第577話
調理と共に献立もお任せにしたら、テーブルに並んだのはリゾットなど私の体調を気遣った優しいものだった。
「私はありがたいけど……みんなには頼りなくない?」
「あはは、平気だよ。ベーコンエッグもあるし」
確かにサラダやポテトやポタージュスープもあるし、バランスを考えると不足ないとは思う。でも、うーん。私が首を傾けていると、ラターシャが苦笑した。
「いつもアキラちゃんの分でこのテーブルが埋まるだけで、これが一般的な食事だよ」
「おー」
そうか、すごく少ないように見えるのは、テーブルの上がすっきりしているからか!
納得したら安心した。みんなが大丈夫ならいいです。ポタージュスープが美味しい。私がほくほくと食べ進めるのを見つめて、みんなも目尻を緩めている。少しでも食べたら安心してくれるらしい。優しい子達だ。
「午後のお出掛けは、延期する?」
「ううん、大丈夫、行こう」
今日はおやつの時間に子供達とお出掛けを予定している。心配そうな顔をするルーイとラターシャだけど、私は笑顔で答えた。美味しいスフレケーキのお店があるんですよ。それくらい食べられるよ。そろそろ回復してきているからね。
この時点では、二人共ちゃんと頷いて了承してくれたものの。
「体調が悪くなったら、すぐに帰るんだからね」
出掛ける頃になると何度もこのように言い含められた。子供達、可愛いねぇ。
なお、カンナにはお留守番を言い付けておいた。従順なカンナは文句なく承諾してくれる。実家の護衛や運転手だと一回は渋るから、新鮮なほどに大人しい子だ。こっちも可愛い。
「アキラちゃん、眩暈とかない?」
「無いよ~、ありがとうね」
いざ出発、とアパートを出てすぐにルーイが問い掛けてくる。そんなに心配かぁ。頭を撫でた。姉組のガードが固くて普段あまり撫でられないので、お出掛け中にいっぱい撫でちゃうんだから。よしよし。よーしよし。
お手手も繋ごうねぇ。ルーイと手を繋いだついでに、どさくさに紛れてラターシャとも繋ごうとしたが、伸ばした手は叩き落とされた。そんな強めの拒絶が来るとは……。だけど直後、いつも通りに肘当たりの服をきゅっと掴んできたので、私は即座にニコニコである。
「どこにあるの?」
「中央から少し外れたところ。今回も顔パスだから心配ないよ」
「またお金使った……」
はい。可愛い二人を行列に並ばせるわけにはいかないから勿論です。
「ああでも、予約したせいで無理したわけじゃないよ。本当に、体調はもう平気だからね」
二人ならそんな風に誤解して心配しちゃいそうな気がしたので、きちんと補足。すると案の定少し考えてしまっていたらしく、二人は安堵の表情で「それなら良かった」と言った。
「早くまた、沢山食べるアキラちゃんに戻ってね」
「あはは、うん、すぐに戻るよ」
可愛らしいお願いだな。頬が緩みっぱなしである。
「未だに驚くことが多いけど、それでも普通の量しか食べないアキラちゃんを見ると、物足りなくなるんだよね」
「本当にそう」
二人の会話にまた笑った。そうなんだよね。みんなも別に私の食べる量の多さに慣れてくれたわけじゃない。そろそろ慣れてくれてもいいのにと思うくらい、毎回、何処に入っているんだろうって顔で私を見ている。でも急に普通の量を食べているとそれはそれで違和感なんだって。
「今日は、スフレケーキのお店だっけ?」
カフェの立ち並ぶ通りを過ぎ去った頃、きゅっと私の手を握りながらルーイが聞いてくる。可愛い。でれでれしながら頷いた。
「そう。すーっごく美味しいスフレケーキ専門店。しかも、ジオレンならではのサービスがあります」
「うーん? 果物が付いてる?」
「惜しい~。フルーツソースやジャムが、沢山あるんだ。掛け放題で」
「えっ、美味しそう!」
バーカウンターみたいなところに全種が並んでいて、自分のスフレケーキにどれだけでも、何種類でも掛けて良いらしい。
「どの食べ合わせが一番美味しいか、自分で実験できちゃうんだよ。楽しそうでしょ?」
二人が目をきらきらさせながら勢いよく頷いた。良かった。喜んでくれそうだ。
目当てのスフレケーキ専門店は、老夫婦が娘達と共に経営しているこじんまりしたところだ。噂によると最初はスフレケーキとコーヒーだけのお店だったところ、さっき話したフルーツソース・ジャムのサービスを始めたところで話題を集め、最近になってじわじわと人気が出ているらしい。でもその前からしっかりと固定客のあった確かなお店と聞いているので、私も楽しみである。
ややあってお店に到着すると、店主のおじいさんとおばあさんがすぐに私と気付いて、会釈をした。案内してくれた店員さんは娘さんかな。一番奥のテーブルに三人で座る。行列ほどではなかったものの、店は賑わっていた。
「スフレケーキって、一つでどれくらいの……あ、アレかな?」
「そうみたいだね、スフレケーキは一種類だから」
二人は近くの席のお皿を盗み見て、大きさを確認していた。
「ふわふわだから、大きく見えても二人は充分に食べられるよ」
そう言ったら、二人が安心した様子で頷く。飲み物はいくつかあるようだからそれぞれ選んで、スフレケーキを一人一つずつ注文した。
「そういえば、アキラちゃん。えっと……」
「うん? ああ。大丈夫、好きに喋って良いよ」
何かを言いたそうにしつつもルーイは言い淀み、視線を周りに向けた。おそらく聞かれては困る内容なんだと察して盗聴防止の結界を起動する。正解の対応だったらしく、ルーイは軽く頷いて口を開いた。
「この間の依頼、魔法石を補助に使わなかったの? それとも使っても、あんなに大きな反動だった?」
おや。鋭い質問。私が以前に「魔法石を補助に使えば再生魔法でも反動を抑えられるかも」と仮説を呟いたことをルーイは覚えていたんだね。ラターシャも思い出した様子で、目を瞬いてから私をじっと見つめた。
「残念ながら使用しなかったよ。理論上、反動を抑える効果は無いって気付いちゃったから」
「あ、そうなんだ……」
私も一瞬、そんな効果があるのではと期待したんだけど。よくよく考えればそれは難しいと思った。
生物の魔力回路は、通すだけで魔法陣を描くような複雑な作りになっている。魔法を起動すると言うのは、魔力回路を使って魔法陣を描くことで可能になるものだ。
つまり、魔法を使う為に必要な魔力は必ず、魔力回路に通さなければならない。
その源が外部でも内部でも、魔力回路への負担は同じということになる。だから魔法石で補えるのは魔力量のみ。今のところ私の魔力が枯渇した例は全く無い為、現状、魔法を使う助けとして私にはあまり必要ない。
「あぁ~、そっかぁ~」
がっくりとルーイが肩を落とす。ルーイもずっとこのことは忘れていたそうなのだけど、私が王妃の治療の後に寝込んでいる間に思い出して、駄目だったのかなぁって気になっていたんだって。
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