第771話
次は内側から門扉を閉じて確認していると、取っ手の近くに付いているレバーを見つめながらカンナが首を傾ける。
「アキラ様、こちらのレバーは、解錠と施錠を操作するものでしょうか?」
「いや、施錠だけ」
試しにレバーを下げてみる。ガチャンと内部から音が鳴り、門が施錠された。押しても引いても開きません。そしてレバーを引き上げるように力を入れるが――レバーは上がらない。これは手動では下げることしか出来ないレバーだ。
「格子型だからね。このレバーで解錠できちゃうと、鍵が無くても開けられちゃう」
腕を突っ込んでしまえば手探りで開けられてしまう。カンナが用途を尋ねたのも、その懸念のせいだと思う。だからこのレバーは施錠としか連動していなくて、例え強引な力でレバーを無理やり上げたとしても、解錠はされない。内側からも解錠には魔法の鍵が必要になる仕組みだ。当然ちゃんと鍵穴もある。レバーの隣にある穴に、鍵を挿し込んだ。自動でレバーが上に移動し、門の鍵が開く。
「説明用のプレートでも付けようかな? みんなすぐ覚えてくれるとは思うけど」
ガチャガチャと鍵を開けたり閉めたりして遊びながら呟く。
ちなみに鍵の内部魔力は沢山使っても減らない。これは鍵を持っている人の余剰魔力をちょっと借りて開けており、中に仕込んだ魔法石の魔力ではない。
鍵を開ける処理にはほとんど魔力が要らないんだよね。だから余剰魔力を少し貰うだけで充分。
「必要であればルフィナさん達が対応するでしょう。もしも難しいと感じれば、アキラ様へ改めて依頼をなさることと思います」
「ふむ。それもそうか」
私があんまりにも率先して動いていると気を遣ってくれる人達ばかりだからね。これはお願いされてから動くことにしよう。
「じゃ、残りの鍵を鋳造するかぁ」
門を開け放ち、テーブルに戻る。カンナは新しいお茶を淹れるべく準備を始めてくれた。茶葉を取り出す際に微かに漂う香りが好き。
「……魔法を解析して、合い鍵を作られてしまう可能性は無いのでしょうか? 今更な質問で申し訳ございません」
手は止めないままで、カンナが呟く。私は笑いながら首を振った。気になったらその都度、聞いてくれていいよ。大事なことだ。
「いや、合い鍵は私にしか作れないね。解錠には『魔力の質』の一致が条件になるから」
内部に複雑な術を入れ、『術式』の一致も条件にはしてある。でも本命は鍵と錠前それぞれに仕込んだ魔法石同士の、魔力の質の一致の方だ。
指紋のように、全く同じ魔力の質を持つ人間は存在しない。魔法陣を二人以上で発動する時にも少し触れたね。質を一致させることが出来ないから、複数人で発動するには魔力を融合しなきゃいけないって。
特に私の場合は全属性への適性もあるから、各属性の適性者を連れてきて融合して私と全く同じ質を作り上げるところまで必要になる。いや、こんな措置を取ったとしても同じ質を作れる可能性はゼロだけど。
そう説明すると、納得した様子でカンナは頷き、お茶を淹れる手付きにも迷いが無くなった。不安が解消されたようだ。
満足して私も頷く。しかし、少し経った後。「うーん」と唸ったのは私だった。
「何か気になることがございましたか?」
丁度お茶を淹れ終えたカンナが、私の傍にカップを置きながら尋ねてくれる。私はぼんやりと洞穴の出入口を見つめ、首を傾けた。
「貴族邸の門だと思うと、灯りが無いなって思ったんだけど……あったら逆に困るね?」
カンナは私に倣って洞穴の方へと目をやった。
「……村の者以外が出入りする場所ではございませんから、私も、不要と思います」
「だよねぇ」
スラン村の人がこんなところを深夜に出入りしたがるとは思えないし、緊急時なら自分達でランタンないし照明魔道具を持ってくるはず。
今は木々で隠している街道も、この場所が完成した暁には取り払うから、入口は何処だっけ~とはならない。やっぱり、敢えて目立たせる為の灯りは必要ないな。深夜はむしろ誰も近付いてこないよう、不気味に見える入口であるべきだ。
うんうん。深く頷いて、改めて鍵の鋳造に集中した。
私の方の作業は割とすぐに完了し、細かい作業なので目がしょぼしょぼしていたものの、身体は元気なままだ。大きく伸びをして立ち上がる。
「何か手伝うー?」
つまり手持ち無沙汰なのである。中で作業しているみんなに声を掛けた。ルフィナ達は目を丸め、ちょっと戸惑っていた。
「単純作業しかないのですが……」
「いいよ~」
既に完成している部分の掃除とコーティングを依頼されました。お安い御用だ。
というか、私が手伝える時にコーティング作業に入ってくれて良かった。コーティング剤の匂いがみんなに掛からないように、風魔法で調整しながらの作業とします。
今はまだ浅い洞穴であるものの、掘削中に空気穴用の小さな横穴はちゃんと整備してある。だから例え扉を閉ざした後でも風は通っていて、酸欠になることはない。それでも薬剤の空気は一刻も早く流すに限るのだ。健康被害に注意し過ぎと言うことは無いと思うので。
「アキラ様、私もお手伝い致します」
「大丈夫~。傍で見てて~」
「……はい」
カンナがしょんぼりしちゃった。仕方ない。拭き掃除用の雑巾を濡らしてきてもらう等の小さな作業は依頼した。しかしそれだけで満足してくれる子でもない。ちょっと寂しそうにしている。でもなぁ。横目でその様子を窺っていたら、同じく窺っていたらしいケイトラントが溜息を零す。
「ちょっとくらい手伝わせてやってもいいだろう。石を布で磨く程度、誰にでもできる」
「作業に夢中になって私のこと見てくれなくなったら困るでしょ!」
勢いよく噛み付く私にケイトラントは少し面食らった顔をしたものの。一秒後には呆れた顔になっていた。
「何に困るんだ」
「私のやる気に直結します!」
「ああ……それは困るかもしれないな」
ルフィナ達が堪らない様子で笑っていて「手が震えて作業できない」と訴えてくるが、大事なことだぞ、何を笑ってるんだ!
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