下さいね。まずは外見に惑わされず、実力を見抜く目を養うのがよいと思います。まあ、私にも出来ませんし、そんな簡単に身につくものではないと思いますが。

 逃げて行った少年を特に気にすることもなく、アレンさんは私たちに提案します。


「とりあえず、腹ごしらえと行こうか?

リリシアのお陰で悪くない食生活を送れているが、あくまで旅食は旅食だからな。久しぶりに街の食事を堪能したい!」


 非戦闘要員の私でも出来ること、ということで、旅中は拙いながらも調理を担当させてもらっております。

 調理といっても、大した料理道具を持ち合わせていない旅途中においてできる事なんてたかが知れており、その辺に生えている野草やその日捕獲した動物、或は保存食などを適度に組み合わせ、どうにか形にしている程度です。

 調味料もふんだんに、とはいかず味は淡泊になりがちですので、街の味が恋しくなるのは仕方がないことでしょう。というより、私もそうです。私は街の出身ではありませんが。

 パスタにしよう。うん、パスタ。

 ということで、衆目を集めながら街の味(私は勿論パスタです)を堪能した私たちは、その足で冒険者ギルドへと顔を出しました。

 盗賊ギルドが絶対的な権力を持っているとはいえ、基本どこであっても外来種である冒険者の拠点となるギルドは、この街にもきちんと存在します。お互い不干渉を維持する、という形での共存となっておりますが。

 私たちもその外来種の一員ですので、ホームと呼べるのは冒険者ギルドしかないといえるでしょう。その中でも特に衆目を集める私たちですが、冒険者になるような人間には色々な過去がある、ということでそこまであからさまな視線は受けずに済みました。

 内部に掲示されている依頼を確認しましたが、あまりめぼしいものは無く(犯罪性の強そうな案件がたくさんありました。流石は犯罪都市です)、いくつか手紙を受け取っただけで後は宿探し、となりました。

 冒険者ギルドは、他組織と比べて他都市との交流もある程度ありますので、一部郵便局的な役割を担っている (依頼としてもそうですが、それ以外に各支部を拠点としている冒険者宛の届け物なども請け負っている)部分があります。私宛ての手紙は勿論ありませんでしたが、アレンさん、クレイさんは何点か受け取っておられました。 

 悔しくなんてないですよ?

 まあ、私宛てに来るとすれば祖父から位だと思いますが。それも、どこへ向かったのか知らせていない、知らせる術もないので望み薄です。

 宿探しは結構あっさりと完了し、無事に暖かい布団と食事を確保することに成功しました。

 ふかふかの高級羽毛布団とはいきませんが、旅具とは雲泥の差です。

 どうやら、アレンさんたちは以前にもこの町に来た事があるらしく、おおよその目星は最初からつけていた、とのことのようです。

 王子であるクレイさんはともかく、勇者(候補)であるアレンさんも縁があった、ということにちょっと吃驚です。どうやら、お二人が冒険者になってから、ということではなく、別々での訪問のようですので。清廉潔白?な勇者様と犯罪都市との繋がりが想像つきません。

 とはいえ、宿も結局アレンさんの方の案でした(クレイさんはやはり高級宿に宿泊されていたようで、駆け出しの冒険者である私たちにはちょっと……)ので、以前来られたことがある、というのは確かなようでした。

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