第753話_デザイン
「麓の魔物らについてはどうするんだ? 森を抜けるまで安全を確保したとしても、抜けた後に背後から襲われる可能性があるだろう」
ケイトラントが言った。もう私の計画に乗るつもりで、詳細を詰めてくれるようだ。しかも気にしている点がケイトラントらしいよね。流石はこの村の門番。
「森の外まで、ちょっと大きめに魔物避けの結界を張るつもり。そうしたら、結界の気配を嫌がって傍には来ないから」
影響を抜けた頃には魔物の危険があるだろうが、その頃には充分に森から離れている。普通の平野部の警戒と変わらない。だから取り急ぎは出入口と、その付近の道の整備と、結界だね。
話をさくさくと前に進めながら、私は手早く出入口のデザイン画を描き上げた。……うーん。
「誰かデザイン得意な人~?」
「ふふ、アキラちゃんのそれ、魔王の棲家みたい」
「私も思ったけどやめて」
頭の中に浮かんだデザインを描き出してみたが、なんか違う。威圧感はあるけど公爵のそれより魔王っぽいんだよな。だからヘルプを求めたのに、笑うなんて酷い。
私は無言で、みんなに紙と鉛筆を配った。「えー」と言いながらもみんな手に取って一緒に考えてくれる。しかしナディアだけは、紙とペンを避けるように机の中央へと押しやってしまった。
「ナディアさん……」
「嫌よ。絵は描けないの」
可愛い理由だった。私より先に笑い声を漏らしたリコットが睨まれて肩を竦めています。
そういえば靴のデザインとかも、絵にはしていなかったかも。唐突に型紙になるんだよな。私の指定したデザインを元にしているとはいえ、細かいところはナディアが追加や修正してお洒落にしてくれていた気がする。
しかも、試しに普通の革で作ると言っていた方の靴のデザインはナディアのオリジナルだ。だけど私はその完成予想を知らない。型紙だけがあった。私からすればそっちの方が逆にすごいが。
それはそれとして。しばらくは出入口のデザインを考えるべく、みんなで机に向かう時間になりました。
「ねえ待って。カンナの方が魔王色が強い」
「えっ」
カンナの戸惑いの声が漏れる。リコットは堪らない様子で笑っている。覗き込んだ他の子らも笑いを噛み殺していた。
「お~、豪華だね」
私も覗き込む。みんなは魔王だと言うけど、格好いいよ。私のデザインを更に豪華かつ威圧的にしたような門だった。
「伯爵家の門に劣ってはならないと思うと、どうしても……」
「ははは」
主人である私のデザインも残しつつ、自分の実家の門より豪華にしなきゃーと思うから、こうなっちゃうんだねぇ。
「まあ実際、この門は人を迎え入れる方じゃなくて閉め出す方の意図が強いんだもんね。アキラちゃんやカンナのデザインでも、悪くない気がしてきた」
「この門へと帰るモニカさんの気持ちも考えた方がいいんじゃないかしら……」
憂いを帯びた声でナディアが呟いたら、モニカと従者二人がくすくすと笑った。ちなみに三人もデザインを考えてくれている。ルフィナとヘイディもだ。でもケイトラントだけは輪に加わらず、モニカの後方に立ってのんびり成り行きを見て笑っていた。ずるい。笑われないポジションに逃げている。
「まず鉄格子の門を置いて、その奥にもう一枚、扉があるという形も宜しいかもしれませんね」
「なるほど、それもありか」
モニカが鉛筆を動かしながら呟く。存外、一生懸命にデザインを考えてくれている。いや、彼女が村長なんだけどね。
曰く、アグレル侯爵邸は敷地の最初の門が丈夫な鉄格子のものだったそうだ。貴族邸は美しい庭や屋敷を周囲に見せる意味でもその部分の視界を完全に閉ざすことは少ないみたい。
今回のケースでは中に見せるべきものは何も無いけれど、様相だけ貴族邸を真似る意味ではありだよね。鉄格子の大きな門があるだけで豪華にも見えるかも。
「それだと外部の人は、中の扉を遠目にしか見ないってことだよねー」
リコットが紙に鉛筆を走らせながら呟く。誰かに同意を求めているというより、考える為に口に出しているみたい。
「じゃあ質素でもバレないかもしれないし、逆に豪華に見せようとしたら、装飾を大きめにしなきゃいけないかな」
ふんふんと頷く。この子はさっきから『見る側』の立場で考えてくれてるねぇ。
「うん、鉄格子の門、採用しよう。ちなみに私はもうデザインを考えることは放棄して、門と扉の鍵に魔法を付与することを考えてます」
「そっちはアキラちゃんじゃなきゃ、分からないもんね」
ラターシャが笑いながら言った。その隣でルーイが「門のデザインも考えなきゃ」って小さく呟いている。真剣になってくれている。可愛い。
このまま出入口のデザインはみんなに任せて、私は鍵の仕組みに集中しましょう。
魔法札の解除みたいなことをスラン村に覚えさせるのは酷だ。そもそもケイトラントに魔法が扱えないって時点でダメ。モニカはカンナ同様すぐに出来るようになるだろうけど、モニカだけが開けられる門なんて、村長が常に付き添わなきゃ出入りできないというおかしな状況になってしまう。
だからもうちょっとセキュリティを落とそう。
最悪、誰かが入ってきたとしても悪意があればスラン村の結界に弾かれるし、まごまごしている間にケイトラントに仕留められる。だから少しセキュリティに甘さがあっても大丈夫だ。
最初の門と、その奥の扉の両方に魔法の錠前を付け、それぞれ魔法の鍵で開けられる形にする。これには私の魔法石を組み込んで術を付与して、とりあえず、うーん、二十五本くらい持たせようか。今後、村人が増えるとか、破損するとか、紛失はやめてほしいけど、とにかく予備で少し多めにね。私と女の子達の分は別だから合計三十本作る予定にしておこう。錠前が二つあるから六十本! うっ、もう嫌になってきた。でもこれは村の為に仕方がない。
「よし、鍵のデザイン考えよっと」
「どんな魔王城の鍵が出来るかな~」
「し、失礼な!」
私が作ったデザインが全部そうなるって決めないでほしいです! でも言われるとちょっと自信なくなってきた。後でみんなにチェックしてもらおうっと。
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