第658話_ジオレン帰還
送る前に一応もう一度手紙を読み直してから、魔道具でヘレナに送信。
さて、私も早く、調理に戻らなくちゃね。少し急ぐ気持ちで立ち上がって、テントを出た。
するとナディアを除く女の子達が、私を見て一瞬静止した後で、そのまま揃ってナディアの方に視線を向ける。え、何?
「……乱すなら、直してあげたら?」
「え?」
やや笑いながらリコットが言うと、ナディアは顔を上げて此方を向いた。直後、彼女は大きく目を見開いて「あ」と言う。
「違うわ、尻尾が、多分、当たったから」
慌てた様子でそう続けたナディアは、自分の尻尾を両手でぎゅってしてる。かわいい。
「うん?」
さておき何の話かちっとも分かりません。首を傾けたら、カンナが小走りで寄ってきて、私に手を伸ばしてきた。
手を伸ばされたことが無条件で嬉しいのでニコニコして屈んだ。カンナは私の前髪を整え、左右もちょっと撫でてくれる。あー。理解した。髪が乱れていたのね。
いや、多分これは尻尾より前ですね。頬にキスする時点でナディアが前髪をくしゃって避けたもの。でもこれを言ったらしばらく口を利いてもらえなくなると思うので訂正は飲み込んだ。
「ありがとうカンナ」
「いえ」
髪がきちんと整ったところで一歩引いたカンナに礼を言って、調理台の方へと歩く。みんなは苦笑していたものの、それ以上、私の髪の乱れについて食い下がる様子は無かった。
「アキラちゃん、次は?」
「えっとねー」
この日も働き者のみんなのお陰で、さくさくと晩御飯を作りまして、沢山食べました。
ちなみにこの日のスラン村への差し入れはチーズとローストビーフです。ジオレンの調査で丁度買ってきたので。酒のつまみのようだな。実際、私のおつまみ用なんだけどね。
予定通り、二日後の朝。
私達はテント諸々を片付け、ジオレンに戻る準備を完了した。
「いや~、お世話になりました。避難させてくれてありがとうね、呑気で楽しい時間になったよ」
「一度めちゃくちゃ寝込んだ人が何か言ってる」
「やめて」
みんなの前でも女の子達はこの対応だ。スラン村のみんなにも笑われている。滞在が楽しかったのは事実なのに。
さておき、見送りをする為に村人全員が来てくれて領主はとても嬉しい。今回の滞在では本当に村中うろついて一人一人と沢山お喋りしたもんね。女の子達もいつの間にか村の人達と仲良くなっていた。可愛い。いつの間にかって言ったけど、モニカを王宮に連れて行く時に此処へ残した時から少しずつ親密にはなっていたかもしれない。
「いつでもお戻りになって下さい」
モニカの言葉にまた私はニコニコになる。今回の訪問でも「おかえり」って言ってくれたのと同じく、もう此処は私の村だよって教えてくれている。
「お屋敷の方も随分と進めて下さいましたので、かなり建設が捗りそうです」
「特にアキラ様のお屋敷は、間もなく完成となります。早くお知らせできるように頑張りますね」
ルフィナとヘイディが続いた。そうだね、屋敷が一つでも完成したら、見に来るだけでもまた一度来たい。そして出来高も支払いたい。
改めて礼を告げてからサラとロゼを連れ、ジオレン近郊へと転移した。
「おー……柔らかい」
「良かったねぇ、馭者台が新しくなって」
「はい」
ルフィナ達に改善してもらった馭者台の乗り心地が最高で幸せ。サラとロゼが楽しそうに歩調を速めても、ちっとも痛くならない。本当、なんであんなに硬い馭者台を無駄に長く使って耐え忍んでいたんだか自分でもさっぱり分からないな。
さておき、楽しそうに速歩しているサラとロゼの為に辺りをのんびりと散歩してから、ジオレンに帰った。
「ふ~、ただいま~」
「帰ってきたって感じするねぇ」
アパートに戻ってすぐ、預かっていたみんなの荷物を出す。だけど女の子達は先に休憩をするようで、カンナと私を除いた四人が真っ直ぐソファへと向かった。カンナは、私から上着を受け取って片付けた後、再び傍に戻ってくる。
「アキラ様、お茶をお淹れ致しますか?」
侍女様は今日も働き者で可愛いねぇ。
「んー、ううん、工作部屋を片付けてからでいいや。また呼ぶよ」
「畏まりました」
休憩は後回しにして、私は工作部屋へと入り、スラン村に持って行っていた道具らを片付けることにした。扉近くのものを片していた時にふと見たら、カンナも私の服などを片付けていてもう働いている。一方、女の子達はその背中を眺めながらのんびりとお茶していた。性格が出るね。
だけど、小まめな休憩って大事なんだよ、本当に。
私はまとめてガッと働いてからガッと休みたいと考えるタイプだけど。そうしてたっぷり働いてから、いざ「休むぞ」って時に用事が入ると大変じゃん。
用事、そう、『王様からの通信』とかさぁ。
気配を感じた時、これがモニカであって「忘れ物がありますよ」とかの可愛い話なら良いなぁって思ったんだけど。おっさんの低い声が聞こえてきた。やれやれと項垂れて、作業台に軽く腰を掛ける。
「アキラ様、お疲れで……」
半端なところで目を閉じていたら、カンナが声を掛けて来た。何かの折に部屋を覗いたら私の様子がおかしくて、体調を心配してくれたらしい。私は少し笑いながら首を振って、静かにしてくれるようにと手振りする。カンナはすぐに気付いて言葉途中で押し黙り、その場で待機してくれた。
「ん? どしたの、カンナ。アキラちゃんは……」
すると次はリコットが来てしまった。工作部屋に入ってすぐの位置で停止しているカンナを心配したらしい。でもカンナが止めてくれて、リコットの言葉もまた途中で止まる。私は王様の言葉に耳を傾けながらもそんな二人が可愛くって、笑いを噛み殺した。
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