第551話
呆れ一色のナディアの声を受けても、私は堂々と胸を張って頷いた。
「白の方も気になるから欲しい!」
元気よく答えると、「あなたがそうしたいなら」とすぐにナディアが引き下がる。まあ、この問答よくあるけど、必ず私が好きにしているものね。
「じゃあ、その三台を購入で。大きい方の二つは自宅まで運んでほしいんだけど、可能?」
白い方のミシンは大きさ的に運べそうだし、収納空間に入ると言ってもそこまで不自然でもない。
おばさまは少し目を白黒させながらも、搬入も含めて了承を告げてくれた。ナディアとの「値段のことは気にするな」という先程の会話を横で聞いていたから、白いものを買う可能性があることは予想済みだったんだろう。まさかそれに加えて二台も追加購入するとは思わなっただけで。
さておきミシン以外に見たいものもあったから、もう少し店内も見たいと告げて一旦おばさまの傍を離れた。
他にも購入する予定をしていた道具などをナディアと一緒に確認する。これは利用するのがナディアだけになる可能性が高い為、彼女が使いやすいと思うことが一番だ。気になる点を入念に確認しつつ、実際に触ってもらうなどして、吟味して選びました。ついでに欲しいとナディアが言う生地や糸も数点、合わせて購入することに。
これからナディアには私の我儘に付き合って頂くのでね。お礼に、欲しいものは幾らでも買い与えます! ていうか、ナディアが欲しいものを告げてくるなんて珍しいので嬉しかったというのもある。こんなにちょろい『金づる』もなかなか居ないと思うので、みんなにはもっと活用して頂きたい。
「お買い上げありがとうございます」
「はーい。割引もありがとう! 搬入よろしくお願いします」
沢山を購入したお陰で、商品も割引してくれたし、搬入の費用は無料にしてくれた。今日の昼過ぎに入れてくれるそうです。大きい方のミシン二つ以外は、全部私の収納空間に放り込む。
「じゃあ、ついでに追加のソファを見に行くかー」
ちょっと遠回りすることになるけど、ナディアもカンナもまだ疲れていないって言うのでそのまま向かう。それでも多少の疲れはあるだろうとソファの発注は手早く終わらせたんだけど。アパートに帰る頃には昼食時間ぎりぎりだった。ミシンの店が楽しくてお買い物に時間を掛け過ぎたね。とにかく急いで昼食を作らなければ。
「アキラちゃんも疲れたんじゃない? 代わる?」
「ううん、大丈夫だよ。でもお手伝いはお願いします。この野菜を千切りにして~」
調理台の上にごろごろと野菜を出したら、既に立ち上がって傍まで来てくれていたリコットが苦笑した。
「はいはい。しんどくなったらいつでも言ってね」
優しいお言葉に「はーい」と呑気に答える。みんなはいつも心配性だなぁ。私は元気いっぱいですよ。
それでも今日はあんまり時間が掛からない献立にして、ササッと済ませてしまいました。私が疲れていたからではなく、時間が無かったからです。急がないと、ラターシャがお腹を鳴らしてしまう。ラターシャの腹時計はいつも正確かつ正直で可愛いのだ。
そして昼食後。
「さて、まずは道具にコーティングをするかぁ」
市販の道具を弄って、魔物素材も加工できるようにさせます。
「カンナ、紅茶あっちに持ってきて」
「はい」
みんながまだ昼食のお片付けをしてくれている間に、私はそれだけを告げ、工作部屋に向かった。コーティングするにしても、元の切れ味が落ちるようなことはあってはならない。魔力の流れを上手く誘導してやれば刃の部分を直接加工しなくてもいいはず。気を付けて加工しましょう。まずは魔物素材の魔力回路を確認して、それに対応する魔力回路を考え出す。一旦、どちらも紙に描き起こしておこう。
「此方に置きましたので」
「ありがとう」
お茶を持ってきてくれたカンナが、邪魔にならない位置に置いてくれる。でも欲しいと思ったら届く範囲だ。そんなところまで気遣いが行き届いていて上手だねぇ。
「アキラ様、お手隙の際で良いのですが」
「うん、どうしたの?」
温かい内にひと口は飲みたい。そう思って飲んだ時に、作業の邪魔にならないタイミングと見てカンナが声を掛けてきた。私に何かお願いがあるらしい。
「お持ちの服や装飾品を管理させて頂くことは可能でしょうか。侍女としては、主要な仕事の一つなのですが」
「確かに!」
そうだね、侍女にはコーディネートまで全部お任せしちゃっても構わないはずだし、それなら全体を知ってもらわないといけない。だけど私はほとんどの服をずっと収納空間に入れてしまっているせいで「勝手にやっておいてー」が言えないのだ。
「待ってね、出しちゃおう。化粧品もあるからそれもお願いできる?」
「はい、勿論でございます」
私は早速立ち上がって、リビングに移動する。リビングはまだまだスペースが余っているし、全部出してしまっても大丈夫だろう。
余っていたスペースの一角にクローゼットとチェストを一つずつ出した。どちらもまだ使っていなかった家具だ。これからカンナにお任せして、私の服を此処に片付けてもらおうかな。
そのようなことを説明しながら、私の服など諸々を全て出した。仕分け作業用に、一時的に大きなテーブルも傍に出しておく。
「正直あんまり持ってないんだよね。この世界だと動きやすさばっかりを考えちゃってさ~」
パンツスタイルで、適当にシャツや薄いニットを着て、上に一枚羽織るみたいな。流石に同じような形と色を二つ以上は持っていないから、組み合わせを変えれば数があるように見せられなくはないんだけど、物足りなさを感じていることは否めない。
そのようなことをぼんやり伝えると、カンナがちょっと間を置いてから頷いた。
「私の方でも、追加すべき衣類や装飾を検討いたします。……少し、庶民の雑誌で勉強をさせて頂いてからになりますが」
「あはは、そうだね。ファッション雑誌なら本棚に幾つかあると思うから、好きに見ていいよ」
「はい」
侍女としての仕事は長いカンナだが、庶民の服のコーディネートは未経験で当然だろう。今までしてきたのは、ご令嬢のお洋服や、ドレスばかりかな。それでも私の侍女として尽くそうとしてくれるのだから、嬉しい限りである。
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