第601話

 箱の中からプレゼントを取り出す手付きも優しくて、自分の渡したプレゼントがあまりに丁重に扱われると少し照れ臭くてむず痒いものなんだなと、新鮮な思いがした。

「ブレスレット……いえ、これは……」

「あ、すごいな、気が付いた?」

 カンナの手の中にあるのは、シルバーのブレスレット。彼女に似合うのは間違いないが、これはただの装飾品ではない。カンナが目を瞬きながら私を見つめる。

「うん。元々付いてた宝石の一部を私の魔法石に変えて、術を入れてある。魔道具だね」

 好奇心に勝てなかったのか、隣に座っていたルーイがちょっと伸び上がってブレスレットを見つめ、「ほんとだ」って言った。

「今すぐに効力は無いんだけど、着けてる間、カンナが帯びる魔力を少しずつ蓄える。そしてカンナの魔力残量が一割を切った時点から、君に魔力を返す」

 説明に、カンナが目を大きく見開いた。

 ただし蓄えた魔力は『持ち主の元に帰る』という指定の為、カンナ以外が蓄えてもカンナには戻らない。魔力には複雑な互換性がある。人体への影響、危険性を加味するとこうすることしかできなかった。

「え、いや、それって魔力量が増えるのと一緒じゃん。やば」

 いよいよリコットもテーブルに身を乗り出してブレスレットを凝視した。ナディアが少し笑って宥め、改めてソファに座らせている。姉妹っぽいやり取りで可愛い。しかしもうナディアも含め、みんなが興味津々になってしまったので、カンナが手渡して見せてあげている。目をきらきらさせながら、ラターシャが私を振り返った。

「どれくらいの魔力が蓄えられるの?」

「あー、最大で二千と少しかな」

 即座に答えつつも、タグでのステータスは私にしか見えていないので数字がそもそもピンと来ないだろう。何か比較できるものは――と思考を巡らせるより早く、ナディアがぎゅっと眉を真ん中に寄せた。

「以前教えてもらった私の魔力総量より、ずっと大きいのだけど」

「え」

 一斉にみんながナディアと私を見比べた。可愛い。

「そうだね、まあリコの総量ほどじゃないけどね」

 私の言葉にリコットは言おうとした言葉を一度飲み込み、少しの間を空けてから「でも」と続ける。

「つまり二日分の魔力が使えるみたいなものじゃない? すごい魔道具!」

 そうだね。まあ、蓄える必要があるからいつでも二倍の魔力を使えるわけではないものの、いざという時に魔力を沢山使えるって魔道具だ。カンナも目を瞬いて驚いている。女の子達から戻されたブレスレットをじっと見つめてから、顔を上げた。

「最大まで充填するには、どれほど身に着けておけば宜しいのでしょうか?」

「ずっと着けていたら、十日から十五日くらいかな?」

 お風呂とかは一時的に外すだろうし、寝る時にも着けたくないな~って外すことがあるかもしれない。そうして外す時間が長いほど最大量の充填までは時間が掛かる。勿論、個人差もあるから、幅のある回答をした。

「帯びている魔力だけで、意外と貯まるものなのね」

 ナディアの感覚では想像よりも短い期間だったらしい。比較対象がないせいかもしれないな。私の感覚では正直ちょっと長いと思っていた。しかしこれ以上、魔法石を大きくするとブレスレットとしての愛らしさが消えてしまう為、仕方なくこれくらいの機能です。

「アキラちゃんが着けたらもっと早く貯まるの?」

「ううん。私とかカンナみたいに、魔力感知ができるくらいの技術がある場合は外へ漏れる魔力が自然と抑えられる。むしろ今一番早く貯まるのはリコだろうね」

 彼女はまだ魔力感知が出来ていないから、魔力制御が緩い。時々体外にぶわっと魔力が漏れているから、それらが上手く充填されれば一週間も掛からない可能性はあった。

「え、何か恥ずかしい。そんな感じなんだ私……」

 何がどう恥ずかしいのか私にはよく分からなかったが、自らを抱き締めるようにしながら身体を縮める様子がちょっと愛らしい。

「魔力感知って、早くできるようになる方法は無いのかな」

 眉を下げながらリコットがカンナに聞いている。私には聞いてくれないのか。うん、分からないから聞かれても困るけどね。寂しかっただけです。

「魔法の練習を続けていれば『自然と』身に付くものですので、わざわざ練習することではございませんが……どうしても気になるのでしたら」

 カンナの言葉に、リコットが高速で頷いている。どうしても気になってしまうらしい。一瞬黙ったカンナは、多分、リコットが可愛かったか面白かったかのどちらかだと思う。段々考えていることが分かるようになってきた。

「魔力の位置を『探る』練習を繰り返すしかありません。例えば術を入れたものを室内の何処かに隠してもらって、それを探すような。これは魔力の試験としてよく行われることですが、探知が出来るようになれば必ず感知は可能です。本来は逆順に習得しますので」

 つまり、魔力探知の模擬テストを繰り返すみたいなものか。確かに、探そうとして神経を集中すると、既に魔力制御を始めている子らなら感知・探知能力のいい刺激になるはずだ。

「ぬう……探知……?」

 しかしリコットはそもそも、魔力を探る・感じるという感覚がピンと来ていないみたい。

「自らの魔力を感じることはあるはずです。例えば、手の平に今どの程度の魔力が集めることが出来ているか。これは感知の一つです」

「なるほど!」

 徐にみんなが手を前に出して、魔力を溜め始めた。可愛い。

「そういえば、前にアキラちゃんが私の魔力を押し出した時、すぐに分かったなぁ。あれも感知なんだ」

「あったねー、そうだねー」

 ラターシャが頑張って木片を動かそうと魔力を集めていた時、私が悪戯して木片を横取りしたんだよね。あの時のラターシャは、木片が動くより先に異変に気付くことが出来ていた。

「そのように、自らの魔力であれば感じている、それが第一歩です。次第に、自分以外の魔力も感じるようになり、それが『魔力感知』と呼ばれます」

 カンナの誕生日なのにカンナが授業してくれている。いいのかな。まあ、本人が困った顔をしていないから、いいか。

 ところで真剣な顔で聞いている女の子達が可愛いので、お酒を飲みながら眺めてもいい?

 静かに立ち上がってワインを開けた。するとリコットが「私も欲しい」と即座に言う。ありゃ見付かった。カンナの話の腰を折っちゃったかも。ごめんなさい。

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