第480話
一通りの採寸を終えたら一部の家具はそのまま設置した。既に私の収納空間の中にあったものだ。野外でも色々と使用している為、テーブルと椅子は結構あるんだよね。選んでもらう為に一旦、全部出して、どれを置くかをみんなと相談の上で決めた。
「調理台もこれでよくない?」
「そうね、アキラ、構わないかしら」
「勿論」
全部が私の持ち物だからって毎回「使っていい?」ってみんなが聞いてくれるのが可愛い。気にせずみんなで使おうねぇ。
「此処にソファとローテーブルが欲しいね、みんながのんびりお茶して寛ぐスペース」
ダイニングテーブルでもお茶は出来るけど、ソファとローテーブルはまた違う感じで良いと思う。寝転がってお昼寝も出来るし。ソファは三人掛けを二つ置いたら全員が座ってもゆったりできるかな。
「ベッドは今あるもので良いのではない?」
「うーん……」
「アキラちゃんがお気に召さない声を出してる」
私の反応にリコットがけらけらと笑う。私も釣られて笑った。バレバレである。ナディアが言うのはいつも馬車旅中にテントの中で使っているベッドのことだ。それなら既に五人分あって、追加購入の必要は無い。しかし、テントとは言え野外で利用しているものと併用するのはあまり気乗りしないのが本音だった。
「注文して、あんまりにも時間が掛かるようなら持ってるものを一時的に使おう」
引っ越すにあたってすぐ必要なのはベランダに置く物干しとベッドだけ。今のベッドは新しいものが来るまでの間だけ利用して、その他の家具は、無くても別に生活が儘ならないわけではないので、のんびり待とう。そう結論を出したら、ナディアは軽く肩を竦めた。
「あなたがそれでいいなら、特に文句は無いわ」
うむ。いいです。
みんなはどうやら、私にあまり散財させたくないようだ。でもこれは今後を考えても無駄になるものじゃないから大丈夫。寝具はそれぞれお気に入りがあるから好きにさせるとして。キッチン周りの収納棚と、衣服を収納する箪笥やクローゼットは持っている物も使いつつ、少し追加購入することに。
「じゃ、早速少しだけ見に行こうか? 本格的には諸々が片付いてからにするけど、出たついでにさ」
急ぎのベッドだけ先に注文してしまうのもありだろう。午後から内見を三件回ったことで既におやつの時間すら過ぎている為、帰りの道すがら、手早くね。
幸い、いい感じのベッドが見付かったので五つ注文。在庫が三つで、追加で二つ用意するのに五日ほど待って欲しいと言われた。先に注文しに来て良かったな。それで構わないよって伝える。在庫の三つはすぐにでも運べるそうだ。相談の結果、搬入の立ち合いに一度アパートに戻ることに。でもナディアとルーイは一旦、宿に帰した。
「二人はあんまり体力が無いからね、今日は疲れただろうなぁ」
先に帰っていく二人の背を見送りながら私が言うと、リコットとラターシャが笑って「過保護」と声を揃えた。過保護じゃない。
ちなみに搬入予定は一時間後になっているので私達は少しのんびりと移動する。
「あっ、観葉植物も置きたい! ねえこれ置いていいかな!?」
通り掛かった花屋で出会った観葉植物に駆け寄ると、リコットが笑いながら「好きにしなよ」と言った。わあい。これ可愛い。買うぞ~。ちなみに店先に居た店員のおばさまも、子供みたいな私の行動を笑っていた。
「よし、今日から君はマリコだ」
「え、名前つけるの?」
「あはは、いいじゃん、マリコちゃん」
ラターシャは戸惑っているがリコットは早速呼んでくれた。植物だって生き物だから名前があった方がいいじゃん。愛着も湧くってものですよ。ねー、マリコ。抱き上げて歩くとやや目立つが、この子も今日から私の子なので大事に抱きます。マリコは生きている為、収納空間には入れられません。
「窓際が良いかな~?」
「そうだね、ちょっとでも太陽に当たる方が良さそう」
いそいそとマリコの位置を調整している私が面白いのか、後ろで二人が笑っている気配。しかしマリコの幸せな位置を探すのに余念はありません。この辺りが一番長く太陽が当たるかな。今日はもうたっぷり水をあげたみたいだから、数日はあげなくても良いそうだ。
その後、三つのベッドが無事に搬入され、マリコには短い別れを告げて宿に戻る。引っ越しが長引きそうなら水やりには必ず来ます。
宿に戻ると、ケーキとコーヒーが用意されていた。先に帰った二人が、隣のお菓子屋さんでケーキを買っておいてくれたらしい。嬉しい。
「アキラちゃん、疲れたんじゃない?」
「ん?」
「まだ向こうの声が聞こえているんでしょう? よくそれで会話できているわよね……」
あー。そうだね、声はずっと聞こえている。でも今はもうただの背景音楽となっていて気になるほどじゃない。ほんのちょっといつもより気疲れする程度だ。みんなの優しさと温かいコーヒーと美味しいケーキがあれば大丈夫。コーヒーを一口飲んで、ほっと息を吐く。
「向こうに新しい動きは無さそう?」
慎重でありながらも明るい口調で問い掛けてくるリコットに、私は笑みを向けてから答えた。
「バカ息子のアンディへ先に連絡することに決まって、一時間くらい前にようやく手紙を出したみたいだよ。伝書の鳥。多分、侯爵家の専用の鳥かな」
聞こえてくる感じではね。貴族様は専用の伝書鳥を飼っているらしい。
その内、私もスラン村に置こうかな。あの村も私達が住む時には何かしら外界との連絡手段を用意する必要がある。特に冒険者ギルドとね。まあまだ先のことだから、それも追々で。
のんびりとしたケーキ休憩が終わった後、私はまた魔道具製作に勤しんだ。女の子達は賃貸に移ることを考えて荷物を整理したり、新しく必要になりそうな物のリストをあげたりしてくれていた。
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