第812話_ラザニア
さておき、肉と米でお昼を作るぞ!
本日の昼の献立は米とビーフステーキと、メンチカツと、ラザニアです。スープは朝の残りで充分足りそう。
「サラダはみんなの方で、何か良い感じのやつにして~」
「あははは、せめてメイン教えて」
「それはそう」
何の意思疎通もせずサイドを決めさせるのは酷だよね。しかもラザニアを作ってあげるのは初めてだ。使う食材・調味料も含め、丁寧に説明した。
「板みたいなパスタって、そうやって使うんだ……?」
リコットは意見を求めるようにカンナを窺った。私にとってあのパスタはラザニアでしか使わないっていうかパスタの名前も『ラザニア』だったと思うが、この世界ではどうなんだろう。私もカンナの答えを待って彼女を見つめた。カンナは全員分の視線を受け止め、二回瞬きをする。それ癖かな。可愛いね。
「私が知るものは、食材を包んで煮るような調理が多かったかと」
「ほう」
茹でて柔らかくしたら、確かに、ギョーザの皮みたいに色々と包めるもんな。以前カンナが食べたのは、細かく刻んだ肉や野菜を包み、そのままスープに沈めて煮込んだものだったらしい。それも美味しそう。
「ま、とりあえずその『ラザニア』は楽しみにするとして。私らはサラダ作ろっかー」
いつものようにリコットが仕切り直してくれた。ありがとう。
「味の濃いものが多そうだから、さっぱりしたフルーツドレッシングにしよっか」
「いいねー」
ラターシャの案にみんなが頷き、調理に取り掛かってくれる。フルーツドレッシングいいね。楽しみ。さっぱり風味なら、酸味のある果物を使うのかな。メインと合いそうだ。
女の子達の心配をする必要は全く無いようなので、私は早速、ラザニアに使うミートソースの調理に入った。
「お肉めちゃくちゃいい匂いする~」
「ふふ。ナディアの尻尾がずっと上を向いてるね」
ミンチを炒めていると聞こえてきた声。反射的に振り向いたら、確かに高い位置にナディアの尻尾が見えた。しかし即座に彼女自身が回収して、エプロンの中に押し込んでいた。
「……しまっておくわ」
「可愛いのに~」
と言えば、何故か睨まれてしまう私。最初に尻尾を指摘したのはラターシャなのにねぇ。いつものことだから、まあいいか。お肉が好きなナディアをがっかりさせないように、美味しいミートソースを作りましょう。
そうして出来上がった本日のランチ。繰り返すがこれはランチです。私が肉の気分だったからステーキもあるだけ。お米も沢山炊いた。大盛りだ。
食欲旺盛な私はサラダとスープをちょっと口にしたらすぐに米とステーキを頬張っていたんだけど。女の子達は、未知のラザニアなる食べ物に手を伸ばしていた。
「美味しい! 味がいっぱいあってなんか面白い~」
「食感も楽しいね」
きゃっきゃと感想を伝え合う女の子達が居ると、ごはんが一層美味しいねぇ。
「ナディアお姉ちゃんが好きそうな味だね」
「……そうね、好きだわ」
お肉っぽさもあるし、チーズもたっぷりだもんね。話し掛けられるまで黙々と食べていたので本当に気に入ってくれたみたいだ。可愛い。他のみんなも喜んでくれているようだし、また作ろう。
「は~満腹。満足。おやすみなさい」
「また寝るんだ……」
「これでアキラちゃん全く太らないんだよね。怖い」
女の子達を想う熱い心で脂肪が燃焼してるんだと思う。嘘です。口にはしなかった。笑ってくれるかも怪しい軽口だったので。あと、満腹感のせいかとても眠い。最近ずっと寝てるなぁ。うとうと。
「雨は上がりそうだけれど……あなたはまだ眠いのね」
「んぁ……」
そういえば私、晴れたら午後は買い物に行くって言ってなかったか? 何故寝ようとしているんだ……でも、眠い……。返事もできずにカウチに沈んでいると、ゆったりとした足音が近付く。
「眠いならそのまま寝てなさい。スラン村に行くのはまだ先なのだから」
「んー……」
生返事になるのは、力が出ないからであってちゃんと聞こえてはいる。ナディアの手が頭を撫でてくれた。嬉しい。
「買い物は、明日でいいやぁ……」
「うんうん、今日はゆっくりしよ」
いつの間にかリコットも近くに来ていたみたいで、声が近かった。改めて私も頷いた……気がするけれど。ちゃんと動かなかったかも。すぐに眠ってしまい、おやつの時間が過ぎるまでそのまま爆睡。
起きた後もひたすらにダラダラしただけで、結局この日は何にもしない一日になりました。
偶にはこんな日もいいよね。休もうと意識しても動いちゃうこの身体が動かそうとしても動かない日は、多分本当に休んだ方が良いんだと思う。
そうしてゆっくりできたお陰か、翌日には元気いっぱい。空も、すっかり雨の気配が遠のいて快晴だ。
宣言通り、買い物へ行こう。
「そういえば石材って、どうなったの?」
お出掛けの支度中、リコットが問い掛けてくる。でもカンナに髪の毛を結い上げてもらっていた為、振り返れない。声だけで応えた。
「まだちょっと保留。検討するルフィナ達が私のせいで忙しいから」
「あぁ……」
無理のない範囲でと告げておいたものの、あの働き者達はきっと今も昇降機を使って工事を進めているのだと思う。ただ、次に私達が訪ねる日までには決定しておくとモニカが言っていたから、そう長い保留ではない。
「でも昇降機とトンネルの壁には私の石材が必要だからね、全面を整備するほどの数はまだ渡してないから、それは少なくとも作らないと」
暇を見て生成して溜め込んではいるが。まだまだ足りないのだ。
「アキラちゃんって、ずっと忙しいね」
「ははは」
笑うだけで流しておいた。本当、ルフィナ達のことは言えないね。全部自分で言い出したことによる忙しさなのが一番のツッコミポイントです。女の子達の呆れた視線にも、気付かない振りをした。
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