§9悪女になった私
そのまま朝を迎え、結局二人は同じ部屋で一夜を過ごした。肇は恐縮し続け、七海はその態度が
「七海さん、昨夜はゆっくり眠れたの?何か寝不足みたいね!」と言うのを、肇はにらみつけていた。七海は何もなかったと否定したものの、母親の
その日は肇の運転する車で、道内の観光を楽しんだ。函館までは距離があったが、七海はどうしても行きたいと彼に頼んで行った。五稜郭を見学した後、函館山の展望台にロープウェイで上って景色を堪能した。
「ここは夜景がきれいなんですよね!夜に来たかったな!」
「今日は無理だけど、また来ればいいよ!」と言われ、一緒にという意味なのか、別の機会にという意味なのか、私は訊き返す事はあえてしなかった。その代わりに、いたずら心がわいてきて、彼の手をそっと握ってみた。振り解かれると思ったが、意外にも握り返して来た。
「手をつなぐのも、初めてなの?肇さんの手は大きくて、温かいね!」
「中学校のフォークダンス以来かな。七海さんの手は、柔らかくて気持ちが良い!」
しばらく手をつないで歩いたが、思わせぶりな態度だったかと思って後悔した。
「女の子と手をつなぐのも、いいもんでしょ!肇さんはやさしいから、これからきっと素敵な女性が見つかりますよ。臆病にならず、いい恋をしてください!」
車の中での会話だったが、彼は黙って何かを考えているようだった。
その晩は部屋が用意されていて、七海はゆっくりと休む事ができた。肇が部屋を訪れる事もなく、温泉に
3日目は帰り支度を整え、肇の両親にお礼の挨拶をした。
「ぜひまた来てくださいね。冬には雪も積もって寒いけど、とても良いわよ!それとも、花嫁修業のつもりでアルバイトをしてもらっても良いわね。」
「はい、また来られたらですけど、その時はよろしくお願いします。」と社交辞令を述べてホテルを後にした。彼が札幌まで車で送ってくれ、夕方の飛行機の時間まで市内を見て廻った。驚いた事に彼が積極的に手を握って来て、少し薬が効き過ぎた事に後ろめたさを覚えた。彼は8月いっぱい実家に残り、夏休みで忙しい両親を手伝うという話だった。
「ありがとうございました、とても楽しかったです。東京に戻ったら、連絡してください。今度はわたしがお礼に、ごちそうしますから!」
「楽しんでくれて、良かった!僕も七海さんと一緒で楽しかった。」
彼は別れ難そうにしていたが、私はとっとと搭乗口に向かった。
七海は飛行機の中で、自分の行動を反省していた。告白されても付き合う気もないのに、彼の心をもてあそんだ自分を悪女になぞらえていた。このままでは嫌な女でしかなく、東京で会った時には、はっきりと気持ちを伝えて謝ろうと心に誓った。
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