第1話ー⑥ 初任務 

 少年の名前は『鎌ヶ谷かまがや裕二ゆうじ』。『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者なんだそう。そして優香の聞き込み情報は概ねあっていて、4人家族で裕二は小学3年生だった。


 優香の聞き込み能力のすごさを改めて思い知らされるキリヤ。


「ところでお兄さんはどこから来たの?」

「どこからか……。能力者の研究をしているところからかな。僕はそこで働いていて、今日はとある調査でここにきているんだよ」

「とある調査って……?」


 裕二はなんとなく状況を察したのか、表情が曇る。


「この辺で最近起こっている、怪奇現象の調査かな。この近所にある墓地で噂になっている……」

「……」


 黙り込む裕二。


「どうしたの?」


 キリヤは何も知らないふりをして、裕二にそう問いかけた。


「ううん。何でもない。……その事件の犯人を見つけたら、お兄さんはどうするの……?」


 裕二は恐る恐るキリヤに問う。


「どうする、か……。とりあえず今後はそんなことをしないようにちゃんと話し合うかな。逮捕したりそんなことはしないから安心して」


 キリヤは笑顔で裕二にそう告げる。


「……そっか」


 キリヤの言葉を聞いて、ほっと胸を撫でおろす裕二。


「まるで裕二のことみたいな反応だね?」


 キリヤは鎌をかけるように、笑顔で裕二にそう告げた。


 裕二がどんな反応をするのか、キリヤは試してみたくなったからだ。


 それを聞いた裕二は少し動揺をしているようだったけれど、それをごまかすように、作り笑顔でキリヤを見て答える。


「僕がそんなことできるわけないよ。僕、まだ小学3年生のおこちゃまなんだもの」

「そうだね」


 そんな裕二にキリヤも作り笑顔で返す。


「さあて、そろそろ夕飯の時間だし、僕はもう帰るね! お兄さん、お仕事頑張ってね!」


 そう言って、裕二は急ぎ足で帰っていった。


「ありがとう。今度は転ばないようにね!」


 キリヤの声が聞こえた裕二は右手を挙げて、振り返らずにそのまま走り去った。


「さすがに本当のことは言ってくれなかったか……」

「でもなかなかの成果だったと思うよ」


 そう言いながら、ベンチの裏から優香が現れる。


「優香!? どこ行ってたんだよ!」

「ちょっといろいろと買い物していたら、こんな時間にね! ごめん!」


 手を合わせて謝る優香。そしてその腕には服屋さんの紙袋。


「自分だけ楽しんでたんだ……」


 キリヤは口を尖らせながら優香にそう告げる。


「これは作戦のために必要な買い物で!」

「そうですかー。僕は一人で待っていたのに、優香さんは。へえ」

「だからごめんってば!!」


 本気で困る優香に、キリヤは思わず笑いがこみ上げる。


「あはは! あーごめんね。僕も言い過ぎたよ!」


 むくれる優香。


「覚えておきなさいよ……」


 これ以上優香をからかうと何をされるかわかったもんじゃないので、冗談はこの辺までにしておこう――そう思ったキリヤは気を取り直して、真面目な表情をする。


「そういえば、さっき裕二から聞いた話で、ヒントになったことがあるんだけど」

「ヒント?」


 首をかしげる優香。


「うん。なんであんな事件を起こすのか。その答えに近づいた気がする」

「わかった。じゃあそのヒントを聞かせて」


 そしてキリヤは裕二との会話の内容を優香に話した。


「なるほど……。母親を取られた嫉妬が原因の可能性ね……」


 優香は顎に指をあてて、考えているようだった。



「妹のこともお母さんのことも大切には思っているみたいだけど、でもやっぱりさみしい気持ちがないわけじゃないみたいなんだよね。裕二自身がそれに気が付いているかどうかはわからないけど」


「嫉妬の感情はあるけれど、そのはけ口が家族ではなく、外に向いてあの事件を起こしてしまっているわけね……」


「そう。だから裕二が自分の感情と向き合って、その感情の処理の仕方を考えないと、この事件は解決できないと思うんだ」


「……確かに。そうかもしれない」



 原因がわかっても、ここから先は裕二本人にしかどうにもできない。ここから僕たちはどうするべきか――キリヤはそう思いながら、顎に手を添えて考え込む。


 ――このまま何もせずにいるわけにはいかないよね。


「……キリヤ君はなかったの? 桑島さんに嫉妬してしまったこと」

「僕……?」


 キリヤは唐突な優香のその問いに、急には思い出せなかった。


 キリヤは顎に手を当てて考えてみるものの、マリアに嫉妬するなんて僕にはありえない――という答えしか出てこず……


「僕は――」

「ああ、ごめん。キリヤ君はシスコンだったよね。こんなこと聞いても、参考になる答えなんて出てこないことはなんとなくわかっていたけど……」


 悩むキリヤを見た優香は額に手を当てながら、落胆していた。


(シ、シスコン!? 確かにマリアのことは大事だって思うけど――)


 優香の発言に、なぜかやきもきするキリヤだった。


「とりあえずあの子がこれ以上事件を起こさないために、私達ができることを考えよう」

「そうだね」


 それからキリヤたちは怪奇現象が起きる時間まで、作戦会議をしながら公園で待つことにした。

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