第846話_付き添い指定
さて。製図の続きをしよう。再び道具と紙を広げて細かいところをちまちまと書き込む。
それから一時間くらい。製図が終わって立ち上がったら、リコットとルーイとラターシャの三人はネコを描いて遊んでいた。可愛すぎか? 三人の頭を順に撫でてから玄関を出る。
「こらー? どこ行くの?」
怒られちゃった。笑いながら振り返った。
「玄関先で工作しまーす」
「遠くに行ったら駄目だよー」
「あははは、ハーイ」
扱いがすっかりちいちゃい子供である。そして当然のようにカンナはついて来ていて、ぴったり傍に居る。厳戒態勢だ。
では早速、郵便受けの製作だ。鍵の部分以外は単純な作りの金属の箱だから、そう時間は掛からなかった。術も、魔法陣ではなく私の魔法石を組み込む形である為、魔力コストは高くとも作る時間は短く済む。そもそも既に沢山ストックを作っているから、私の感覚ではコストがゼロなんだよな。
「その内、カンナが魔法石の扱いを覚えてくれたら、助かるかもねぇ」
「魔法石の扱い、ですか」
前触れなく徐に呟くと、カンナはきょとんとしながら応える。君のその顔、可愛くて好き。
「エルフは私の魔法石を魔力源として扱えたからね。カンナなら同じことができると思う」
凝固状態を解除するのは小さな魔法陣で出来るし、魔法陣の勉強を進めているカンナならすぐに理解できるはず。
それにエルフが扱っていた魔法陣を使えば、解除者はその膨大な魔力を扱いやすくなる。そういう機能が組み込まれた魔法陣なのだ。だからエルフの長は一人でも私の魔法石を操れていたんだよね。何の補助もなければ流石の長命エルフでも、膨大な魔力を容易く制御なんてできない。
勿論、補助があって、カンナくらい魔力制御が上手でも苦労はするだろうけど。充分に可能な範囲じゃないかなぁ。
のんびりとそう説明している間、カンナが目をきらきらさせていた。やってみたいんだと思う。好奇心が瞳に表れていて可愛い。
「またちょっと落ち着いたらね」
「はい」
今すぐに魔法石を使ってほしい場所は無いから、試す場所が無いんだよな。魔法石一つ分の魔力って結構大きいし。
「でーきた」
雑談している間に郵便受けの細かい調整も終わった。完成した郵便受けを収納空間に放り込む。
よし。膝をポンと叩いて立ち上がって、自分の屋敷の玄関を潜った。
「私の可愛いリコ~」
「はいぃ?」
玄関扉を開くや否やそう呼んだら、珍しく
「もう、急に何なの、アキラちゃん」
「可愛いから一緒においで~。郵便受け、付けに行くよー」
「いや可愛いからって何。ていうかなんで名指し……まあいいや」
ぎゅっと眉を寄せながらもリコットは立ち上がった。来てくれるってさ。
工作とか工事の見学が一番好きなのはリコットだから、郵便受けの設置も見たいだろうと思っただけなんだけどね。あとリコットは
あまりにも愛おしいから近くに来たところで両腕を広げたが、叩き落とされた。しょんぼり。抱き締めたかった。
仕方ない、戯れていないで、お仕事をしましょう。
ルフィナとヘイディはまだ昇降機の方で作業をしているようだったから、直接向かう。
「今、何階に居るのかなぁ」
昇降機は頂上に無かった。ルフィナ達の居る階に停まっているのだろう。魔力探知で居場所を探せば転移で同じところに行けるし、私はそれでもいいけど。……村の人達は普段、どうやって彼女らを呼び出しているのかな。
「アキラ様、此方に何かございます」
「おお」
カンナに呼ばれて振り返ったら、昇降機の乗り口の脇に赤い色の紐がぶら下がっていた。多分呼び出しのベルだ!
「えーい」
「確認せずに引っ張るのどうかと思う」
リコットの指摘は尤もだ。もしこれが呼び出しベルではなくルフィナ達が使っている道具を稼働させるような紐だったら、大惨事だからね。
でも紐を掴んだ時にタグが『呼び出しベル』って出してくれたんだよ。だから容赦なく引っ張った。いや。出なくても引っ張ったと思う。呼び出しベルに違いないと思い込んでいた。今度からはちゃんと慎重に扱います。ごめんなさい。
カランカランという音が穴の下の方まで響いてから、一分後。昇降機が動き始めた。
「アキラ様でしたか。お待たせしてすみません」
「ううん。ベルを付けたんだね」
誰からも教えられていないのに無断で引っ張ったことは一旦黙っておく。ルフィナ達はそんなことを何も知らず、私の問いに苦笑しながら頷いた。
初日、日が暮れても帰って来なくて呼んでも声が届かず戻って来なくて、すっかり遅い帰宅となったところでモニカにこっぴどく叱られてしまったそうだ。対策が講じられるまで工事禁止と言われ、慌てて考えた手段らしい。
……そういうことも、私が最初から考えておけばよかったね。
しょんぼりしたら二人から慌てて「全てアキラ様に考えて頂くことではありません」「設計時には私達も居たんですから」とフォローされた。ありがとう。優しい。
「ところで……もう郵便受けが出来たんですか?」
「そう。だから設置しに来たよ~」
「鉄製でもあっという間ですね……」
飾り門と違って、簡単な造りだったからね。門の複雑な造りを思えば、脇に添えられる郵便受けももっと豪華にした方が良かったかもしれない。でも突貫で作ったから許してほしい。一応、正面にクヌギ公爵領の紋章を彫りはした。細やかなデコレーション。
「折角だから昇降機で降りるかぁ。五人なら乗れるし」
「はい、私が操作します」
みんなで乗り込んで、ヘイディの操作で一階に向かう。動き出す直前、リコットが私に寄り添ってきたから抱き締めておいた。
「抱き締めてほしいとは言ってない」
「初めて乗るから怖いかと思って」
実際少し怖くて寄り添ってきたのだろう。暴れるのも怖いとあってか、不満そうにしながらもじっとしている。可愛い。あんまり揶揄い過ぎても嫌われてしまいそうだから、背中をとんとんするだけにしておいた。
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