第705話

「できたー。アキラちゃん!」

「はいはい」

 二番手がリコット。その次がナディアだった。

 リコットはアラーム機能、ナディアは強度強化。どちらも問題なく魔法陣が作れていた。ルーイとラターシャもその後すぐに出来上がった――のだけど。

「うーん……」

「えっ」

 ラターシャのチェック中に私がつい唸ってしまって、当然、彼女は不安げな顔になる。私は笑って首を振った。

「いや、ごめん。魔法陣は正しいよ。……でもラタ、不安なのかな? こんなに沢山、魔力を入れなくても大丈夫だよ」

 みんなより丁寧に作ったようで、一つ一つの線に、通常の二倍から三倍の魔力が入っている。

「隣においで、ラタ」

 椅子を横に置いて、ラターシャを呼ぶ。

「減らしながら書いてみよう。ちょうどいい量を教えてあげるから」

「うん。ありがとう」

 パッと明るい顔になったラターシャが隣に座った。可愛いからまず頭を撫でる。すると何故かルーイとリコットが口を尖らせた。

「えー、ラターシャずるい」

「あはは! みんなは調整しなくて大丈夫だよ」

 何が羨ましかったんだか知らないが、二人は口を尖らせたままだ。

「まあナディはまたちょっと濃かったけど」

「……どれくらい」

「うーん、ほんのちょっとだよ。誤差だから、無理に下げなくて良いよ」

 そう言ってもナディアは不満気に眉を寄せている。

「どうしても気になるなら見るよ」

「お願い」

 気になるらしい。勤勉だなぁ。了承しておいた。

 でも残りの三人は本当に全く何処も変える必要ないからね。そうハッキリ伝えたのに、リコットとルーイはやっぱり口を尖らせた。なんでよ。優秀なんだってば。

「うわっ、え?」

 その時、突然リコットが身体を跳ねさせ、背後を振り返って、きょろきょろした。私が笑うと同時に、ルーイも肩を震わせて笑っていた。

「ふふ。こら、カンナ」

「失礼いたしました」

 またカンナが魔力でつんつんしたのだ。私達の会話でリコットもようやく何が起こったのか理解したらしく、項垂れた。

「そっかー、リコも、もう魔力感知できるようになったかぁ」

「テストが抜き打ち過ぎる……めちゃくちゃびっくりした……」

 顔を少し赤らめていて愛らしい。まあ視界に全員居るのに後ろからつんつんされたら普通はびっくりするよね。

「注入すべき魔力量が分かるというのも、感知が長けてきた影響かと考えまして」

「なるほど。確かに」

 私が実演している中、無意識に私の魔力量を感じ取って、それと同じだけの注入が出来ているんだね。だからリコットとルーイとカンナが完璧なんだ。

「ラタ、上手に制御できてるよ。もうちょっとだけ減らしたら完璧」

 減らす、というのも正しい魔力制御が出来なければ上手くいかないものだけど、丁寧に少しずつ減らすことが出来ている。日々の修練の賜物だね。ラターシャの魔力調整はすぐに終わった。

「分からなくなったらまたいつでも見るからね」

「うん、ありがとう」

 ナディアも、本当にほんのちょっとの濃度調整だったから三十秒ほどだった。みんな優秀だよねぇ。

 ちなみにラターシャとルーイが選んだのは照明でした。綺麗だって二人がはしゃいでいたのが可愛い。しばらく部屋に飾るらしい。お洒落な間接照明である。

 それぞれコツを掴んだのか、二枚目を作るのはかなり早かった。ただし。

「二枚目の発動は、うん、駄目だね。魔力切れ。リコとカンナは発動しても良いけど、二人もそこで止めた方が良い」

「えっ」

 発動でおそらくかなり厳しい残量になるだろうからね。三枚目の作成は触らない方が良い。

 私の言葉にルーイとラターシャが魔力量を測っていて、もう二割になっていたことで、項垂れていた。

「みんな今日はもう魔力をあんまり使わないようにね~」

「はぁい」

 揃えて返事をしてくれるのが愛しい。みんなは私と違って良い子だから無茶はしないだろう。

「魔法陣の発動って、かなり魔力を使うんだね」

「本当に。魔術師さん達でもあんまり簡単じゃないんだろうなってよく分かるよ。……アキラちゃんはともかくとして」

 ははは。規格外ですのでね。でも小さい魔法陣とは言え、一枚だけでも全員が起動できたのは、魔力量を思えば上等だ。魔力制御が上手くできていて、注入が効率よく行えている証拠だと思う。

「やり方は分かっただろうし、元気な時にまた各々やったらいいよ」

「そうするー」

 でも念の為、発動前には必ず私に見せてね。改めて言い含めたら、みんなが笑いながら頷いていた。

「ちなみに、描き間違いによって別の術が発動してしまう可能性はどれくらいあるの?」

「ほぼゼロ」

「……あなたね」

 長女様に「過保護なだけか」って顔をされました。

 事実、魔法陣はそんなに単純なものじゃないのでちょっと間違えただけで別の意味になってしまうなんてことはまず起こらない。どれだけ魔力を籠めても起動しなくなる、という結末になることが百パーセントに近い。

 それでも念には念を。安全第一。何より。

「充分な魔力注入が発動条件となっているものに対し、『発動しない』ということで誤りを判断するのであれば。一回や二回の発動が限界の我々からすれば、かなり痛い魔力のロスになります。そういう意味では、ご確認頂けますのは幸いなことではないでしょうか」

 先にカンナが丁寧に説明してくれちゃった。ありがたい。みんなが「あ~」「そっか、確かに」と納得の顔を見せる。

 きっと普通の一回分より多くの魔力を入れてしまうだろうから、その日は再チャレンジすらできなくなっちゃう可能性があるんだよね。

 改めて、発動前に私に見せるのは必須だという認識を持ってくれた。これでお互い安心ですね。

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