第625話
馬車を片付けると同時に、空いた場所にテーブルや椅子、軽食、それからみんなの荷物などを出した。
「はい。後はみんな自由にしてて良いよー」
水瓶も置いて、
「アキラちゃんはどうするの?」
「私はまず、新しいテントを作ります!」
カンナが加わって、私達は六人。人数が変わってしまったのでテントを新しく作らなきゃ。今夜もう必要になるから、至急ね。そう言ったらみんなも「ああ」って言ってた。
説明が終わったところでようやく女の子達が各々動き出す。なるほど、見張るべき対象である私の動きをまず確認しなきゃいけなかったのか。
しかし落ち込んではいられない。テント作りに必要なものを収納空間から取り出す。一通り準備が終わった頃にふと振り返ると、ルーイとラターシャが建設中の私の屋敷を見学していた。既に外観はほとんど出来上がっていて、終わってないところは何処なんだと不思議に思うくらいだ。そんな屋敷を外から楽しそうに眺めた二人は、ルフィナとヘイディにお伺いを立てて、中にも入っていた。
いや待って。私もまだ中には入ってない。私より先に入るの? ……別にいいんだけどさ。私も後で入らせてもらおう。
一方ナディアとリコットとカンナは、テーブルでのんびり雑談している。可愛い。
「ん? 何か手伝う?」
「あー、ううん。みんなを眺めてただけ~」
ぼんやり見つめている私の視線に気付いたリコットがそう言った。「なによ」とかじゃなくて「手伝う?」って聞いてくれるリコットは優しい。「なによ」の方が誰を想定したものなのかは、別に言わなくてもいいだろう。
「うーん」
さて。テント作りに戻った私だが。早くも課題に直面していた。
テントの骨組みに取り掛かるべく脚立に上りたいのだけど。この辺りは足場が不安定なんだよね。地面は魔法を使って
あ、そうだ、あれを使おう。ドン。
私は足元に分厚い石板を置いた。ふむ。これなら脚立の足が沈むことは無い。上に乗せた脚立が安定したことを確認し、ご機嫌に脚立を上る。そして一番上で体勢を整えて作業していたら、「え」という声が入り込んだ。
「そ、それ、遺物じゃない!?」
何か急にリコットが叫んだ。どうした。
「うん?」
「今アキラちゃんが敷いてるやつ!」
あー、はいはい。そういえば最初は『遺物』ってタグだったな。そう、救世主の鞄が入ってた石箱の蓋です。平たくて丈夫。
「あなたね……」
「だ~いじょうぶだよ、私が乗ったくらいじゃ割れないよ」
「そういう問題じゃないよ……」
ナディアとリコットは何かを言いたそうにしながらも、上手く言葉が出てこないのかそれだけしか言わない。私は手元の作業に忙しいので放置した。なおカンナは目を丸めたままで何も言わなかった。何を思っていたかはよく分からない。
さておきテントって、大きさの割に大して時間が掛からないから達成感が得やすくて良いね。まず一つ完成。今日中にあともう二つ作るんだ。
張り切って作業を続ける私がその後も繰り返し遺物を足場にするのを、女の子達も引き続き、無言で見つめていた。
「よし、全部のテントが完成~」
「……遺物は無事?」
「ん~?」
どうかな。よっこいしょ。持ち上げて、表を見て、裏を見て。うん、傷だらけ!
いや違うんだよ待って。元々だから。川底から回収した当初から傷は付いていた。今回使ったことで新しく付いた傷っぽくないし、土で少し汚れたくらいだ。叩いて土を落とせば元通り。はい、収納。
彼女の問いには答えずニコニコしながら取り込んだら、やはり何か言いたげにしつつもリコットは沈黙した。聞くのがもう怖くなってしまったのかもしれないな。可愛いね。
でも『遺物』って多分この石じゃなくて、中に入っていた救世主の鞄とあのデカイ魔道具だと思うんだよね。だから私はそんなに気にならないんだが。
手を洗った後、まだ変な顔をしている二人の頭を雑に撫でておいた。ナディアは相変わらず首を振って嫌がった。でも前から思っていたんだけどこの猫ちゃん、いつも嫌がるわりに噛み付いてはこない。触るなと言われたことも無いので私は今後も触る。
「今日は、うん。二人用テントを三つにしようか」
三人用テントを二つにしても良かったんだけど、村の前に置くには角度が難しかった。
以前はスラン村の門を入ってすぐの広場に勝手にテントを張っていたが、今回は門より外側にテーブルなど諸々を配置している。何故なら以前の広場は私達の家が建っているから。そして外側は広々としているものの整地されているわけじゃなく、岩や木を避ける必要があるってわけ。
ちなみに此処もまだ結界内です。村を大きめに覆っているので、広く安全。
「部屋割りは?」
私がテントを張り終えると、それを待っていたリコットが問い掛けてくる。もういつもの調子を取り戻しているようで良かった。さて、部屋割りと言うか、テント割りと言うか。
「カンナは私と一緒が良いよね?」
「はい」
即答である。主人の傍にいつも付いていたい真面目で可愛い侍女様だ。撫でる。
「他は何でもいいよ、みんなが相談して適当に決めておいて」
「はーい」
多分いつも通り、仲良しの子供組と大人組で分けるんじゃないかなと思う。でも私が勝手に決めることじゃないのでみんなの方で調整をよろしくね。決まり次第、私がその通りにテントの中へとそれぞれのベッドを出します。
「それで。あなたは何処に行くつもり?」
話は終わったーと、徐に村の門の方へと歩く私を見止め、ナディアが問い掛けてくる。
「ラタとルーイ撫でてくる」
「大事な用事みたいに言うじゃん……」
リコットには呆れた顔をされたが、可愛い我が子達を撫でたくなるのはこの世の摂理だから。
「この間ね~アキラちゃん自分のこと私達のお母さんだって言ってた」
「嫌よ、あんな親……」
前後すら聞かずにこの辛辣な反応である。悲しい。
ちなみに私がテーブルから離れたのでカンナは無言で後ろを付いてきている。侍女さんは常に傍に居る。その気配でちょっと癒されたので、まあ良し。
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