第462話

 ついでに、私が深夜逃亡した頃にはもう寝ていた子供達にも、一人で森へ行ったことを正直に白状した。

 反省しています。次からは誰か同行者を付けます。

「そもそもね、どんな不意打ちでも守護石は自動防御だから、君らは怪我しないんだよね、考えてみれば」

 最後の言葉を付け足さないと、ナディアを置いて行った理由が嘘になってしまうのでやや慌てた。危ないわ。後から気付いた設定です。バレてるかな。いやこのまま押し通そう。

「私も心配させないように怪我には気を付けるだろうし、みんなも見張りが居れば安心して待っててくれるし、同行者付きは一石二鳥だと気付きました」

 最初はラターシャとルーイも驚いたり戸惑ったりと、目をパチパチして私の話を聞いていたけれど。締め括った頃には緩く笑っていた。怒られる前に反省。成長中です。次に目指すのは『そもそも心配から掛けない』かな。ちょっとそれは難易度が高いね。一応は目指すけど。

「じゃー、テスト結果を確認しますか」

 朝食と食後のコーヒーを少し飲んだ私は、立ち上がって机の方に向かう。まだ絶賛テスト中の為、メトロノームさんは揺れています。

「おお。変わってないな」

 一目見て、もう結果が分かってしまった。素材は私がテストを始めた時点から朝食を終える今までずっと膨張と収縮を繰り返していたのに、幅が一回目から全く変わっていない。

 一度メトロノームさんを止めて、と。これだけ動かして変わりが無いのだから、劣化はあまり気にしなくていいかもしれない。

 とりあえず、反応の違う箇所が無いかを確認――と、思ったところで。女の子達の方を振り返る。

「誰か暇な子いない? 下らないことを手伝ってほしいんだけど」

「どんなことよ」

 先に内容を聞いてくるナディアさん。そりゃそうだ。

「この記録の紙をさー」

 言いながら、私は木箱を持ち上げる。ロールの紙があれば一番良かったんだけどそんなものは持っていないので、細長い紙を大量に置いて、一枚書き切ったら次の一枚が進むように細工していた。箱の中に大量の紙が積み上がっている。

「紙の裏に下から順に数字を振って、順番が分かるようにしてほしい。それから、このギザギザの幅が違う場所があったら教えてほしい」

 紙の詰まった箱をテーブルに運んで、一番上を見せながら説明する。箱は紙とほとんど同じサイズだから、積み上がっている順番が前後入れ替わるような隙は無い。

「下から順……」

 一瞬リコットが眉を寄せたけど、すぐに「了解、暇な人で手分けしよ」と言った。

 結局、四人でやってくれるみたいで、全員がテーブルに着いてくれる。私の女の子達はみんな働き者で優しい。

 リコットがまず箱に手を突っ込み、紙を押さえた状態で箱をひっくり返して取り出し、そして紙束の上下を逆転させる形で箱に入れ直す。おおー、上手。賢い。これで『下から順』が楽になったねぇ。

「よし、じゃ~私が紙に番号を書いていくから、幅はみんながチェックして――アキラちゃん」

「ん?」

「もう一個、同じ箱ない?」

「あー、ある。ハイ」

 そうね、結果を収納する箱が必要ね。渡したら、中央にその空箱が置かれた。

「チェック終わったら一旦適当にテーブルに置いて。手が空いてる人が番号順にこっちの箱」

 どうやらリコットが仕切ってくれるみたい。手際が良いので、任せておけば良さそう。むしろ私が仕切るより綺麗に進みそう。ほんの少し悲しい考えを抱きながら机の方に戻ったら、リコットがまた「アキラちゃん」と私を呼んだ。

「うん?」

「何度もごめん。幅が違うのがあったら、抜いておく? 混ぜておいて、番号だけ控える?」

「んー、抜いておいて」

「了解」

 細かいところも確認してくれて助かりますね。私が先に言えって話だね。申し訳ない。

「かなり枚数があるでしょうから、手が疲れたら交代しましょう」

「あはは、そうだね、お願い。じゃあ、やろっか~」

 のんびりとした掛け声とは裏腹に、言うと同時にシャッシャッとリズミカルなペンの音が響く。早速リコットが番号を振りながら、みんなに紙を渡しているようだ。その音を聞きつつ、私はスライムを使った新しい試験装置を組み上げていく。

「途中で切れてるのって……」

「切り返しの位置だけ確認できれば大丈夫よ」

「そっか、分かった」

 みんな賢いねぇ。助かるなぁ。声が偶に聞こえてくるだけでニコニコしちゃう。

 私が試験装置を作り終えたのが、それから二十分後かな。同時に背後で、軽く机をバンと叩くような音が聞こえた。

「ぶわ~! 数字振り終わり!」

「え、全部? すごいね」

 思わず声を返してしまった。いっぱい紙があったと思うけど。リコット一人で振り終わったんだ。女の子達が口々に労いを告げるのに合わせ、私も「リコありがとね~。みんなも適宜、休憩はしてね~」と声を掛けておいた。それにも「はーい」と声が返ってきて嬉しい。

「ふむ、動きは良いね」

 私はと言うと、さっき仕上がったばかりの試験用の歯車機構を動作チェック中。昨日みたいに詰まることも空回りすることもない。

 自分でも何度か試してみた後、また私は女の子達を振り返った。

 みんなはまだチェック作業の真っ最中で集中していた為、誰も気付いていない。数秒するとラターシャが紙を中央に置くタイミングで気付いて首を傾けてくれたみたいだった。でも今度は私がみんなのステータスばかりを注視していて気付いていなかった。

「あー、ルーイ?」

「うん?」

 目当ての人を呼んだ時にようやく私もラターシャがこっちを見てくれていたことを知り、笑みを向けておく。そしてルーイだけじゃなく、リコットとナディアも声に応じて振り向いた。末っ子を呼んだ時の警戒心の強さたるや。私は仲間よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る