第755話_手分け
何日くらいの滞在になるか分からないものの、女の子達と相談し、とりあえず三日分の滞在用の荷物をジオレンに取りに戻ることに決まった。滞在が長引きそうなら、また往復すればいい。
そのような会議をモニカの家に留まったままでしていると。
「既にアキラ様のお屋敷が出来上がっております。今回はそちらにご滞在されてはどうでしょう」
「そうだった! いいねぇ、そうしよう」
本来の目的はモニカに手紙を届けつつ、アグレル侯爵邸の状況を伝えることだったが、第二の目的は自分達の屋敷を見て、出来高を払うことだった。あ、出来高。こっちも忘れてた。
「モニカ、出来高として欲しい物資は一覧にしてもらえると助かる」
唐突にお願いを告げるが、モニカは心得ていると言うように頷いて、従者のユリアから紙を受け取って私へ手渡してくれた。既に用意してあった。流石モニカ。
「あれ? 石材だ」
代り映えのしない、普段からよく依頼を受けるような物資の一覧の最後に、石材が記載されている。モニカが眉を下げて笑い、頷いた。
「そうなのです……今回の話を聞いて、さてどうしようかと思ったところでございますが」
村の中の施設を改善するべく石材を求めていたみたい。その石材の用途を私に説明し、どのような形・性質のものを求めているのかを説明の上で、依頼したかったのだと言う。なるほど。
「さっき生成したものと同じ石で良ければ、私が作っちゃうよ。形も指定してくれたらその通りに作れるし、普通に発注するより、加工の手間も納品を待つ時間も必要なくって楽じゃない?」
「……それは、そうなのですが」
勿論、指定している種類の石が良ければ、また城に発注しておくだけだし、あまり気を遣わないでほしいね。今回記載の量なら、私も大した負担ではないので、お安くします。しばしモニカは困った顔で沈黙した後、軽くルフィナ達に目をやったが、何も言葉を交わさないままで私に向き直った。
「此方で一度、相談いたしますので、石材だけ保留して頂けますか?」
「分かった。その石をサンプルにして、ゆっくり話し合って」
私の居る場所で相談するのは、気を遣っちゃうものね。いつ依頼をくれても構わないから、のんびり相談して決めて下さい。さっき生成して渡した石はあげるね。
「アキラ様、もう一点」
「ん?」
此処で一度お暇しようとしたところで。ルフィナに呼び止められた。
「以前に頂いた石切魔道具で、この石は切断可能ですか?」
「余裕。普通の石よりちょっと硬いだけだから、全然問題ないよ」
石切魔道具は、私達がちまちまと納品している魔道具の一つで、石やガラスのような硬いものも楽に切断できる道具だ。勿論それより軟いものも切断可能だから、木材加工でも使える。大中小で三種あり、小さな加工から、大きな加工まで。石の加工は今までほとんどしていなかったようだから、今はノコギリで頑張っている木材加工を、もっと楽にできたらいいだろうってつもりで納品した。
それでも、本来は石を切る魔道具だ。私の生成した石も、スラン村の人だけで自由に加工が可能である。ルフィナが知りたかったのはそういう点だよね。納得した様子で頷き、礼を述べながら頭を下げていた。
ようやく会議は終了だ。
完成した私の屋敷をヘイディが案内してくれた。どれも完璧。いや、私の想像より三割増しの仕上がり。ちょっとしたところに工夫が施されていて、私だけが考えて建てていたら、こんなにいい家にはならなかったと断言できる。女の子達も、自分達の屋敷がこのクオリティで仕上がるという期待も相まって、目を輝かせていた。
「寝室が大きいから、全員のベッドが入るよ。みんなで寝泊まりしよう」
ジオレンのアパートの寝室くらいの大きさがあるのでね。クローゼットや棚、作業机など、ベッド以外にも色々と置く予定だから広く設計したが。今はまだ必要ない。みんなのベッドを並べてしまおう。
食材はキッチンに出して、ダイニングにテーブルと椅子を人数分並べる。数日使う分の食器や調理器具も出した。次は――。
「アキラ、先に私達をアパートに送ってくれないかしら。荷造りの時間が必要なの」
「そうでした。了解です」
転移でジオレンに行ってそのままとんぼ返りできるわけじゃない。私が細々とした作業をしている間に、ナディア達は荷造りをしたいらしい。妥当。
彼女の指示に従い、早速みんなを集めてアパートへ転移した。一時間後に迎えに来いと言われた為、私だけまたスラン村に戻って、女の子達が数日過ごせるように屋敷を整える時間です。私の荷物は当然のようにカンナに任せた。
ラターシャの弓用の巻き藁と、ナディアの鎖鞭用の的も屋敷前に設置しておく。そろそろラターシャには巻き藁じゃなくてちゃんとした的も用意してあげなきゃいけないなぁ。
ふむ。一時間って長いね。思い付く作業を済ませても、まだ二十分あった。
今回の工事に使う石材でも生成しておくか。屋敷の前に耐水性のある大きな布をばさっと広げ、その上にゴトゴトと同じサイズの石を生成していく。
のんびりと門番に戻ってきたケイトラントは、積み上げられている石材に一瞬ぎょっとして、その後、苦笑していた。次見た時にはいつものように門番になっていたのでスルーされた模様。
「アキラ様……うわあ、もう生成されていたんですね」
そこへ、なにがしかの用事で私に会いに来たヘイディ。積まれた石を見て引いている。そろそろ慣れてくれよ。
「どうかした?」
「あ、はい、資材として記載のあった石用接合剤は、魔法の生成ではなく、普通に作成されるものですよね?」
「そのつもり」
石用接合剤――私の世界で言う『モルタル』。セメントが原料で、石と石を接合する為にペースト状にされたものだ。以前は材料を知らなかったが、市中で買った建材の本から勉強しました。多分、私の世界のものと大差ないはず。
これは混ぜ合わせた状態で放置すると固まってしまう為、使う時に使う分を作っていかなきゃいけない。今回もそのつもりだ。
私が同意したら、ヘイディは何処かホッとした顔で頷いた。
「ではご利用になる時、この作成や扱いはお任せください。私やルフィナは経験もございますし、このような作業であれば私達もお手伝い出来ます」
「分かった。助かるよ。面倒くさいし、難しそうだなって思ってたから」
モルタルを塗り付けていく作業は魔法では出来ない。石を並べるくらいは簡単だけどね。収納空間から出す場所をそこにすればいいだけだし。
だけど、モルタルを塗り、石の位置をきちんと測って整え、またモルタルを塗り……という私の嫌いそうな作業を、ヘイディ達がやってくれるみたい。技術も必要な作業だ。慣れた人に請け負ってもらえるのは大変助かるね。
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