第759話

 あちこちに目立つ印を付けてくれた後、ルフィナは私の傍に戻って「終わりました」と丁寧に報告をしてくれた。

「他にも何か、お手伝いできることはありますか?」

 控え目に問い掛けてくれる彼女に、私は大きな声で元気よく「うん!」と応える。

「私の作業を見張ってて! 変な方向に掘削したら叫んで!」

「ふふ、承知しました。お任せください」

 笑われてしまった。しかもちょっと離れた場所からヘイディとロマの笑い声も聞こえた。だけどこれは大事なことである。

 不満な思いも湧き上がったが今回のところは飲み込んで。改めて、土の操作魔法で掘削を開始する。

 取り除いた土は、工事範囲外の程近くに転移で避けておく。処分についてはまた後で考えるつもりだ。この山の何処かにちょっとずつ分配するとか、幾らでもやりようはある。いずれにせよこの付近に人里は無いので急務ではない。野生動物や魔物達が驚くかもしれないだけ。

「左右の位置、問題ありません。今のところ水平ですので、そのまま進めて下さい」

「はーい」

 安心する声掛けだなぁ。ルフィナはいい指示役だね。スラン村でもこうして工事関係でリーダーシップを発揮しているのだろう。普段は若干、妹のヘイディの方がしっかりしている印象があったんだけども。

「岩だ~、ぽーい」

「そんなぬいぐるみを投げるみたいな……」

 掘削中に早速、大きな岩に当たったが。魔法で容易く取り除き、土を積んでいる場所に投げた。ずうんと音が響いたことも、気にしない。ルフィナが引いているけど、気にしない。

 岩のせいで大きく開いてしまった穴は、今から掘る土で埋めてしまえる。緩くならないよう、此方も土操作でしっかり固めておいた。これからずっとこういう作業が続きます。

 緩い斜面から掘削を開始している為、天井が作れる位置に到着するまでがまず長い。十数分を掛けてようやく、天井になりそうな位置に辿り着いた。

「本来であれば支えとして骨組みなどを入れますが……」

「だね。でも今回は省略。私が結界で支えながら奥に進むよ」

「了解です」

 本来の工事手順を知っている人であれば視覚的に心許ないものだろうが、ルフィナが不安そうな顔をすることは無かった。先程のヘイディ同様、私の結界を信じてくれているってことみたいだ。嬉しいね。信頼を損ねないよう、しっかり術を組まないといけないね。

 さておき。今の位置が、門になる予定だ。此処から更に十メートル奥が扉となる。今回は念の為その奥も、十メートルほど掘っておこうかな。

「カンナ、此処から十メートル、測っておいて。大体でいいから」

「承知いたしました」

 ずっと大人しく傍に居てくれているカンナだが。声を掛けたらすぐに応じてくれる。そして私の世界の単位で測定してくれるから大変分かりやすくて助かる。未だに此方の長さの単位に慣れていないのだ。いつまでもセンチやメートルで設計・開発するせいだとは思う。

 とにかく。この後も位置ずれが無いように、かつ、掘削の幅や高さが変わらないことも確かめながら慎重に掘り進めた。

 それでも掘削の作業自体が私の魔法だから、一時間も掛からずに二十メートル。途中の十メートルでルフィナには杭を打ってもらって、扉の位置だと分かるようにしてもらった。

「こんなもんかな!」

「大変な作業が、本当にあっという間ですね」

 満足してふんぞり返る私の横で、ルフィナは感心した様子で呟く。しかしすぐに気を取り直して、大工さんの顔になった。

「左右の壁、床、天井を石材で固めることになりますが。それぞれ、ある程度は同時進行しなければ時間が掛かりますので、その辺りは私とヘイディとロマで計画を立てて進めますね」

「うん、任せるよ。天井作業で必要になる支えの木材は、何処に置いておこう?」

「出入口付近で構いません、必要に応じて自分達で運びます」

「了解」

 事前に指示のあった木材を、指定通りの長さに調整して並べる。

 私がずっと傍に付いていられるなら結界で対応できるから、こういう物も必要ないんだけど。石壁の作業はほとんど任せることになった為、結界の利用は無し。彼女らがやりやすいように道具や資材を揃える方向の支援となった。あんまりにも負担になりそうなら、また考えるけどね。

 という手順を話しながら一旦、ルフィナと共に穴を出たところ。出入口の傍で既にヘイディとロマが、モルタルの作成準備に入っていた。

「姉さん、壁からよね?」

「うん、左右同時にやろうと思ってる」

「なら軽量の接合剤からね。ロマさん、こっちの分量でお願い」

「はーい」

 私が一括りに『モルタル』と呼んでいる石用接合剤だが、色々と種類があるらしい。壁や天井に使う物は軽量の性質じゃないと垂れてきちゃうからダメなんだって。やっぱり上辺の知識だけしかない私では足りないな。経験や実践的な知識を持つ人にフォローしてもらわないと、工事って難しい。

 なお、ケイトラントがもう相当の数の木々を倒していて、出入口の正面は木陰が消えていた。太陽がまぶしい。今日はいい天気だね。

「アキラ、悪いがそろそろ、木を退けてくれ。邪魔になってきた」

「はい」

 少しの汗を額に浮かべながら、のんびりと水を飲んでいるケイトラントに言われた。今は切り株の一つに座って一休みしているようだが、身一つでこんなことを容易くやってのけるんだから本当にすごいな。

 私は言い付けられた通り、周辺の倒れている木々をまとめて回収した。枝葉は乾燥を掛けてから回収したいので、一か所にまとめるだけで、一旦放置。

「切り株の方は私が取り除くから、ケイトラントは木だけお願い。あ、休憩してからでいいからね」

「ああ、分かった」

 切り株を根っこから取り除く場合、根っこが岩を掴んでいることもあってそれだけで一つの大きな工事みたいになる。流石にこういうのは私の魔法でやってしまった方がいい。開いた穴も、掘削で取り除いた土で埋めて固めなきゃいけないから。

 それにしても。ケイトラントが木を倒すペースが早いので、伐採仕事は回ってこない気がしてきたよ。

 となると私の作業としては、石生成の方が求められるかな。今回使う予定の石材をまだ全部は生成できていない。だから多分そっちが優先だ。いそいそと生成を開始した。

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