第1話ー⑧ 初任務 

 キリヤがいつも以上に軽い足取りで歩いていていると、そんなキリヤに何かを察した優香は問いかける。


「何かあったの? なんだか嬉しそうだけど」

「実は昨日、マリアと電話してね。それで、マリアの能力が消失したって聞いてさ!」

「なるほど。それで朝から上機嫌なわけね」

「そういう事! だから今日こそ、この事件を解決しよう! きっと僕たちならできるよ!」


 意気揚々とそう告げるキリヤ。


「そうね、頼りにしてる」


 そう言って、微笑む優香。そしてキリヤたちは墓地へと向かった。


「今何時?」

「まだ14時ね。何か起こるにはまだ早い、かな」

「そうだね」

「とりあえず周辺の調査をしてみようよ。もしかしたら何かのヒントになるかもしれないよ?」


 そわそわしながら、そういう優香。


「またどこかにお買い物?」


 キリヤはそう言って優香に疑いの目を向けると、優香は弁解するように、


「きょ、今日はちゃんと働くから! ほら、行こう!」


 そう言って歩き出した。


 そしてキリヤたちは今日も別々で周辺の調査を行うことになった。




「調査って言っても何をすればいいのだろう」


 キリヤはそう思いつつ、最近毎日通っている児童公園に来ていた。


「時間までここにいよう。きっと優香はまたショッピングに行ったんだろうな。はあ」


(優等生だと思っていた優香への見方を変えなくちゃね)


 キリヤはそんなことを思いつつ、公園のベンチに腰を掛け、時間を潰すことにした。


 そしてキリヤは、昨日の話を思い出す。


「裕二は、どんな思いで家の手伝いをしているんだろう」


 母は幼い妹に付きっ切りで、さみしい思いをしているはずだ。それでも母には不満を言うこともなく、母が家事に追われて忙しい時は妹の面倒を見ている。本当は自分だって甘えたいはずなのに、その気持ちを押し殺しているわけだ――。


「僕は同じことがあった時、どうしたんだっけ……」


 考えてみたものの、やっぱり思い出せなかった。


 僕は裕二と違い、ずっとマリアのことが大好きだったのだろうか。いや、僕は――


 昔のことを思い出せそうだった時、泣きながら走り去る少年の姿が目に入った。


「あの子はこの間、裕二と一緒にいた子だ……。何かあったのかな」


 そしてキリヤはその少年を追った。


「待って!! ねえ!」


 キリヤは走る少年に声を掛ける。そしてキリヤの声に振り返る少年。すると、少年はキリヤの元へと駆け寄ってくる。


「助けて! 僕の友達が大変なんだ!!」


 その少年は目を潤ませながら、キリヤに訴えた。


「落ち着いて。いったい何があったの?」


 そしてキリヤはその少年から話しを聞いた。


「裕二が……!?」


 その少年の話によると、裕二は下校途中に高校生たちにからまれて、どこかへ連れていかれてしまったらしい。


「裕二がどこへ行ったかはわかるかい?」


 首を振る少年。


「お願い、裕二を助けて!!」


 少年はキリヤの腕をつかみ泣きながら、そう言った。


 ここまでお願いされたら、断る理由なんてない――。


「わかった。僕が必ず裕二を助けるから!」


 それからキリヤは少年と別れて、裕二を探し始める。しかし探すと言っても当てずっぽうというわけでもない。


「昨日、裕二に会っておいてよかった」


 キリヤは昨日、裕二の傷の手当をしたときに裕二の皮膚片を採取していた。そしてそれを元に自身の能力である『植物』を使って、裕二の居場所を特定しようというわけだ。


「実際にやったことはないけど、たぶんうまくいくはず……」


 キリヤは植物たちに裕二の細胞情報を共有すると、その情報から植物たちは近隣の細胞情報を伝達しあい、最終的に裕二の居場所を特定した。


「よし。わかった」


 キリヤは裕二の元へと走り出した。



 ***



 廃れた商店街の路地裏。そこには数人の高校生と裕二の姿があった。


「俺はなあ、昨日見たんだよ。お前があの墓地で怪奇事件を起こしてやがるな?」


 高校生の一人が裕二の胸倉をつかみながら、そう言った。


「ぼ、僕は、何も……」


 裕二は目をそらしながら、そう答える。


「今更、しらばっくれるのかあ? ああん?」

「俺らの能力を使えば、お前なんて簡単に殺せるんだぜ。素直に謝れば許してやる。でもまだ嘘をつくってんなら、ここで死ね」

「ぼ、僕は……」


 震えてうまく話せない裕二。


 なかなか謝らない裕二にいら立つ高校生たち。


「ちっ。殺してやる」


 胸倉をつかんでいた高校生はその手を離した。そしてその場に尻もちをつく裕二。


「俺の拳はダイヤモンド級の硬さなんだよ」


 そして右手が鉱石に覆われる高校生。


 それを見て怯えて後ずさりをする裕二。


「じゃあな、あばよ」


 高校生は鉱石化した右手を振りかざし、裕二に振り下ろす。


 とっさに目を閉じる裕二。


「あれ、痛くない……?」


 なかなか痛みが来ない状況に疑問を抱いた裕二は目を開く。


 するとそこには、微笑むキリヤの姿があった。


「よかった。間に合った!」


 そう言いながら、キリヤはゆっくりと裕二に向かって歩いてくる。


「お兄さん? なんで……? あれ、この人達は?」


 目の前で固まって動かない高校生を見ながら、裕二はキリヤに問いかけた。


「ちょっと凍ってもらってる」


 目を丸くする裕二。


「凍ってもらってるって……何が起こったの?」

「僕の能力で凍らせたんだ。大丈夫、命までは取ってないからね」


 そしてキリヤは尻もちをついた裕二の手を取り、高校生たちから距離を取った位置にまで連れて行くと指を鳴らした。


 すると、先ほどまで凍っていた高校生たちが動き始める。


「な、何が起こったんだ!? ってか誰だ、てめえ!」


 突然身体が凍ったことと目の前に現れたキリヤに驚く高校生たち。


「僕はこの子のお友達かな」


 そう言って微笑むキリヤ。


「さわやかに微笑んでんじゃねえ! なんかイケメン過ぎてムカつくぜ!!」

「どうやらこいつと一緒にてめえも死にてえみたいだな! お前なんて、俺の能力でイチコロだからな!! いいかあ、聞いて驚くなよ? 俺はなあ。なんだ! お前らなんて俺の能力の足元にも及ばねえよ! どうだ、ビビっただろう!!」


 高校生の話を聞いて、身体が震える裕二。


「A級クラス……。お兄さん、危険だよ! 僕のことはいいからお兄さんは逃げて!」


 裕二はキリヤにそう告げた。


 そんな裕二に優しく微笑み、キリヤは裕二の前に立つ。


「は。どうやら本当に死にたいようだな!」

「ねえ、さっき君はA級クラスっていったよね?」

「ああ。そうだ! 俺はA級だ!!」


 それを聞いたキリヤはとても冷たい笑顔を高校生一同に送る。


「そっか。……その程度で僕に勝てると思っているの?」

「ざけんじゃねえ!」


 向かってくる高校生。そして鉱石化した拳をキリヤに振るう。


 しかしその拳はキリヤに届くことはなかった。


「動かねえ……」


 身体が動かないことに動揺する高校生。


「動くはずないよ。だって、君はもう全身凍りついているんだから。口だけは動くようにしてあげているけどね?」

「は? そんなわけ! ……動け、動け!!」

「あ、無理に動くと、身体が壊れちゃうよ? そうしたら、凍結を解除しても元には戻れない。だから無理はしないほうがいい」


 キリヤは満面の笑みで高校生に告げる。


「そんな……」


 そして動きを止める高校生。それからキリヤは裕二に歩み寄る。


「じゃあ帰ろうか。お母さんもきっと待ってる」

「……うん」


 キリヤはその場を後にしようとした時、凍結している高校生たちに告げた。


「そうだ。聞いて驚かないでよ? 僕はね、なんだ。じゃあね」


 そしてキリヤと裕二はその場を後にした。


「は……S級クラス!? 嘘だろう!?」


 高校生たちはしばらくその場から動けなかった。

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