第506話

「ついでに、これも納品。魔力残量の測定器」

 魔道具の魔力残量も見られるし、人の残量も見られるものだよと、簡単に説明した。ただし絶対量ではなく割合なので、特に魔道具は定期的に測って、減り具合を見た上で補充のタイミングを見極める形になるだろう。まあ、そんなにすぐ補充が必要になる魔道具は今のところ何も無いんだけどね。

 私が説明している途中から早速、ユリアとライラが嬉々として傍の照明魔道具を測定していた。でもまだほとんど百だったからしょんぼりしている。普段はキリッとクールにしているけど、実は結構おちゃめだよね、この二人。でも魔法を扱える私の女の子達とモニカを測定すると割合がちゃんと出てくれたので、改めて楽しそうにしてくれました。満足してくれて良かったです。

「では改めて、出来高をお支払い~」

 物資で依頼された分と、工事進捗を見た出来高を相殺して、出来高の方が高かったので私が支払う側である。書類を交わして、お金を渡した。

「我が侯爵家の為に色々と御力添えを頂きましたから、また何か御礼が出来ればよろしいのですが」

「いやいや、あれはもう充分にイーブンだよ。むしろフォスターについては私が最初に助けを求めたんだから」

 私にちょっかいを掛けてきた以上、あれは潰さなきゃいけなかった。その手段として偶々、モニカ達の問題があっただけだ。

 だから御礼とかは無し。モニカからも、私からも。そう言うとモニカは少し思うところを残した顔をしつつも、飲み込んで了承してくれた。

「じゃあそろそろ今日も帰る――そうだ、ついでにルフィナかヘイディに聞きたいことがあったんだった」

 さっき会ったのに、聞くのをすっかり忘れていた。

 玄関の方に歩く私を見送る為について来たモニカが、「どうかなさいましたか?」と尋ねてくる。

「大した話じゃないんだけど。呼び鈴ってどういう仕組みで音が鳴るのか知らなくてさー。二人なら知ってるかなって。モニカは知ってる?」

「……いえ、そう言われてみれば、どうしてでしょうね」

 ユリアとライラも首を傾けている。やっぱりみんな知らないねぇ。興味を持つ私が変なのかもしれないけど、気になり始めたらずっと気になるから、早く解決したい! こんな時に限ってタグが何も出してくれないせいだ。いっそ分解してしまえば分かるのかもしれないが、流石に賃貸の呼び鈴を外して分解する度胸は私にも無い。

 ということで、ルフィナとヘイディに聞きます。モニカ達も気になっちゃったらしくて、三人一緒について来た。

 質問を受けてくれたのはヘイディの方。ルフィナは今も捲揚機ウィンチを使いながら楽しそうに骨組みの上ではしゃいでいる為、私達が居ることにすら気付いていない。

「あれはキノコですよ、キノコの魔物で」

「えっ、キノコなの? 魔物なの?」

「すみません、混乱させてしまいました。魔物です。キノコの形をしているだけです」

 面白い回答だった。押したら音が鳴る魔物素材らしい。そういえばエルフの知恵にも、『音の出る魔物素材』は出てきたなぁ。どんな音が鳴るかまでは知恵に無くて、且つ、呼び鈴ってものがエルフ文化に無いから、紐付いていなかった。

 魔物の種類と部位によって音は様々で、同種でも個体差があるそうだ。でもプコプコッて音と、プェーッて音ほどの違いだと、違う種類の魔物だそう。何にせよどれもキノコに擬態していることだけが共通しているらしい。面白いねぇ。

「なるほどなぁ~、魔物素材って結構使えるよね~」

「はい、建材としても有用な物は多くあります。そのような知識をまとめた本もあるはずですよ」

「そっか、そりゃそうだ。探してみよう」

 エルフが持つ知恵にも魔物素材は多くあるけれど、里の中で使う用途でしか認識されていない。近年、人が生み出した製品ではどのように使われているか、そういう知識を得られたらもっと私の魔道具開発、捗りそう!

 古い知識も当然あるほどに有用だが、新しい知識も併せて持っていなければただ古いだけの知識になってしまうね。私がもっと上手く、エルフの知恵を活用しなければなるまい。ちなみに魔法陣なんかは人の知識よりエルフの知識の方が奥深かったりするのである。

「とにかく疑問が晴れてスッキリしたー。ありがとう!」

 話題をキノコで締め括ったのはどうかと思うけども。今回のスラン村訪問も気持ち良く終了した。ジオレンに戻りましょう。

 アパートに戻ると女の子達はそのまま玄関へ移動し、無駄に我が家の呼び鈴を押して遊んでいた。此処の呼び鈴は、プコプコッです。ヘレナのと一緒だね。でもあれよりちょっと低い音のような気もする。個体差かな。この素材の元になった魔物はきっと、ハスキーボイスの子だったんだ。私がつらつらと想像を語ると、「生々しいからやめて」って言われた。すみません。

 なお、このキノコ系魔物はとても見た目が……、良くないものに似ている。その為、女の子達が「どんなやつ?」と興味津々な顔をしても私は頑なに図鑑を開かなかった。

 私は知恵でも知っているし図鑑でも見た覚えがあるけど、これは女の子が見るやつじゃありません!! しかも実物は動くから最悪だ!!

「あれ? ヘレナさんから手紙が来てるよ」

「おや本当だ。ありがとー」

 帰宅後すぐ呼び鈴で遊んでいたから気付かなかった。不在の内に送られてきていたようだ。手紙が来るようなこと、何かあったかなー、と首を傾けると、「あの侯爵家のことじゃない?」ってナディアに言われた。あ、あぁ~。

 そういえば元々、ヘレナからの情報提供が始まりでしたね。少なくとも私達にとっては。

 ヘレナからは、とにかく今回のお触れには驚いたということと、確信は無いものの私が動いたことを察しているらしく、これでより一層、安心して生きていける、言葉に表せないほど感謝しているという内容が丁寧に綴られていた。

「あーあ。信仰が深まっちゃったかなー」

「うう、やめてくれ~」

 リコットの揶揄いに唸ると、みんなが笑う。しかしまあ、ヘレナにとっても良い結果だと言うなら、これで良かったのだろう。

「あとは、デオンだね。彼もお触れは見ただろうし、もう安心だってことは伝わったかな」

 改めて今回の顛末を話すべく、彼とも話す機会を設けなければ。

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