第586話

「私達も手伝っていいの?」

「あー」

 考えてなかったなぁ。

 いつもお誕生日会の準備はほとんど私がやっていて……いや、ラターシャの時、ケーキ作りだけは、みんなで楽しく用意したっけ。何にせよ今回はカンナの歓迎会の意味も込めて、みんなにも手伝ってもらうというのは悪くないかもしれない。

「うん、じゃあ出来る範囲で」

「わーい、許可が下りた~」

 いつも禁止しているような言い方を……。まあ、リコットの時はちょっと強めに拒んだけどね。でもあれは別で理由もあったし……。ごちゃごちゃ内心で反論しつつも口にはしない。いつも言い負けるから。

「その、私は……」

 やや居心地悪そうに呟くカンナに、思わず笑う。

「勿論、お誕生日会の準備にカンナは不参加でお願いね。でも当初の予定通り、午後には服の受け取りに行ってきて」

 オーダーメイドで依頼した例のお仕事服のことだ。

 今日の午後に仕上がる予定だと連絡があった為、早速、受け取りに行ってもらう。支払いは終わっているしカンナには取りに行ってもらうだけ。試着とかには全て立ち会ったから、もう私が確認するべきものは無いので大丈夫。

 カンナにとっては少し都合が良かったかもな。みんなが自分の誕生日会の準備をしている中でずっと待機しているのもそわそわするだろうからね。ついでに幾つか、お遣いも頼んでおく。ありもしない用事を頼むわけじゃない。いずれ行ってもらおうと思っていたお遣いを、お出掛けついでに頼んでおこうと思っただけ。

 少し戸惑いながらカンナは「畏まりました」と頭を下げた。

 では午後まで……というかお昼ご飯の用意まであと一時間ほど。それまで私は白いミシンの分解でもして遊んでようっと。再び工作部屋へと戻った。

「――それでは私の可愛い侍女様、お買い物をお願いします」

「はい」

 みんなでお昼ご飯を食べた後。お遣い用の買い物リストを手渡して、内容を確認してもらう。「いちいち『可愛い』って言う必要あった?」と横からリコットの声がしたけど聞き流しまして、メモの気になる点を質疑応答。そして念の為、ルーイを補助に付けることにした。お買い物のお手伝いをしてくれるルーイには好きなお菓子を好きなだけ買ってきなさいと銀貨を五枚渡す。日本円にすれば五千円くらいなのでホールケーキも買えます。しかしみんなには「渡し過ぎ」だと笑われた。

 とにかく二人を見送って。私達は、明日の仕込みを頑張りましょう。

「これとこれはみじん切りで。こっちは、君達の小さいお口でも食べやすいサイズにざく切りにして」

「言い回しが何か……まあいいや。了解~」

 スマートな指示だったはずだが妙な顔をされてしまった。おかしいな。まあいいって言うから、まあいいか。

 野菜を切ってもらっている間に私はお肉を切りますよ。色んな種類の肉をそれぞれ丁度いい大きさに切り終えたら、味付けをして真空パックしておきます。

「アキラちゃん、次は~?」

「おー、もう終わったのか、素早いね。じゃあこれ、皮を剥いてミキサーしといて」

 切り終えて丁寧に分けられた野菜を回収し、ミキサーしてほしい果物と野菜を、ごろごろと出した。手回しミキサー機も一緒に。

「何を作るつもりなのかが分からない……」

「ふふ」

 受け取りながらラターシャが難しい顔でそう呟く。でも手を止めずにお手伝いをしてくれている。可愛い。

 そんな真面目で手際の良いみんなのお陰で、渡した作業はあっという間に片付いてしまった。

「アキラちゃん、次」

「もうねぇ、無いよ~」

「えー!」

 非難轟々である。おかしい。もういっぱい野菜切ってくれたじゃないですか……。女の子達は働き者すぎる。

 なお私は今、女の子がさっきみじん切りにしてくれたたまねぎを飴色になるよう炒めていた。

「本当に無いの? なんかあるでしょ?」

 まだ出るだろジャンプしろよみたいなノリで聞いてくるの止めて下さいよ。困って言葉を選んでいたら私を突き飛ばす勢いでリコットが隣に立った。

「たまねぎくらい炒められるんだけど!」

「そ、そうだね……じゃあちょっと、焦げないように気を付けてお願いします」

 もうすぐ終わる作業なんだけどなぁと思いつつ、リコットと代わった。コンロ前を追い出された私が振り返ると、まだ調理用テーブルの傍に立ったままのナディアとラターシャと目が合う。

「私達にも何か無いの」

「……ええと」

 ちょっと考えてから、大きめのボウルに挽肉と卵とパン粉、その他調味料を入れた。途中からナディアの尻尾がふわっと上がって、先っぽがゆっくり揺れ始める。ハンバーグのタネだと気付いたらしい。

「これをしっかり混ぜ合わせて下さい。白っぽくなるまで」

 私がボウルから手を離すなり、ナディアがいつになく素早くボウルを引き寄せた。ハンバーグが大好きなナディアさんは、この作業を自分でやりたいらしい。ラターシャは察していたのか手を出さなかった。

 他にもお願いできることと言えば、明日に焼く予定のパン生地の準備かな。同じく材料を別のボウルに入れて、その混ぜ作業をラターシャに任せる。ひと纏めになるまでね。

 その頃にはリコットもたまねぎを炒め終えていたので、余分な油と水分を取った上で、ナディアの混ぜているボウルに入れてもらった。

「ではリコ、お片付け手伝って下さいな」

「はーい」

 一旦、使ったものを洗ってしまおうねぇ。

 そうして調理器具やお皿、調理台もきちんとリセットする。それが終わったら口を尖らせているリコットを宥めながら解放した。十分助かったから拗ねないでねぇ。

 パン生地はいい感じに混ぜてもらったら仕上げは私がやるので、ラターシャも解放。ナディアもお肉が綺麗に混ざったようだったので解放です。もう本当に無い。ジャンプしても出ない。ありがとうね。

 さてと。私はそれぞれの仕上げ作業をしましょう。まずパン生地を仕上げて一次発酵させておく。

 次はナディアに作ってもらったハンバーグのタネを、ハンバーグの形にして空気を抜いて、一人分ずつに分けておく。そして一旦、私の魔法で瞬間冷凍。これは明日の夜の分だからね、悪くならないように。

 最後に、ミキサーしてもらったものをいい感じに調味料とオイルで混ぜ合わせる。これは明日使うドレッシングです。専用容器に移し変えておく。「ドレッシングかな」「ソースかな」と私をソファから眺めているラターシャとリコットが話していた。可愛い。

「んー、これが限界かな」

 私は仁王立ちになって少し悩んだ後でそう呟き、最後のお片付けをした。

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