第781話

 一度全員で村に戻って、完成お披露目を呼び掛けてみる。するとお留守番していたナディアとルーイも含め、全員が来ることになった。

「ねえ、すごいね! デザイン画よりずっと格好いい!」

「そうね」

 初めて見たルーイが門前で大喜びしていて、ナディアが嬉しそうに頷いている。

 いつになくデレデレだな。今日ずっと二人で居たから、長女様の表情筋が緩んでいるらしい。リコットも気付いていて、笑いを噛み殺しているのが見て取れた。

 さておき村のみんなも、口々に喜びの感想を伝えてくれていた。嬉しいのは、もうすっかり私の方だね。

 また、ちょうど全員が揃っているので、鍵の開け閉めについても説明し、実際に使ってもらう。初回はみんな戸惑っていたが、手間取ることは無く、特に疑問の声などはなかった。ひと安心だ。説明プレートも要らなさそう。

「――じゃあ送るよ? いいね?」

「ええ。お願いいたします」

 スラン村へみんなを連れ戻った後に最初にしたことは、モニカがしたためた手紙を、王様に送り付けること。『至急オルソン伯爵へ届けて』というメモ付きで。

 手紙の内容は、十日後から三日間、毎日午前十時にスラン村の門に下りるから、来られるなら会いに来てほしいということ。

 難しければ王様経由でまた来られる時期を連絡してもらって、私の方で勝手に予定を決めてしまうことにする。基本は私の都合次第だからな。

 ただモニカの見立てでは、指定の初日にオルソン伯爵は来てくれるはずだと言う。

「アキラ様にもオルソン伯爵にもご負担をお掛けする内容で、申し訳なくは思っておりますが……」

「いやぁ。風鳩の件は私の望みだし、モニカに会いたいのはオルソン伯爵の望みだよ」

 モニカの委任状を持った従者でも良いなら、今回のような措置は必要なかった。村の誰かをこっそり転移して連れて行き、後のことは任せ、私は彼女らが風鳩の卵などを持って来たところを回収して転移で戻るだけ――という手も取れるのだから。

 でもモニカが直接赴くとなると、同じ方法は取れない。モニカを護衛なしで歩かせるわけにはいかないけど、ケイトラントは目立つから連れて行くのが難しくて、カンナは私の侍女なので貸したくない。……最後だけただの感情になったけど、モニカ達も恐縮するだろうから、いい案でないのは確かだ。

 となると今回、私やオルソン伯爵が負うべき負担は仕方がないものだ。私は勿論のこと、オルソン伯爵も文句など無いはず。伯爵領は此処から目と鼻の先だし、移動に一日も掛からない。十日以内に準備してくれれば、まず問題なく会えるだろう。

「あー」

 もう一つ、必要な準備があった。モニカの方はおそらく分かっていなくて、私から向けられた視線に、たおやかに首を傾けている。

「服、新しいものをまた用意しようか。ユリアとライラの分も」

 従者のユリアとライラが同時に頷く横で、モニカは王様謁見の時を思い出したのか、複雑そうに笑う。仕方ないよね。従者にも見栄と意地があるからさ。モニカもそれを理解しているから、この二人の訴えに毎回負けてしまうんだろうな。

 今後も見据えてとりあえず三種類ほど見繕って買ってこよう。カンナの侍女服をオーダーした店なら、既製品でも今のモニカを少し飾るには丁度いい品が手に入るはず。ちょっと飾りすぎたとしても、オルソン伯爵を過度に心配させない意図と思えば、今回は別に問題ない。

「アキラ様にお任せいたしますが……支払いは我々が行います」

 私は肩を竦めた。今回も私の用事だから、別にプレゼントしても良いけどね。とは思ったんだけど。オルソン伯爵に会いたいという気持ちがモニカにもあるんだろう。了承の意味で頷いた。

「分かった。ちゃんと領収書をもらってくるよ」

 なお、ユリアとライラの服は一種類で良いって訂正されてしまう。それもそうか。従者が毎回装いを変えているのは逆に違和感かも。季節が変わった場合を除く。

「うーん。買い物は……カンナに任せようかな?」

「はい」

 振り返ったらカンナがぴっと背筋を伸ばしていて可愛かった。でもデレデレしていたら話が進まないので、キリッと顔を引き締める。しかしふと女の子達の方を見れば、リコットが少し視線を逸らし、笑いを堪えているようだった。……何故バレているんだ。小さく咳払いを一つ。

「あー、私の見張りは誰でもいいや。カンナの買い物に付き合ってくれる子も、一人以上お願い」

 とりあえず話を進めよう。私は明日も掘削と簡易昇降機の為に、村に残って作業を続けたい。買い物はカンナに一任するけれど。たった一人でジオレンに帰したくはない。カンナは気にしないかもしれないが、寂しいのではないだろうかと私が心配になってしまうのでね。だけど女の子達が私から目を離してくれるとは思えない。よって、見張りも必要だ。

 という諸々を考慮して、みんなが何処に行って何処に残るかを相談して決めて下さい。私の説明に女の子達は色々言いたいことがある顔はしたものの、何も言わずに相談し合って、即座に決めてくれた。

 私の付き添いはナディアが一人。残りは全員、一度アパートに戻るとのこと。

 ついでに追加で荷物を取ってくるらしい。なるほど。そういえばもう三日以上になるから荷物の追加も必要だったね。

 なら、サラとロゼと、あとマリコの様子も見ておいてほしいですとお願いした。三日程度じゃマリコの水も追加はしなくていいとは思うんだけど、寂しがっているかもしれないから……。

 大真面目にそう伝えたんだけど。ナディアからは「話し掛けてくる変人が居なくてホッとしているでしょう」と言われた。酷いよ。私はただ毎日マリコを愛でているだけなのに。

「明日の予定はそんな感じで。今日はルフィナ達もゆっくり休んで」

 気になることは色々あるものの。モニカの屋敷で騒ぐほどのことではないので話を締めくくる。

 そして私は、縦穴の掘削作業に戻るのであった。

 だってまだ日は暮れていないからね。みんなには「ゆっくり休んで」と言い含めた足で村の外へと向かう私に、幾つかの呆れた視線が向けられていた。

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