第599話_スゴロク
閑話休題。スゴロクをしようよ。
とにかく全員自分の駒を選んだので、次はサイコロを投げる順番を決めた。くじ引きで。
「ナディはどうしてずっと三が出るの?」
「私が聞きたいわよ」
ゲームを始めてしばらく経った頃。同じ場所で無限ループし始めたナディアに思わず言えば、睨まれてしまった。三マス戻るを踏んでから、ずっと三を出している。さっきで四回目。三マス進んで、三マス戻って。この子はいつ此処から抜け出すのだろうか。
「あっ、やったぁ、リコお姉ちゃんとスイッチ!」
「うわー!!」
ルーイが『前の人と位置が入れ替わる』を踏んだらしい。先頭だったリコットが後ろに回されて悲鳴を上げた。大変盛り上がっている。とても愛らしい。
なお、今の最下位は無限ループ中のナディアで、その近くに、一度振り出しまで戻ってしまったラターシャが居る。私とカンナは地道に進み、真ん中辺りで抜いては抜かれを繰り返していた。
「このゲームは、シンプルですが楽しいですね」
「それは良かった」
割と平坦な進みをしているカンナだったけど、楽しんでくれていたらしい。私はニコニコになる。お誕生日様がそう感じてくれたなら一番嬉しいことだね。
「何だか、色々と新しいマスを作りたくなります」
真剣にテーブルを見つめた後、カンナが呟く。瞳の中に好奇心が詰まっているように見えた。
「いいねぇ。例えば?」
「ええと、この辺りに
「面白そう!」
ルーイが真っ先に楽しそうな声を上げる。
私が作ったスゴロクは、真っ直ぐ進んで、突き当たりで折り返す蛇行型の道だ。つまり曲がる部分以外には隣り合う列がある。ぴょんと飛び越えたら、大きくショートカット出来るだろう。かなり前方に居たはずのリコットをマスのお陰で大逆転したルーイだから、余計にその気持ち良さが分かるのかもしれない。
「止まるだけで飛び越えられたら、早く終わってしまわないかしら? 『二の倍数を出した結果で止まったら』とか、何か条件を付けるのもいいわね」
「なるほど、賢いね。面白い」
この会話を始めとして新しいマスの考案でかなり盛り上がってしまった私達は、ルーイが先頭でゴールしたところで第一回戦を終わりとし、みんなの案を盛り込んでスゴロクを改造してから、第二回戦をすることにした。
「第二回戦は午後からにしよっか。それまでに、みんなで新しいマスを考えよ~」
みんなそれぞれ抜き抜かれ戻されを繰り返して、思っていた以上に時間が掛かったから。改造したスゴロクを始めちゃったらランチに掛かりそう。だから一旦保留にして、ランチまではのんびり、新しいマスを相談しましょう。
さっきのナディアもそうだけど、有利すぎるマスなら確率を下げることを考えるとか、みんなが結構、ゲームとして成り立つようにと真剣に考えているのが面白い。カンナも存外、熱心に議論に参加している……いや、言い出したのはカンナだったな。
「直すには、紙を足すか、うーん、面倒だから転写しちゃうか?」
新しくするマスの部分だけ紙を上から貼り付けようかとも思ったが、糊で紙が歪んでも嫌だし、転写魔法で新しい紙に写した方が早いかも。そう思って新しい紙を取り出していたところ、カンナが「アキラ様」と、ちょっと弱めの声で呟く。
「うん?」
「こちらは保護の魔法を使われていないようですので、インクは浄化魔法で消すことが出来ます」
「え」
彼女から伸びる『本当』のタグに、目を瞬いた。
「あっ、あー、そっか、インクも汚れの一つなんだ」
血痕とかも浄化で消せるから、そりゃインク汚れも消せるよな。
そして契約書に対して保護の魔法を掛けるのって、浄化で消して勝手に書き変えることが出来ないようにする意図もあったのか。
重要な書類や契約書には普通、保護の魔法を掛ける。ただ普通の紙は魔力伝導率が低くて入りにくいから、羊皮紙を使う。そこまでは知っていたがその魔法、劣化を防ぐだけのものだと思っていた。いや、浄化を使える人が少ないことを考えれば、その意味の方が強いんだろうけど。
「おお~、本当だ。ありがとうカンナ。これで私の製図が一層、楽になる……」
「いえ、申し訳ございません。ご存じないと察することができませんでした」
今まで言わなかったことを本当に申し訳なさそうに言っているが、カンナは何も悪くない。私は笑いながら首を振り、カンナの頭を撫でた。
そうして新スゴロクが完成したところで、ついでに雑談として、みんなにとって馴染みのあるこの世界のゲームについて教えてもらった。
カンナが教えてくれたトランプを使ったゲームやボードゲームは、ポーカーに似ていたり、チェスに似ていたり。娯楽って、世界が違っても似通るものなんだなぁと感心する。
一方、三姉妹が娼館で客と遊んだというゲームは、多分、彼女達なりに控え目なものだけを教えてくれたんだけど。大体が飲まされたり脱がされたりしていて、うん、聞いてごめん。
ゲーム自体は単純で、サイコロを二つ振って合計が大きい方とか、ダーツみたいなものを投げて的に当て、中央に近い方とか。そんなの。
実を言うとみんなが『子供の頃に遊んだもの』を聞きたかったんだが。考えてみれば此処に居る全員、子供時代に遊んでなさそう。可哀想だからもう突くのはやめておいた。
「おっと、そろそろお昼の用意をしようかな。みんなは適当に遊んでて~」
話を区切りたかった気持ちも半分ありつつ。雑な振りをして一人ソファを離れる。
調理の準備中にちらりと女の子達を振り返ってみたら、私が置き去りにしたトランプを使って、一番大きい数字を引いた人の勝ちというシンプルな遊びを始めていた。放っておいたら色んなゲームを考案しそう。それこそ小さな子供のように自由で可愛いね。
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