第1話ー⑤ 初任務 

 翌日、キリヤたちは再び同じ街にやってきた。


「今日こそ、解決できそうかな?」


 ゆめかはそう言いながら、笑顔でキリヤたちに問う。


「頑張ります……」


 鬼教官が出てくる前に、早く解決しなくては――キリヤは心の中でそう思ったのだった。


 そしてキリヤたちは再びあの墓地へと向かう――。




「じゃあ昨日と同じ時間に同じ場所で。頑張って!」


 そう言ってゆめかは研究所に戻っていった。


「よし、行こうか」


 キリヤたちは昨日訪れた墓地まで歩いて向かう。


「そういえば昨日、優香が何を見たのかを僕は結局聞けていないんだけど?」


 キリヤは歩きながら、優香に問う。



「あーそうだったね」


「僕がお化けに襲われているとき、優香は何を見ていたの?」


「あの子がどんな能力を使うかを見ていただけ。あのお化けは自ら生成しているのか、それとも幻を作り出しているのか」


「結局、どっちだったの?」


「幻だった。だからたぶんあの子は幻影使いなんだと思う。今まで誰にもばれずにあんなことができたのは、遠距離で幻を見せていたからってこと」


「やっぱりそうなんだ……」



 そして優香の顔は真剣になる。


「犯罪行為って初めてやる時は勇気がいるものなんだけど、何度も繰り返すうちに感覚がマヒして、それが当たり前になってしまったりするのね。だからあの子が道を踏み外さないように、早いうちにこの事件は解決しなくちゃいけない」

「そう、だね……」


 そう。それが僕たちの仕事だ。能力を持った子供が変な道に進まないように、その道しるべになるため、僕たちは活動しているんだ――。


 そう思ったキリヤは小さく頷いた。


「今日こそ、あの子にこの事件を止めさせないとね」

「うん。……でも止めさせるって言っても、どうするの優香? 簡単ではなさそうだけど」


 キリヤが困った顔でそう問うと、優香は笑顔で答える。


「まあ任せてよ」


 キリヤは優香の表情に首をかしげる。


 それから準備があると言って、優香はどこかへ行ってしまった。


 キリヤは時間を潰す為、近くの児童公園で優香の帰りを待った。


「一体、どこで何をしているんだろう……」


 そして優香は1時間経っても帰ってこなかった。


「はあ」


 ベンチに座っているキリヤは、静かに空を眺める。


「いい天気だな……。こんな日は施設の屋上でお昼寝すると気持ちがいいんだよね」


 そういえば施設のみんなは元気かな。卒業してからもう5か月か――。


 そう思い、あれから1度も施設に帰っていないことに気が付くキリヤ。


 訓練に追われているうちに、こんなに時間が経っていたなんてね。先生は元気にしているかな。まゆおと真一は仲良くできているかな。結衣は相変わらずアニメばっかり観ているのかな。そういえば、マリアは今年卒業の年だったよね。どんな進路に決めたんだろう。


 今日まで必死に働いてきたキリヤは施設にいたみんなの顔を久しぶりに思い出す。そしてかわいい妹の顔が頭をよぎった。


「マリアは僕と離れて、さみしがっていないかな……」


 キリヤは妹のマリアのことを思い出し、急にさみしい気持ちになる。


 こんなにマリアと会わないのは、初めてかもしれない――。


「はあ」


 そのさみしさから、ため息がこぼれるキリヤ。


 キリヤが一人、悲しみに暮れていると近くで子どもの声がした。


「もう下校の時間か。……それにしても優香はどこにいったのかな」


 キリヤはなかなか戻ってこない優香の行方が気になっていた。


 今頃、どこで何をしているんだろう。僕もついていけばよかったかな――。


「あ、あの子……」


 児童公園に一人の少年がやってきた。その少年はキリヤと優香が追っている幻影使いの少年だった。


「今日は一人なんだ」


 そしてその少年はしょんぼりとした表情で一人、ブランコに座っていた。


 その様子が気になったキリヤは、少年に声を掛ける。


「元気がないみたいだけど、どうしたの?」


 声を掛けた時にキリヤは気が付かなかったが、いきなり知らない大人が声をかけてくるというのは小学生からしたら恐怖の沙汰で――


「な、なんですか!? 僕を誘拐しても何もないですよ!」


 少年は怯えながら、キリヤにそう言った。


「ゆ、誘拐!? そんなつもりじゃ……」

「家もそんなにお金持ちじゃないし……それに、僕なんて誘拐してもお金になりません!!」

「だ、だから違うって!」


 キリヤは誘拐犯であることを全力で否定したが、少年には伝わらなかったようだ。少年は怪しい人間を見る、不信の眼差しをキリヤに向けていた。


「そんな目で見ないでくれよ……」


 昨日に続き、今日も怪しい人間と間違われたキリヤは、そう言いながら肩を落とした。


「じゃあ、僕はこれで――うわっ」


 少年は足早にその場を後にしようとするが、慌てて足がもつれ、派手に躓き、地面に思いっきり倒れこむ。


(かなり豪快に転んだけど、大丈夫かな……)


 キリヤはその少年をじっと見つめた。しかしなかなか起き上がらない少年のことが心配になったキリヤは急いで駆け寄る。


「ね、ねえ大丈夫!? 変なところぶつけてない? 意識はしっかりしてる??」


 すると少年は身体を起こし、涙目でキリヤに答える。


「大丈夫だもん。痛くなんて……うぅ……」


 少年の膝には擦り傷ができていた。


「わあ。痛そう……。ちょっと座って、すぐに治すから」


 キリヤは少年に近くのベンチへ座るよう言うと、少年は素直に従った。


 それからキリヤは少年の傷口に手をかざした。すると、先ほどまですり傷があったところは少しずつ治っていく。


「すごい……。お兄さん、何者?」

「別にすごくなんかないよ。……よし、これで塞がった。もう痛くないね?」


 少年は塞がった傷口を触ったり、膝を動かして確認すると、


「大丈夫みたい! ありがとう、お兄さん!」


 そう言って笑顔になった。


「やっと笑ってくれたね!」


 キリヤはようやく見られた少年の笑顔にほっとする。


 それからキリヤはベンチに座って、少年の話を聞いていた。

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