第600話
さて。可愛い子らの遊ぶ姿をもっと見つめていたいが、私は今から戦場だ。オムライスを作るぞ。
全員分をほぼ同時に出すには、今回もコンロが忙しい。まずはチキンライスを大量に作らねば。
そうして私が完璧なスケジューリングでオムライスを作り上げ、テーブルへと並べる頃にはもう、お腹を空かせた女の子達がそわそわとダイニングテーブルに集まってきた。サラダとスープも忘れずに添える。
「はーい、召し上がれ~」
「いただきます!」
カンナ以外の子らにとってはそんなに珍しいランチメニューではないんだけど、それでも食べた子から順に美味しいって沢山言ってくれて幸せです。
「カンナの知ってるオムライスとは違うかな?」
前にも述べたがこの世界のオムライスの中身は定番が無く、中身がチキンライスのものを初めて食べる人も多い。案の定、カンナもこのタイプは初めてだと言った。
「ですがライスに鳥肉の出汁が効いていて、とても美味しいです」
「あはは、そうだった、鳥肉が好きだったね」
これは偶然だったが、丁度良かった。私はチキンライスを作る時には必ず、鳥肉と一緒にお米を炊いている。そうするとお米にしっかり鳥肉の出汁が入るから、私もこれが大好きなんだ。
オムライスは、小さい頃から私の好物だった。そのせいもあって運動会とか学芸会とか授業参観とか、学校行事があった日の夜にはよく作ってもらっていたメニューである。
作ってくれたのは母さんではなくて、お手伝いさん達。きっと彼女達なりに、そういう行事に親が来ることの無い私を何とか喜ばせようとしてくれていたんじゃないかなって思う。そんな愛情の籠った、優しいごはんなのだ。まあ、この辺りはみんなに説明するのは難しそうなので言わないが。
「朝はデザート無しにしたけど、今回はあるからねー」
嬉しそうにもりもり食べてくれるのが楽しくて眺めていたいと思う一方で。限界まで食べてデザートが入らない悲劇が起こらないよう、念の為に告げておく。とはいえ、無理ならおやつの時間に出してもいいんだけどね。だけどみんなはちょっとハッとしてから、神妙に頷いている。可愛い。
「ちなみに、何系? それによって胃袋と相談が必要」
「ふふ」
リコットの言い方が面白くて答える前に笑っちゃった。横のナディアも笑いそうになったのか、小さく咳こんだ。大丈夫?
「ゼリーだよ。これくらいのサイズだから、余程じゃなければ入るよ」
「良かった!」
私が手振りでゼリーの大きさを伝えると、全員がホッとした笑顔になる。可愛いねぇ。
そしてその流れで、みんなはカンナに私が今までに作ったデザートの話をし始める。お花のアイスクリームとか、色んなものを作ってくれるんだよって。そう語る女の子達のきらきらな笑顔は愛らしくて堪らないが、ハードルが上がってしまう。できれば今日のデザートを全て出した後にしてほしかった。
私だけ一人、妙な緊張を抱えつつ。全員が食べ終わって落ち着いた頃を見計らってデザートを出した。
「あっ! 分かった、これ紅茶のゼリーでしょ!」
「当たり~」
一目見た瞬間、リコットがそう言った。ゼリーの見た目、そしてカンナの誕生日であることから察したようだ。お好みで生クリームも掛けてみてね。私は早速自分の分に少し垂らしてから、生クリームの小瓶をテーブルに置いた。
「こんなに濃いのに苦くはないのね、美味しいわ」
「甘さも丁度いいね」
ご好評で嬉しい。ちなみにカンナはずっと無言で、真剣に食べている。でも目が明らかにきらきらしているから、今は無理に感想を求めまい。そのまま集中してていいよ。私はニコニコしながら彼女を眺めた。しばらくすると、私がカンナを見つめていることに気付いた面々からも視線が集まり、数秒後、カンナがハッとして顔を上げ、目を瞬く。
「も、申し訳ございません、お、驚いて……」
「カンナのお口にはあったかな?」
「はい!」
あら。珍しく元気なお返事。カンナ自身も思わず零れた声にびっくりしたらしくって、慌てて口元を押さえている。可愛い反応に、みんなが笑顔になった。
「紅茶やコーヒーはお菓子にも色んな用途があって楽しいよねぇ」
クリームに風味を入れるだけで美味しいし、勿論、焼き菓子の生地に入れるのも良い。
なおこの後、私はカンナからとても細かくこのゼリーのレシピを聞かれた。茶葉の種類は勿論、温度や各工程に掛かった時間まで。余程気に入ってくれたらしい。いつでも私が作ってあげるのに。そしてお片付けはこの聴取中に、私とカンナを除く他の子達がやってくれた。
「そういえばアキラちゃん、プレゼントいつ渡す……もう渡した?」
「いや、まだだよ」
そういえば普段は午前の内に渡すくらいの早さだったね。前二回は、プレゼントとなる魔法の杖がみんなの興味を掻き立てていたせいだが。何にせよそろそろ、女の子達もそわそわし始めちゃったらしい。
「じゃあ、新スゴロクで盛り上がる前に。今からプレゼントお渡し会にしよっか」
宣言すると、女の子達も一旦プレゼントを取りに寝室に戻っていた。
ルーイなんて数日前から、何処にも隠し切れないような大きなプレゼント箱をベッド脇に置いていたんだよな。可愛い。何が入ってるんだろう。
全員揃ったら、何故か視線が私に集まる。はい。じゃあ出し惜しみせず、私から渡しましょうか。
「改めて、カンナ。二十一歳の誕生日おめでとう」
収納空間からプレゼントを取り出して、彼女へと手渡す。ハンカチでも入ってそうなくらいの、平たくて正方形の箱である。カンナは両手で丁寧に受け取ってくれた。
「ありがとうございます。……開けてもよろしいでしょうか」
「勿論」
カンナが膝の上で丁寧に包装を解き、箱を開ける。他の子らが覗き込みたいのをじっと我慢している様子も含めて可愛いので、私はずっとニコニコしていた。
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