第770話
そう意気込んでいたものの。
今回の装飾柱がシンプルなせいか余計にちょっとした歪みが気になり、仕上げ中に何度も手直しをしてしまった。その為、ルフィナ達がお昼ご飯の為に出てきても、私はまだ作業をしていた。今は仕上げ用のコーティング剤を塗布している。匂いがそちらに行かないよう、結界で覆った。
「こうして見ていると本当に、同業者のようですね……」
「姉さん、失礼」
口元が緩む。一生懸命に作業をしているところなので、笑わせないでほしい。
しかし今は魔法などで横着せず、この身一つで頑張っているからそう見えるのも分らなくはなかった。コーティング剤が均一になるように、かつ塗り残しの無いように。……『この身一つ』は過言だったな。身体強化魔法は使っています。これ結構、力仕事だから。よいしょ、よいしょ。
「できたぁ~、はぁ、ヘトヘト」
「お疲れ様です。綺麗に塗れていますね」
食事をしながら私の作業を見学していたみんなが口々に労ってくれた。ありがとう。私は手を洗うついでに顔も洗ってスッキリしてから昼休憩とする。
「昨日も思ったが、お前はよく食うな……何処に行くんだそれは」
「どこだろうねぇ」
今更な気がしたものの。そういえばスラン村のみんなの前で目立って大量に食べたこと、まだ無かったっけ。疑問を呈したケイトラントだけじゃなく、ルフィナ達も若干引いた顔で私を見ていた。
「元の世界でも沢山食べてたし、体質かも?」
「……燃費が悪そうな身体だな」
「失礼な! でも、ごもっとも!」
みんなより摂取すべきエネルギーが多いんだから、燃費が悪いは大正解ですね。本当にね。
私より何十倍も身体能力の高いケイトラントの方がずっと食事量が少ないんだから、めちゃくちゃ燃費いいんだよな。羨ましい。
「私が沢山食べるほど、家族とか、家政婦さんが喜んだから。徐々に増えちゃったんだよねぇ」
体質なのも間違いないと思う。ただ、小さい頃はここまで異常な食事量じゃなかった。そう語る私に、ケイトラントがくつくつと肩を震わせて笑う。
「お前も素直で可愛い頃があったんじゃないか」
「今も素直で可愛いですが?」
「よく言う」
大真面目に返答したのに、ルフィナ達には笑われてしまった。おかしいな。私は今も素直だし可愛いはずなんだけどな。
ちなみに食欲の異常さについて、かなり過保護に精密検査を受けたこともあったが、全く異常などない健康体です。喜んでもらうべく沢山食べたら心配させちゃったという愛らしくも悲しいエピソード。
「私の女の子達は、ちゃんと食べてるかなぁ」
ルフィナ達が先に食事を終え、テーブルにはカンナと私だけ。徐にぽつりと呟いたら、カンナは何度か目を瞬いた後で、目尻を微かに緩めた。
「ルーイやラターシャがおりますから。ナディアとリコットが横着をすることはありません」
「そりゃそうだ」
子供達がお腹を空かせたら切ないもんな。姉達が、しっかり昼食を取らせるはず。
ちなみに私達のお弁当の残り物もちょっと置いてきた。一緒に食べてくれたら嬉しいな。自分のお腹が満たされるほどに、スラン村の女の子達に想いを馳せる私です。
なお、装飾柱の仕上げで疲れてしまった私は、少し長めに昼休憩を取った。食後のお茶も二杯飲んだ。
次の仕事は、装飾柱を内部に設置――だけど、多分またルフィナかヘイディにモルタルを使ってもらわなきゃいけないよね。
「おーい。柱の設置したいんだけど、此処は歩いて大丈夫?」
「はい、中へどうぞ」
あっさりと了承を得て中に入る。そういえばみんなももう自由に出入りしてたっけ。足場は乾いているらしい。
「内部の柱ですね。私が対応します」
またヘイディが来てくれた。足場を心配して俯いていた私は彼女の声でようやく顔を上げ、目を瞬く。なんと、もう左右の壁が突き当たりまで全て設置し終わっている。
今は、突き当たり近くの床に石材を敷き詰めていた。つまり、『重めの接合剤』を使っている最中だから、柱用のモルタルも同じものを使えるらしい。すぐさま作業に取り掛かってくれた。今回もあっという間に装飾柱の設置が完了だ。
「おお~、あるべき場所に収まるだけで、まるで印象が違うねぇ」
「此処だけ見れば本当に、宮殿のようですね」
天井と床にはまだ土が残っている部分が目立つものの、柱周りは先にやってくれているので此処だけを切り取れば本当に立派な建造物である。対応してくれたヘイディにお礼を言って、私はまた洞穴を出た。
「じゃあ、次は
出入口の柱に使ったモルタルはもうすっかり乾いているだろうが、念の為、結界で装飾柱を支えた状態で設置しよう。
蝶番は柱を作った時点で柱側に取り付けてあるので門の方の留め具と合体させるだけ。
ちなみにこの門、押しても引いても開きます。
出る時に外に何か重たいものが落ちていたら開かないし、逆もまた然りだ。私やケイトラントが居たら大体の障害物は退けられるけど、他の人は無茶ができない。だから何かアクシデントがあっても、自分が居る側の障害物だけ何とかすれば出入りが可能なようにと思いました。中の扉も同じ。
「みんなには、過保護って言われそうだな」
小さく呟きながら、重い鉄製の門扉を設置。錠前も取り付けを終えて、一度、施錠する。
「ふむ。みんなを閉じ込めた」
「何を遊んでるんだお前は……」
偶々近くに来ていたケイトラントが呆れた顔をしている。心外だ。言葉で遊んでいるだけで、実際は真面目に稼働テストをしています!
解錠して、オープン。よし、スムーズに開くね。扱うのは女性だから、女性の力でも容易に開けられる必要がある。向かって左の門扉を最大まで開く私の横で、カンナは右側を開いてくれていた。問題ないと頷いてくれている。完璧な動作確認。
門扉の可動範囲は既に床も敷き終わっていたので、内側に開く動きもテストしました。問題なし。
「出入口が完成した~」
私の呑気な声が洞穴の中に木霊する。ルフィナから「ありがとうございます!」と声が返った。手伝わせているのは私の方なのに、お礼を言われちゃった。
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