第710話
またひと段落したので、お姉ちゃん達を振り返る。
「どう? イメージできそう?」
私の声に反応して振り返ってくれたのは、リコットだけだった。ナディアは聞こえていないらしくて、動かない。リコットもちらりとナディアを窺ってから、私に向き直る。
「うーん、多分……」
「リコは私の手本で、ある程度の魔力量や濃度は分かってるかな?」
「あ、うん、大丈夫、だと思う。そっか、それが感知なんだ」
肯定の意味でうんうんと頷いたら、リコットもうんうんと頷いている。可愛い。とにかくこういう点でも魔力感知は有利に働く。これから更にリコットは魔法の練度が伸びるだろう。
「土属性はどうする? 風のイメージが崩れそうなら、今度でも良いよ」
「……念の為、見せてもらってもいい?」
お安い御用だ。再び桶の方に向き直る――前に、またナディアを窺う。彼女はまだ何も耳に入っていないらしく、ずっと手元を見ていた。このまま集中させてあげた方が良さそうだ。そっとしておこう。
「土属性の攻撃魔法は、小石の一時的な具現化なんだ」
砂利くらいの小石だね。それを具現化し、対象に強くぶつける。紙を貫いた時の弾けるような音と、その向こう側、桶の底にも石が当たった音が響く。だけど小石は桶から出てくることなく、そのまま霧散した。
「石の生成と比べて、『一時的な具現化』は魔力量と濃度が全く違う」
だから石つぶて一個分の魔力じゃ生成は出来ない。二十から三十個分は必要になると思う。
攻撃魔法も最終目標としては一個の石つぶてをぶつけるのではなく、複数の石つぶてを一気に具現化、対象にぶつけて攻撃する形なので、そこまで出来れば次のレベルである石生成の魔法も手が届くかも、って感じかな。
「うーん、片方に絞って練習した方が良さそう」
「リコのやり易い方法で進めて良いと思うよ。いつでも相談して」
練習方法を選ぶ理由が『何となく』でも構わない。むしろそれがイメージに直結している可能性があるから、「この方が上手くいきそう」という直感は、魔法を扱う上ではかなり大事だ。私の説明に改めて、リコットは深く頷いた。
これでまたひと段落なので。再びナディアを窺う。まだ自分の世界だな。可愛い。今もし私が尻尾を触ったらどうなるんだろう。嫌われることだけは確かだ。やめておこう。
「ねえアキラちゃん」
「ん?」
「水の攻撃魔法も見せて」
「おー、いいよ」
そうだね、水以外は全部披露したから、折角だから見たいよね。
「実はねぇ、風と同じなんだ。矢にするか、刃にする」
「水を?」
ルーイとラターシャが目を真ん丸にしていて可愛い。
「そう。水ってね、極めれば火属性並に強い攻撃力が出るんだよ」
「えっ、そうなの?」
狙い通りのリアクションが返ってくるって気持ちいいよね。と、悦に入っている場合ではない。子供達には対しては特に、真摯に丁寧に説明をしなければ。
「私の世界にはウォーターカッターっていう機械があってね。高い圧力の水流を噴き付けることによって、あらゆるものを切断する道具なんだ。魔力を帯びていないそれでも、一部の金属は切断可能だった」
勿論、機械の性能にもよるんだろうけど、ガラスや鉄板を切断している動画を見たことがある。
「この世界じゃ、そこに攻撃性のある魔力が加わるからね。ほとんどの金属は、切ろうと思えば切れるよ」
実は私も工作で使う金属の一部は、水魔法で切っている。熱によって変色したり、変形したりする素材を相手にするとその方がずっと安全だからね。
それはそれとして、ルーイからのお願いは「見せて」だった為、早速、桶の中にぶら下げた紙を水の矢で貫き、そして刃で縦に切り裂いた。
「見てごらん、ルーイ。紙が濡れてないでしょ」
「あれ、本当だ」
「攻撃性のある水魔法で攻撃した場合、目標物はほとんど濡れないはずだ。それで判断できると思う」
さて。流石にそろそろ、ナディアは思考の海から帰ってきたかしら。再び窺うと、手を膝の上に置いて、目を閉じていた。これ、話し掛けたら怒られるかな?
部屋がしん……と静まり返って、私の視線に気付いたみんなもナディアを窺う。すると周りの雰囲気が変わったことは分かるらしくて、ナディアがパッと目を開けた。
「ごめんなさい。話し掛けた?」
「ううん。話し掛けても良いかな~って窺ってた段階」
本当に集中していたんだな。此方の状況も何も把握していなかったようで、軽く視線を巡らせていた。
「イメージできそう? 必要な魔力量と濃度だけ、教えた方が良いかなって思ったんだけど」
「……そうね。見てもらってもいい?」
「勿論」
傍に立つと早速、ナディアが手の平に魔力を集めた。
「これくらい?」
「大体あってるね。あと一割多く、もうほんのちょっと濃く」
既に高い濃度である為、言うのは簡単だが実践は容易じゃない。ナディアは軽く眉を寄せた。でも、じわじわと濃度は高まった。
「どうかしら」
「それだけあったら出来ると思うよ」
攻撃魔法を使えそうなくらいに濃度を高めることが出来た、というのも感心なんだけど。それよりも。
「ナディって魔力感知、まだだよねぇ?」
「そのように思います」
私はカンナを振り返って問い掛けた。うーん、そうだよねぇ。カンナが魔力感知テストとしてリコットをつんつんした時、実は同時にナディアの猫耳もつんつんしていた。でも猫耳は微動だにしてなかった。
「イメージの方が上手だったのかな。まあとにかく、優秀そうで安心しました」
少し気になったものの、別に悪いことじゃないからなと、疑問は横に避けた。
「魔力が今より多いのも濃いのも悪くはならないからね。今のが最低ラインだと思ったらいいよ」
「分かったわ。ありがとう」
その後、私はのんびりティータイムに突入したんだけど。女の子達は各々、練習に入っていた。
風属性と土属性を縦並び、火属性と水属性を縦並びに置いてあるから、リコットとナディアは同時に練習できる。二人が桶に向かって並んでる姿が可愛い。
当分は誰も相手をしてくれそうにない。ラターシャとルーイも二人の練習に触発されちゃって熱心に操作魔法してるし。
「みんな、時々自分の残量を確認するんだよ~」
これだけは言い含めておこう。集中していてもちゃんと全員聞こえているらしく、四人全員から声が返って安心。
しかし四人が全員夢中になっちゃってるので、流石に今日はずっと、傍を離れずに見守りに徹しましょうかね。ソファに座ったままで図面の整理をする時間にしました。
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