第1話ー⑦ 初任務 

 太陽が沈み、空が紺色に変わり始めた頃、キリヤたちは例の墓地に向かった。


「今回はどうするの?」


 キリヤは歩きながら、優香に作戦を問う。


「うーん。まだ考え中」

「そっか……」


 そしてキリヤたちが墓地の近くまで来ると、裕二の幻影が墓地を彷徨い始めているのが見えた。


「他の誰かが被害にあう前に、僕たちで対処しよう」


 キリヤはそう言って一歩踏み出そうとすると、優香がキリヤを静止する。


「待って、あれ! 誰か来る」


 優香の言葉を聞き、キリヤはその方へ顔を向けた。


 すると、数人の高校生が墓地に訪れていた。


 だらしなく着崩された制服を纏い、彼らはずかずかと墓地に入り込んでいる。


 その見た目から、素行の悪さがうかがえる。


「何しにこんなところに来たんだろう……」


 キリヤたちはその高校生たちの様子を伺うことにした。


 

 ***



「ここが噂の肝試しができる墓地だろ? お化けなんてそんなものいるわけねえのに、馬鹿が騒ぎ立てているらしいな」

「俺たちが最強ってところを見せつけてやろうぜ。お化けが出てきても、俺らの能力で一網打尽だぜ」


 高校生たちは墓地にずかずかと入り込み、その中心に立つ。


「何にもいねえな。やっぱりお化けなんて、嘘っぱちってこったな」

「ああ。でももしかしたら、俺らに怯えて逃げちまったのかもな! ははは!」


 高校生たちは余裕の表情を見せていたが――


「フフフフ……」


 突然の笑い声に驚いたのか、きょろきょろ周りを見る男子高校生たち。


「お前、変な声出すんじゃねえよ……」

「いや、俺じゃねえし!」

「じゃ、じゃあ誰が……?」


 一人の高校生が振り返ると、


「ボークーダーヨー!!」


 真っ白な顔をした子供の姿。


「う、うわあああ! 出たああああ!!」


 逃げ惑う高校生たち。そのまま彼らは墓地を後にした。



 ***



 一連の出来事をただ見ていたキリヤたち。


「さすがにあれは自業自得とも言えるわね」


 呆れた表情の優香。


 確かに優香のいう通りだなとキリヤも頷いた。


「今夜も事件は起こってしまったわけだけど……。解決まではまだ遠い道のりかもしれないわね」

「うん。でも早くなんとかしないと。今は驚かすだけで済んでいるけど、誰かが怪我とかすることになったら、大事になる」

「……そうね。早く解決しなくちゃ。でもどうしたら……」


 頭を悩ます優香。


 そして今日も事件を解決できないまま、キリヤたちは研究所に戻ったのだった。




 研究所の自室に戻ったキリヤは久しぶりにマリアの声が聞きたくなり、マリアに電話をかけた。


『もしもし。どうしたの、キリヤ?』

「久しぶり。どうってことはないけど、元気にしているかなって思って」

『元気。私もみんなも。最近、転入生たちとも打ち解けてきて、楽しくやってるよ。キリヤはお仕事の方はどう? 順調?』

「う、うん……。まあ。そこそこに……」


 本当は全く順調ではないけれど、さすがにそんなことは言えないなと思ったキリヤは言葉を濁した。


『……そう。無理せずに頑張って』


(なんとかごまかせたのかな)


「ありがとう、マリア」


『そういえば、言ってなかったけど、能力がなくなったよ』


 マリアからの唐突な告白に驚くキリヤ。


「そうなの!?」

『うん』


 マリアはとうとう普通の女の子になれたんだ――そう思ったキリヤの目頭は熱くなっていた。


 マリアは自分自身の能力でずっと悩んでいた。自分の能力で周りの人間を不幸にしてしまったとずっと自分を責めていたからだ。


 マリアにそんなことを思ってはいなかったけれど、マリアだけはずっと胸の中で抱えてきた問題だったはず……。でもマリアはその能力から、ようやく解放された。マリアの幸せをずっと願ってきたキリヤは、兄としてそれがとても嬉しかった。


 これからマリアはきっとこれまで以上に幸せになれる――。


「よかったね、マリア。本当に……」

『キリヤが私のお兄ちゃんでいてくれたから、私は頑張れた。ずっと好きでいてくれてありがとう。私もキリヤのこと、ずっと大好きでいるから』

「マリア……」


 キリヤはマリアのその言葉に涙ぐむ。


『泣かないでよ。もう大人なんだから』

「うん、そうだね……」


 そう言いながら鼻をすするキリヤ。


『じゃあもう切るよ? 明日も仕事でしょ?』

「うん。お兄ちゃん、頑張る! マリアのおかげで明日はうまくいく気がするよ!」

『それは良かった。じゃあ、おやすみなさい』


 そしてキリヤたちは通話を終えた。


「よし! 頑張るぞ!!」


 マリアと話して、キリヤはこれまで以上に気合を入れた。


 翌日。僕らは再びあの街へ。そしてこの日、大きな転機が起こる――。

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