第803話_ジオレン帰還
「次は七日後に来るね~。穴の工事をするなとは言わないけど、まあ、程々にしておいてよ」
朝食後、見送りに来てくれたモニカ達に告げる。
昨日も不調を見せた私がどの立場で……という目が女の子達から向けられているのは知っていたが、スラン村に昨夜の件は内緒だから。知らぬ振りを貫き通し、明るい笑顔でジオレンのアパートに転移した。
「あ、そうだ。私の可愛い子供達~、暇な時間で、サラとロゼを見に行ってもらっていい?」
「うん、分かった。また後で行ってくるね」
「アキラちゃん『の』子供達って、語弊……」
末っ子がすんなり頷いてくれる横で、ラターシャが苦笑している。どうしてだろう。『私の子供達』で間違いないのに。でも首を傾ける私に誰も構ってくれなかったから諦めた。
とにかく女の子達から預かっていた荷物を指示通りの場所に出して、私は工作部屋に向かう。するとリコットがパッと勢いよく此方を振り返った。
「こらーアキラちゃん、作業しちゃダメだよ」
「あはは。荷物出すだけ。作業しないよ」
「そう? ならいいけど……」
厳戒態勢だなぁ。
ちらちら見られているのを感じつつ、工作部屋に入り込む。荷物と言っても、愛用の工具を入れている箱を出すだけだし一瞬で済んだ。うーん、ついでに彫刻板用の木材でも出すか。彫刻板として準備するには大きさの調整とか色々必要だけど、それは魔法を使う作業だから後回しかな。出すだけ、と板を並べていたら、ひょいと部屋を覗いてきたリコットに「コラッ」と言われた。言い方が可愛くて笑っちゃった。
「出してるだけだよ。彫刻板の準備は明日以降にするね、ごめんね」
「む。一式だけ作って」
「リコット」
「うそです。明日以降で良いです」
「はは!」
彫刻板の場合だけガードが緩んじゃうリコットがあまりに可愛いし、即座にナディアから注意されていて可愛い。
ナディアは短く溜息を零して「アキラが良いなら良いわ」と引き下がり、リコットの肩をぽんと叩いた。リコットは苦笑いで肩を竦めていた。仲良しだね。
「みんなの監視下で数枚だけ用意するよ、後でね。今はちょっと休憩するー」
板だけ並べたら、そのままリビングに戻る。カンナが心配そうに工作部屋の前に居た。大丈夫だよ、これからのんびりするよ。私はカウチに座って窓の外を眺めることにした。
「アキラ様、郵便物を持って参りました。ご確認なさいますか?」
「するー」
私が腰を落ち着けたのを見守った後、カンナは一階の郵便ポストを見に行ってくれた。私宛に何か来ていたみたい。三通の封筒。
私の言葉に頷いたカンナは、それらを手渡す前に封を切り、封筒の中や紙の間に危険物が無いことをサッと確認した。でも手紙の内容は見ず、裏返した状態で行っている。器用だよね。
実は、危ないものが入っていないことはタグで分かっている。それでも私はいつも、カンナのしたいようにさせていた。カンナが安心できるのが一番だからね。あと、他の女の子達が毎回カンナの手元をじっと見ているのも可愛いんだよね。こういう処理が見慣れないからだと思う。
「私は実家でもチェックはあったからなぁ、気にならないよ」
チェック済みの手紙をカンナから受け取りながら呟く。女の子達がみんな手も足も止めてこっちを見ていた為、大丈夫だよってつもりで伝えた。カンナは注目されていることにとうに気付いていたようだし、特に反応を示さない。
一方で女の子達は、少しバツが悪そうに視線を泳がせた。
「カンナがその作業にすごく手慣れてて面白いんだよね、どうしても見ちゃう」
それは私もちょっと分かる。職人っぽいよね。彼女のお茶淹れも目を奪われてしまう時があるから、そういう感じ。
「んー、返事は明日以降にする。机に置いといて」
「畏まりました」
一通ずつ目を通して、全部カンナに預けておく。カンナが向こうに持っていく時、ナディア達は少しそれを気にするように目を向けていた。
「別に読んでもいいよ、十八歳以上なら~」
「……やめておくわ」
ナディアが項垂れた。うん、ちょっと大人のアピールありのラブレターが混ざってるのでね。気にはなっても、見たくはないらしい。
「ジオレンに来て長いけど、夜遊びはそんなにしてなかったのに……」
「もう何通目?」
「十三!」
なんで数えてるんだうちの末っ子は。っていうか、十三通も貰ったっけ?
「いや、それ私宛の手紙を全部ラブレター換算してない? そういうのばっかりじゃないよ」
笑いながら返すと、女の子達の目が真ん丸になっていた。いや。みんなそう思ってたの?
「他にどんなのが来てるの?」
私が腰掛けているカウチに、リコットも腰掛けながら聞いてくる。そんなに気になることだろうか。
「お店でやる催し物のお知らせだね」
私の世界でもよくあるダイレクトメールとか、特売チラシみたいなやつ。
「どういうお店?」
「えー、普通に、よく行く雑貨店とか、ワインのお店、飲食店と……娼館」
最後の言葉に反応した女の子達が、じっと此方を見つめてくる。い、いや、別にやましいことはない。夜に知り合った女の子達に「その内遊びに行くね~」と伝えているので、「催し物があるけど来る~?」みたいなお誘いが来ているだけだ。今のところその誘いに乗ったことも無い。
「それはラブレターじゃないんだ?」
「いやいや、お店側のそういう担当者が一括で出してるものだよ、こういうのは」
出会った女の子達みんなに住所を伝えているわけじゃないし、ダイレクトメールは全部、冒険者ギルド経由で送られてきている。しかし冒険者ギルド所属だとも伝えてない為、おそらく商業用の手紙なんかは色んなギルドにまとめて渡して、「そんな人は居ません」と返されることが前提の、『届けばラッキー』でやっているんだろう。冒険者ギルドからはきっちり受け取り可否の確認はされていて、あからさまに怪しい店以外、私が許可しているから届いているだけ。
その辺りを説明していると、女の子達が何故かカウチの傍に椅子を引っ張ってこようとしていた。笑いながら促して全員でソファに移動する。
さてはみんな私のことが大好きだな? いつも私の近くに集まっちゃうんだから~。……とか、口にしたら即解散になるって分かっていたので、余計なことは言わないようにした。
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