第760話

 充分な数の石生成が終わったら、私は切り株の除去と地面の整備に移った。

 街道にするにあたって邪魔になる岩や大きな石も取り除いて、道をならしていく。モタモタしている間にケイトラントがどんどん木を倒して、新しい切り株が生まれる。あわわ。

「これは大変な作業だ!」

「今更、何を言ってるんだ……」

 新しい木を切り倒して戻ったケイトラントに、呆れられてしまった。

 でも本当、いざやってみると思った以上に大変ですね。ドーン、バーンって魔法で一気にできない。施設を作るって大変なことなんだなぁ。魔法で補助していてもそうなんだから、自力でスラン村を整えたみんなはやっぱりすごい。

「おや? はーい、モニカどうしたのー?」

 その時、通信の気配がして呑気に声を出して答えた。すごい勢いでケイトラントが振り返った。村の守護神としては、村の危機かもしれないって心配で仕方がないみたい。だけど呼び掛けてきたモニカの声が優しかったから、大丈夫だと思う。緩く首を振ったら、ケイトラントはすぐに肩の力を抜いていた。伝わったかな。

「あ、ほんとに? 助かる、ありがとう! はーい」

 短い会話で通信終了。

 通信で実際に声を出す必要は全く無いが、隠さなくていい時で、且つ、内容が深刻じゃない時は私の呑気な声を聞かせた方が、内容の報告を待つ側も早めに安心できるのではないかという気遣いです。

「すっかり忘れてたけど、お昼ごはんのことだった」

 曰く、私達の昼食用に村でお弁当を用意したから、一度取りに来てほしいというお願いの連絡だった。ケイトラントも全く考えていなかったみたいで、「ああ」とちょっと抜けた声を出していた。

「早めに貰ってくるよ。あっちの方にテーブルを出すから、各々、好きなタイミングで食べよう」

 了承を示してケイトラントが頷いたのを見守ってから、一度、ルフィナ達の元に戻る。

 すると……何ということだ。入り口部分の左右の壁が、出来ている。早くないか? みんな優秀で怖いや。

 でもまだモルタルが固まってないから触らないようにと、私の影が近付いたのを察知したルフィナから柔らかく言い付けられた。はい。気を付けます。

 改めて。彼女達にもモニカから連絡のあったお弁当について伝える。三人ともちょっと苦笑いしていた。これは全員忘れてたね。

「今から貰いに行ってくるね」

「ありがとうございます」

 ついでにテーブルも二つ出しておこう。私と同じテーブルに着くのは遠慮しそうだからな。みんながいつでも休憩できるように椅子も人数分を用意する。あ、そうだ、仮設トイレも出しておかなければ。

 モルタルの生成でも水は使うから、水瓶みずがめは既に四つ並べてあったが、その内の一つをトイレの横に移動した。これは手洗い用にしよう。

「こんなもんかな。じゃ、カンナ、一度戻ろう」

「はい」

 作業環境を後手後手で整える間抜けな主を見てもカンナは呆れた顔を見せず、いつも通りに従順な姿勢。これが癒されるんだよね。内心でどう思っているかは分からないけど……カンナのことだから、バカにはしていないはず。きっと。

 とにかく、スラン村に転移してモニカの屋敷を訪ねたら、私の女の子達も今回は全員が揃っていた。

「おかえり~。ありゃ、結構疲れてるね」

 一目でリコットにそう言われてしまって、私は思わず笑った。

「顔に出てる? 想像以上に大変な作業だよ~」

「当たり前だよね……」

 そうですね。私がちょっと軽く考えていた節がある。苦笑をしている女の子達はきっと、私よりずっと常識的に考えていたのだろう。大体いつも私だけがズレている。

 さておき本題はお弁当の引き取りです。積まれている包みに私が目をやると、敏感にその視線を見止めたリコットが包みの一角を指差した。

「ここの包みは、アキラちゃんを除くみんなの分。一応、ケイトラントさんは二倍にしてある。アキラちゃんは異常な量を食べるから別。こっちの包み。焼き菓子も入れた。足りなかったらそれで補って」

「ありがたい!」

 嬉しい心遣いに思わず喜びの声を上げてから、此処でようやくハッとした。

「みんなも、手伝ってくれたの?」

 リコット達の方を見て尋ねたんだけど、答えたのはモニカだった。

「お弁当の用意を提案して下さったのは彼女らでした。調理も、随分と手伝って頂きましたよ」

 やっぱりそうなのか。さっき私が帰ってきた時にナディア達が此処に居たのは、その話をしていたんだ。色々腑に落ちた思いで何度か頷き、改めて女の子達に向き直る。

「本当に助かったよ、ありがとう! こっちはね、見事に全員、食事のことが頭から飛んでた」

「働き者だなぁ……」

 褒め言葉のようだが、言い方はとても呆れられている。面目ない。

 この後、果物のバスケットも追加で渡された。これは私の補充用って言うより、全員のおやつ用とのこと。至れり尽くせり。沢山の支援に愛を感じる……。私にではなく、頑張ってるみんなにね。

 何度もお礼を述べて、嬉しい気持ちいっぱいでニコニコしながら麓に戻った。

 沢山受け取ってしまった為、テーブルはもう一つ追加で出し、お弁当やお菓子や果物の置き場所にする。お弁当はそれぞれ名前が書いてあるから、特に説明しなくても間違えはしないだろう。

「アキラ様」

「ん?」

 食べ物用のテーブルを整えていたら、不意にカンナから呼び掛けられた。

「お湯さえご用意いただければ、お茶もいつでもお出しできますので」

「えっ、最高。ありがとう。食後にお願い」

「はい」

 工事現場でもカンナのお茶が飲めるの? 至福じゃん。いつの間に茶器の用意をしていたんだ。素晴らしすぎる侍女だ。

 それじゃあ私は先んじてお昼を取ろうかな。リーダーたる私が先に休めばみんなも休憩しやすいはずだ。

 ……リーダーかな。一番下っ端かも。まあいいか。

 軽く手と顔を洗って、テーブルに着く。勿論カンナにも私と同じタイミングで昼食を取ってもらうことにした。

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