第754話

 鍵の方はすぐにデザインを決定した。小さいものだし、村のみんなが持つんだから、あんまり見た目にも拘らなくていいだろう。

 ヘッドの部分はクヌギ公爵家の紋章を付けつつ、余った場所に違う模様を入れておく。門用と扉用の二種類があるから、見分けやすいようにね。

「挿し込む部分は丸棒でいいや」

 錠前と鍵で魔力のキーを合わせるだけだし、形状ってどうでもいいんだよな。でも棒の方にも、パッと見て鍵の違いが分かるようにちょっとした模様をそれぞれ入れておこう。

「よーし、鍵はオッケー。門と扉の方はどう?」

 私が顔を上げると、モニカ達はそれぞれのデザイン画を回しながら相談し合っていた。

「扉の方はルフィナの案をベースに、リコットさんの装飾を合わせると良さそうです。門の方は私のものをベースに、皆の意見を組み合わせているところです」

 無理に全員の意見を入れようとしているわけではないみたいだが、誰か一人の案を採用するのが勿体ないくらい、みんなのデザインがそれぞれ良くて迷ったみたい。魔王城みたいな私とカンナの意見も、部分だけ見ればいいデザインだってルフィナが褒めてくれた。嬉しい。いや待って、やっぱり全体では魔王城ってこと? うーん、ま、いっか。

 とにかく門と扉はモニカに取り纏めを一任して、私は錠前の詳細を紙にまとめる作業をした。三十分後、改めてモニカから、確定したデザインを見せてもらう。

 どちらもシンプルな作りだったが、支えを装飾柱とすることで質素には見えず、豪華かつ上品に見えた。私はあらゆる箇所をゴテゴテにしたから魔王っぽくなったのかな。

「いいねー。みんな、素敵なデザインありがとう!」

 みんなが手伝ってくれて良かったなぁ。自分だけで考えていたら、危うくスラン村を魔王城にしてしまうところだよ。ちなみにこの後、私が担当した鍵のデザインもチェックを依頼した。修正は特に無く、安心した次第です。

「アキラ様、この『生成』とご記載の石材ですが……これはどのような性質の石になるのでしょうか?」

 受け取ったデザイン画を元に必要な資材を書き出していると、隣で見ていたルフィナが質問を投げてきた。

「密度は高めで、白色のもの。ちょっと待ってね」

 小さく息を吐いてから、使う予定の石を一つ生成した。突如現れた石の塊にルフィナは目を丸めていたが、問答無用で手渡す。慌てて両手で丁寧に受け取ってくれた。

 元々、魔法の練習場として石材を利用した施設をいずれスラン村に作る予定があり、その資材についても前々から考えてはいたのだ。城に依頼して集めるのは面倒だし、レンガなどを自分達で作るには流石にちょっと量が多すぎて時間が掛かる。だから石の建材は、魔法での生成が一番いいと思っていた。

 ちょっとだけ成分や密度を調整しているが、大きな負担ではない。ただし此処から更に色を調整するとなると、流石の私でも色ムラなしにするのは無理なので、白色のみにするつもり。

「確かに、普通の石より少し重いようですね。密度が高いからなのでしょう……」

 ルフィナからヘイディに渡った後、何故かケイトラントも興味深そうにその石を手にしていた。

「強度のテストはしなくていいのか?」

「あまり細かいテストはしなくていいんじゃないかなぁ。そもそも結界で空間の強度は保つし」

「……そうだったな」

 苦笑されてしまった。魔法の使えないケイトラントに私の結界の強度が分かるわけじゃないが、私が規格外であることは充分に知っているので、大丈夫だと思ってくれたみたい。でも、強度を実際に確認できると更なる安心感が得られるかもしれない。ふむ。

「今回作る範囲にも勿論、その結界を張るつもり。出来上がったら一度ケイトラントに全力でぶっ叩いてもらおっか。ケイトラントが壊せなかったら何があっても大丈夫でしょ」

「私を何だと思っている?」

 敢えて『何』と言われると困っちゃうけど。巨大なドラゴンより強そうな人です。だからケイトラントが壊せなかったらドラゴンが入って来ても大丈夫。私の言い分に、みんなも笑っていた。ケイトラントは小さく不満を呟くも、壁を叩くテストはしたいようだったので、その旨をメモしておいた。

「よーし。じゃあ早速、場所を決めて、工事に取り掛かるかー」

「今日やるつもりだったの!?」

 ぎょっとして即座に声を上げたリコットを含め、全員が目を丸めていた。モニカが慌てて何かを言おうと口を開くのを、私は手の平を向けて留める。

「いやさー、急ぎじゃないって言うのは分かるんだけど。私、近い内に魔族との大決戦に呼ばれるんだよね。まだ明確に日程が決まってないから、今が一番、時間に余裕があるんだよ」

 改めて、最近あったマディス王国とのあれこれをモニカ達にも説明した。

 いつものように私が雑にざっくりと説明をした後、カンナに補足を依頼した。するとそこそこ長い補足をされちゃった。そんなに雑だったかな……。まあ、カンナやみんながいつも補ってくれるからいいや。

「あ、そうそう。流石にこの魔族戦は長い依頼になると思うから、行く時はうちの子らを預けるね。みんなも、不便かもしれないけどそのつもりでいてね」

 隣国遠征にもなるわけだし、相手は魔族だし、二日では終わらないと思うんだよね。その間ナディア達をジオレンに放置するのはちょっと不安。

 便利で退屈しないで生活できるとは思うけど、カンナを私に付き添わせてしまうと、守護石以外に護衛が無い。私がジオレンに滞在していることを知っている王族や貴族が居る為、悪意がある者なら、確実に私が不在であるその間に彼女らにちょっかいを掛けると思う。

 まさか魔族戦で頑張っている私に、そんな仕打ちをするバカが居ると本気では疑っていないけど。私自身が悪党だから、余計にそういう悪い方向の『万が一』を考えてしまうのだ。

「どうせ外出する気分にはならないでしょうし、私達は何処でもいいわ。あなたは、私達がスラン村に居る方が、落ち着くのね」

「はい」

「じゃあそうしましょう」

 素直に頷いたら、了承してくれた。長女様が認めてくれた為、他の子達からも特に文句はなく、モニカも快く頷いてくれた。

「事情は理解いたしました。それでもこの工事は、アキラ様のご負担でない範囲でお願いいたします」

「うん、分かってるよ」

 前回の訪問で、私は倒れているからな。あれは無茶をしたわけじゃなかったんだけど、何にせよ以前にも言われた通り、私が倒れたらみんなが困るのは、よく分かっているつもりだ。

 そういうことで、今回も少し長めに滞在することにしました。流石の私も今日だけでは終わらない大仕事になるからね。

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