第761話

 受け取ってすぐに食べているからまだちょっと温かい。でもラインナップを見ている限り、冷めても美味しく食べられるように考えられていると思う。まだ絶賛作業中のルフィナ達が食べる頃でもきっと大丈夫だね。

 わざわざ作ってくれたみんなの気持ちと、空きっ腹に入る美味しいご飯を噛み締めている私の隣で、不意にカンナが神妙な声で「私にも」と呟いた。

「ん?」

「何かお手伝いできることがあれば良いのですが……」

「え~、カンナは私の癒しという一番重要なお仕事をしているよ?」

 私としては至って真面目に返したんだけど。カンナは戸惑った様子で目を瞬いている。しかし私がご機嫌で過ごし続けられるのは物凄く重要なことだ。臍を曲げる度、女の子達には気を遣わせてしまっている。

「あと、私をしっかり見張ってて。夢中になったら、また具合が悪くなっても気付かないかもしれないから」

 更にそう伝えたら、二度の瞬きの後、カンナは真剣な面持ちで「はい」と言った。

 前回、情けなくもスラン村で発熱して寝込んだ私を思い出してくれたようだ。二回連続で寝込んだら本当に黒歴史になるから、ちゃんと見張ってもらわなきゃ。此処にいる全員、それぞれ自分の作業に没頭してしまうだろうから、これはカンナだけが頼りだ。

 此方の理由の方が、納得してくれたみたい。カンナの表情からは憂いも戸惑いも消えていた。

 そして私達が昼食を取り終える頃には、ケイトラントも、ルフィナ達も一度手を止めて、お昼休憩に入っていた。

「適宜休憩して、補給してね。果物とかお菓子とか、みんなが差し入れをいっぱい用意してくれたから」

「ありがとうございます。気を付けます」

「村から離れていますと、見張る者がおりませんからね」

 ほぼ重なるように言った大工姉妹と、頷いているロマとケイトラント。つまり君らも私と同じ問題を抱えているんだね。お互いに声を掛け合って休もうね。

 先に昼食を終えた私は、ケイトラントが倒した木や切り株の除去と、地面の均し作業を行った。何度も言うが、大変な作業だ。ヘトヘトになっていく。

「アキラ、あの部分だけはまだ残しておこうか。早くに取り払うとやはり目立つ可能性がある」

「あー、そうだね。そうしよう」

 森と平原の境となる最後の六本を、まだ切り倒さずに残すことにした。工事が完了したら最後に切り倒して除去しよう。ケイトラントくらい作業が早ければ、六本くらいあっという間だろうし。

 しかし。ケイトラントの作業が最初に終わるとは思わないよ……魔法でチートしている私の作業がまだまだ残っているのに。ぞっとしちゃう。

 ちなみにケイトラントはこの後も休まず、ルフィナ達の作業の内、力作業を全部引き受けて働き続けていた。体力がありすぎる。

 さておき私は、街道の端に縁石を埋め込む作業をします。道づくり。こっちの方が割と楽だった。魔法でダーッと一気にできた。

 でも大木を囲む石は、モルタルで積んで固めなきゃいけないし、また後でルフィナ達に任せるとしよう。

「さ~、次も大仕事だ。鉄製の門を作ろう」

 これも掘削同様、私にしかできない作業である。金属加工が必要だから。

 幸い、素材となるべき金属は元々私の収納空間にあった。以前スラン村の塀を作る時に使ったフェンスの支柱と同じ金属。あの後にいつか使うかもと思って、少しだけ仕入れておいたのだ。

 持っているのは丸棒だけど。金属加工魔法で頑張って門の形にします。

 金属加工はかなり高レベルってだけじゃなく、繊細な魔法なので私としては苦手な部類に入る。だから今回ほどの複雑な加工はあんまりやりたくなくて、普段は近い形の金属を仕入れて少し調整する程度の加工しかしていない。

 だけど流石に今回の門みたいな場合は難しい。『近い形』でもほぼ特注になっちゃうし、そんなのを他所よそに頼んだらいつ仕上がるか分からない。つまり背に腹は代えられない状況なので、私が加工を頑張らなきゃいけないのだ。

 余計なゴミが金属に混じらないよう、地面に清潔な布を敷き、周りを結界で覆ってから加工を開始する。

「此処が平たくて、此処は丸棒になっててぇ……」

 モニカ達が決めてくれたデザイン画と見比べるようにしながら、少しずつ加工する。

「カンナ~、これ高さあってる?」

「はい、間違いありません」

「ありがとうー」

 測定魔法の使えるカンナに寸法をダブルチェックしてもらいながら進めます。一つの部品がずれるだけで大惨事だからね。いや、再加工で調整できるけど。何度もやりたくないから。

 カンナが一緒に見てくれるからちょっと気が楽だ。想像以上にスムーズに作業が進んだ。

「出来た! 実物で見るとめちゃくちゃ格好いいねぇ」

「はい、私はルーイの考えたこの模様が好きです」

「あ、これルーイなんだ? 良いよね~私もお気に入りだなぁ」

 錠前の近くに入っている模様が、さり気ないお洒落でいいなぁと思っていたら。なんと末っ子のアイデアだったらしい。素晴らしい才能だね。

 感心しつつ出来上がったデザインに満足していつまでも眺めていると、丁度休憩に出てきたルフィナ達が楽しそうに見学へとやってきた。

「もう加工されたんですね」

「すごいです! 金属部分はこれで終わりですか?」

「うん、錠前も外装は作れたから、金属はこれだけかな」

 扉の方に必要な蝶番などの部品もついでに製作済み。最後には一つになるわけだし、合わせて考えた方が楽だからね。

「アキラでなければ出来ないものは、装飾柱が四本と、錠前の魔法部分、あとは、鍵か?」

「仰る通り。でもみんなには通路内の石造りに注力してもらいたいから、扉の方も、私が作るよ」

 どれも大変な作業ばかりだ。今日は、うーん、門側の柱を二本、作り終えたら御の字かな。

 柱と言うだけあって、デザインが複雑だ。決めてくれたデザインを石柱に転写し、その通りに彫っていくのだけど……細かい作業には変わりない。

 今日中に二本ほど仕上げられたら嬉しいけれど。頑張っても一本半くらいが妥当なところかなぁ。まあ、ゆっくりやろう。急く気持ちを落ち着かせるべく、まだまだ高い太陽を見上げ、頷いた。

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