第437話_最初
「じゃあどれから作る!?」
勢いで押せないかなと思って期待で目をきらきらさせて聞いたら、リコットが苦笑いで私からデザイン画を奪ってしまった。
「先走りすぎ。これはただのアイデア」
「えー」
どれも可愛いから作ってほしい。お金ならあるのに……。って言ったら怒るだろうから言わないけど。
それに変にプレッシャーを与えても可哀想だからね。今日は構うのもこの辺にした方がいいかな。と、テーブルから立ち去ろうと思ったところで、リコットが収納空間から紙の束を取り出して、がさごそし始めた。何だろう。
「最初に作るなら、これ」
「おお」
まだそういうのは教えてくれないかもと思っていた。嬉しい。差し出された紙を両手で丁寧に受け取る。
「これは、うーん、何処かの首に付けるやつだ」
「ブレスレット」
「手首ね!」
さておきデザインは少し太めだけど装飾が繊細な為か無骨な感じは無い。留め具があって、輪っか状になっている。二重の革紐にややカーブした形のプレートが二つ通され、手首の外側と内側にプレートが来る感じかな。そしてプレートには細かい装飾があった。本当に細かい。私だったら作る前から発狂しそう。
「この辺りは、鉱石?」
プレート中央部がモザイク模様になっている。何をはめ込んでも綺麗だろうけど、私がパッと思い付いたのは石だった。リコットは頷いて肯定する。
「そう。色石が幾つか使えたらいいなと思うけど、こんなに薄く削れるかは知らない」
「厚さに幅があるのはその為か」
「うん」
なるほど、違う種類、違う色の石を使えば石の模様や色の途切れもデザインの一つになるわけだ。石を見るまでデザインが確定できない難しさはあれど、それはそれで浪漫があって楽しいね。そして厚さだけは、ある数値以下という指定だった。この数値を超えると流石に重たくなるから無理だって判断だね。ふむふむ。
「革紐には既成を使うとすると、必要なのは金属加工と、石の加工か」
「いや、石の加工だけ。こっちは、ワイヤー」
「……なるほど!」
石を支えているのが金属板かと思ったら、もう一枚、紙を渡された。
そこにはワイヤーをうまく組み合わせて編み込むことで土台を作る工程が書かれている。例えば三本のワイヤーを並べて、四本目のワイヤーで隙間なくぐるぐる巻きにしてやれば金属板みたいなのが作れる感じ。確かにこれなら金属板の加工という難しいことをしなくても、好きな形の板が作れる。ワイヤーを巻き付けることによって必然的に生まれる凹凸も模様みたいに見えて綺麗だし、巻き付け方によっては色んな模様も作れるだろう。一石二鳥と言わず三鳥以上の手法だ。
このような方法が、リコットの持つ本に少し書いてあったとのことだが――私が知らないってことは。
「それ、借りてない本だ」
「まだ読んでるから貸さないよ」
「……そっか……」
それは仕方ないね……リコットの本だしね……。肩を落とす私を見て、リコットが溜息交じりに「もうちょっと待って」と譲歩のような言葉をくれた。ありがとう。貸してくれる時は早めに読んで早めに返しますね。
「いつかはワイヤーじゃなくて普通の金属も使ってみたいけど。本を見る限り道具も大掛かりだし、最初から手を出すのはちょっとね」
「確かに~」
金属の種類と硬さにもよるだろうが、熱するとか叩くとか切るとか、どれも大掛かりで、安全かつ騒音対策なども考えると難しいことが多い。それを思うとこのワイヤー手法はすごいな。静かに作業できるし、大掛かりな設備も広い作業場も必要ない。改めて感心した。
「ねえアキラちゃん」
「うん?」
「石の加工って土属性?」
「あー、うん、そうだよ」
魔法でやろうと思ったら、土属性だね。そういえばリコットには土属性があるんだから、このまま順当に成長していけばアクセサリー制作にも役立つかもしれないねぇ。
「石の加工は、攻撃魔法と同じ位置だよ。ちなみに生成はレベル4」
「加工より後なんだ?」
「うん」
土属性のレベル4攻撃魔法は二種類。砂での攻撃と、石の
加工は既に存在している石に魔力を送り、部分的に操ることで綺麗に割ったり削ったりできる。砂や土ほど自由には操れないけどね。その辺りは物質特性によって様々だ。
「ちなみに金属の加工・生成もあるよ、土属性は」
「え、すごい。大金持ちだね」
「ふふ。そうだね」
金属をがんがん生成して売り捌けば、確かに大金持ちだね。流石にそこまでの技術と、多く作り出せるだけの魔力量がある人は私以外に居ないだろうが。
金属加工は土属性のレベル6、生成はレベル7だ。ただし大きい金属を生成するならレベル8くらいの魔力量と濃度が無いと難しいだろう。レベル7にかろうじて手が届くくらいの人なら、砂に金属が少し混じる程度かもしれない。
「金とか銀とかも作れるの?」
「作れると思うけど、純金や純銀は難しいよ。どうしても何か混ざっちゃうと思う。私でも無理」
「えー。じゃあ誰も無理だ~」
リコットはそう言うが、どうかな~。砂金くらいなら、出来る人が居ないとも限らない。これは魔力量の問題じゃないからね。
「金属の生成ってのは、半自動なんだ。石もそう、っていうか『生成』が基本そうだね」
私の言葉に、リコットはよく分からないって言うみたいに首を傾ける。この話、みんなが居る時でも良かったかもね。まあまた機会があればみんなにも話すとして。今はまず目の前の可愛い子に説明しますか。
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