第475話
三十分足らずで、一つ目の組み立てが完成した。すぐに術を入れ、正常に起動したのを確認。自分でまず触ってみたが、まあ、そうだね、ほぼ百である。対象の魔力総量と現在量を把握して割合を出すこの魔道具。分母が大きい私はあまり減らすことができない。今は九十九・八を少し過ぎた状態。魔法は昨夜使ったけど、もう結構時間が経ってほとんど回復している。今この魔道具の魔法陣を起動してまた少し減ったものの、流石にあんまり減らないな。
「ん」
「お、わーい。使って良いの?」
「うん、それはこの部屋に常備する用」
後ろに居たリコットに魔道具を渡して、私はそのまま二つ目の組み立てに取り掛かることにした。
リコットが少し私の様子を気にしたような気配があったけど。知らない振りをしたら、リコットも知らない振りをしてくれた。
後ろで女の子達が、きゃっきゃと楽しそうにはしゃぎながら魔道具を使っている。
「いや、ラターシャもう半分無いじゃん! 何してたの?」
「風操作が出来るようになったのが楽しくて、つい……」
「あはは!」
可愛い会話が聞こえる。癒しである。
「ねー、アキラちゃん、これ使っても私達の魔力って減らないの?」
「うん、ガロに渡したやつと一緒。対象が帯びてる魔力を使うから、減らないよ」
振り返らずに答える私のことを、多分、女の子達はみんな気にしていると思う。でも何も聞かないでいてくれる。
「帯びてる魔力ってなんか不思議だよね~、使っても減らないって、どういう仕組み?」
そして何にも気付いていない振りで、絶対に気付いているだろう人がそのまま話し掛けてくるのがおかしくって、ちょっとだけ口元が笑ってしまった。
「んー、何て言うか……生物からは一定量の魔力が常に生まれ続けてるんだよ。その内の一部が体内に蓄積されて、魔力が回復していく。残りが周囲に漂う」
「あぁ、じゃあ増えてる分の方が多いんだね」
「そういうことだね」
二つ目の組み立てを進めながら、スラン村に納品予定の残りの魔道具、次の優先順位は何だったっけと思い返す。モニカから渡された優先順位表は覚えている。取り出さずにぼんやり頭の中に浮かべて、次は
あれは重いものを高所へと引き上げる魔道具だ。屋根の上に木材の束を上げるとか、対象を固定さえ出来たら、何でも上げられる。まずは引き上げ先に魔道具を設置し、その魔道具から伸びるロープを対象に掛けて引き上げる形になる。非力な女性だけで家を建てるには必須だよね。優先度が高いのは妥当な話だ。
正直、あの村に最優先で必要なのは掘削機だと予想していたけれど。ケイトラント、一晩で穴を掘っちゃうからなぁ。掘削機の優先度が意外と低かった理由もあれでよく分かったよ。穴を掘るって存外大変だよね。私は魔法で出来るからなんてことはないけど、掘っている最中に大きな岩が出た時とか、特に大変。でもエルフ印の掘削機は岩砕きモードがあるので、細かく砕いてしまえる。女性だらけの村には有用だろう。ケイトラント以外の人にも、出来ることが増えるってのが肝要だよね。
さておき、
とか考えている内に魔力測定の二つ目が完成したので、さくっと術を入れたら、収納空間へと仕舞い込んだ。今度モニカに会いに行く時に渡そう。
じゃ、次の魔道具に取り掛かりますか。休憩もせずに新しい図面を取り出し、不要になった工具や図面を片付ける。
実際のエルフ印では、
ちょっとパワーが必要な魔道具だから、今までより彫刻板も枚数が多い。魔道具自体はそんなに大きくないんだけど、ぎゅっと中身が詰まっている魔道具になる。
「板を出してる! 彫刻板!?」
「反応はや」
彫刻板の用意の為に木材を選定してたら、既にはしゃいでいる子が居る。
「まだだよ~」
「ぬう」
すぐ傍まで早くも距離を詰めていたらしく、思っていた以上に近い位置から不満そうな唸り声が聞こえた。可愛らしいな。
板は二十二枚を取り出したところで、一枚ずつ形と大きさを調整していく。
「アキラちゃん」
「んー?」
手元を見たままで、ラターシャの呼び掛けに応える。少し間が空いたのは多分、私が振り返るのを待ってくれたんだと思う。ごめん。
「ヘレナさんから手紙が来たみたい。そっち持っていく?」
「おー、お願いします」
今日はちょっとぼーっとしていて、魔力に気付かなかったな。ラターシャが持ってきてくれた手紙を受け取って、お礼を告げてから、中身を見る。明日の午後から三件まとめて内見を回れるとのこと。まだ近くに居たラターシャに手紙を渡せば、彼女が読み上げてくれてみんなに伝わった。それを私がやるべきだね、重ねてごめん。
「じゃあ、モニカの所は明後日に行くか」
「え?」
ぽそりと独り言を呟くと、またラターシャが反応した。一瞬迷ったけど、予定は早めに共有、だったな。
「ちょっとモニカに用事があるから、明後日、スラン村に行くよ。みんなもおいで」
「うん……何かあったの?」
「いや。例のバカ侯爵についてはモニカもよく知っているらしい。ゆっくり話を聞きたいと思って」
簡単な説明だが、みんなも納得して頷いた。フォスター侯爵の名前はもうみんな、ヘレナの資料で知っている。結局あれはリコットやナディアだけじゃなく、ラターシャとルーイも見ていた。子供に見せることは躊躇われる内容も多かったが、本人達が受け止めることを望んだから止めなかった。
そして全員があの侯爵家の黒い噂を知るからこそ、私が連れて行かれた時の不安は大きかったんだと思う。
心配ないよって、もっとちゃんと説明しなきゃいけないのに。聞かないでくれている女の子達に甘えて、私は背を向け続ける。
とりあえずヘレナ宛てに明日の予定を了承するメモを送って、モニカには、明後日にスラン村を訪問する旨のメモを送っておく。今の私、最低限のことしか出来ないなぁ。情けない気持ちが降り積もり、ちょっとだけ背中を丸めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます