第432話

 ちなみに今お話に上がったモニカのお父さんは、風属性をレベル3、つまり攻撃魔法まで扱えたそうだ。だから練習にも気を遣って、魔防の高い装備を身に着けていたんだね。

「ところで、魔法の適性って遺伝しないの?」

 珍しい氷属性を持つモニカのお父さんやお母さんなら、氷属性を持っていそうに思うけど。今の話だとお父さんは風属性に長けていたとのこと。

「あまり聞きませんね。魔力量が遺伝と言われることもありますが、それも絶対ではありません」

「ほー」

 実は、エルフの知恵にも魔法の適性が遺伝するような情報は全く無かった。そして人族の認識もこれならやはり遺伝の可能性は低いみたいだ。

 そういえばヘレナも結界術師の子孫だけど、結界魔法を使う素質は無さそうだったな。魔力量は確かに多かったものの、『使用』に回路が繋がっていない感じ。その点は竜人族もそうだね。ケイトラントも見る限り魔力量は多くて、だから魔防が高い。でも魔法は使えない。とは言えあれは種族特性のようだから、遺伝する・しないとはまた話が違うか。

 うん。どんどん話題と思考が逸れてしまったが。遺伝や素質の話は本題ではない。

「対魔法の装備か。なるほどね」

 みんなの安全性を確保するには、用意した方が良さそうだ。

 なお、ああいうのは何か魔術が練り込んであるわけじゃなくて、魔防の高いの素材から製作される。買うのが早いか、作るのが早いか。うーん、悩むなぁ。この辺りはローランベルのおじいちゃんに聞いた方が早いだろうか。彼の店は武器屋だから当然、武器がメインで防具は少なかったんだけど。お知り合いの防具屋とかあれば相談に乗ってくれるかも。手紙を出してみようかな。もしくは転移でこっそり会いに行くか。

「ん、あれ、そっか、守護石もあるじゃん」

「え?」

「君らの守護石なら、魔法の失敗も弾くよ」

 みんなに持たせている守護石は、結界と違って敵意だけに反応するわけじゃない。勿論、敵意や害意を持って触れようとしても弾くけど、守護の対象となる者が傷付くような何かが迫れば全て自動で弾く。流石に軽くぶつかる程度は許されるものの、怪我をするレベルなら全部だ。文字通り対象者を何からも『守護』する石ってわけ。

「え、じゃあ何も対策しなくても危険は無いってこと?」

「……そうとも言うんだけど。発動する度に私に連絡が来る」

「それは嫌」

 うん、私も毎回「何があった!?」って駆け付ける羽目になるから、心臓が持たないのでちょっと嫌だね。だからそのまま守護石を使わせて万事解決――という意味ではなく、その逆。魔防の高い服を身に着けても、先に守護石が動いちゃうかもって、懸念する方の意味。

 丁寧にそう説明したら、みんなも納得して「あー」と口々に声を漏らしていた。

「うーん、守護石があれば何があっても確実に守れるけど。今はその連絡がネックだなぁ……」

 守る意味では私に連絡が来るって機能がかなり大事だったし、今後も外す気は無い。ただ魔法の練習中、ちょっとした失敗が防具に当たる前に起動されるのは困る。とは言え、魔法の練習中だけ機能をオフにするわけにもいかない。もしその時に運悪く無関係な危険が迫ったらどうするんだ。緊急時、咄嗟に機能をオンにするような余裕があるとは限らないわけだし。万が一のリスクを思えば安易にそんな選択は出来ない。私が女の子達から目を離せるのはひとえに、守護石が絶対的な力で彼女らを守ることを知っていて、そして発動を私が把握できるからだ。

「とりあえず魔防の高い装備は整えるとして。まだ、ひと工夫が必要だねぇ」

 しかしこっちは私の領分だから、モニカらに相談しても仕方が無いね。一旦これは置いておいて、切り替えましょう。

「場所もやっぱり、周囲に影響を与えないような個室が必要そうだね」

 私が改めて言えば、モニカも慎重に頷いた。でも今ワインの方に意識を取られてたでしょ。一瞬慌てたの見えてたよ。指摘しないが。ワイン美味しいね。

「私の屋敷にあったものを再現しようとなると、この山では……少々、目立ちますね」

「だよねぇ」

 石造りの頑丈な部屋、だったね。聞けばそれなりに広く、天井も高い。間違いなく目立つね。

 村から最も近い集落は角度的にこの村が見えないものの、平原を旅人が通るかもしれない。この村は高い木々に囲まれているので遠目では分からないけれど、石造りの大きな建物があると流石に遠くからでも『何かある』のが分かってしまいそう。

「地下にすると、みんなも不安だよねぇ?」

「そうだね……埋まることを考える」

 女の子達の方を向いて確認すると渋い顔でリコットがそう言って、みんなも頷いていた。特にリコットは土属性だから、地盤に影響させちゃうことは考えるよね。

「じゃあ、ドーム状に擬態魔法を固定させて、遠くから見えにくくするか。それなら大きな石造りを作れるかも」

 石造りの建物を作る一番の懸念は、隠れ里が目立つことだから。私の擬態魔法はまず見破られないし、結界みたいに固定化さえ出来れば、問題が解決しそう。

「そんなこと出来るの?」

「多分できる! 開発する!」

「また新しいことを……」

 新しいこと大好き! ニコッと笑って、みんなからの呆れた視線を受け止める。楽しくなっちゃった私を止めようとする言葉は、誰からも出てこなかった。慣れられている。

「とにかくすごく参考になったよ、ありがとうモニカ」

「少しでも領主様のお役に立てたなら幸いです」

 守護石の部分はもう少し考える必要があるものの、練習場所については大体の展望が決まった。胸のつかえが一つ取れたような気持ちでワインを傾ける。すると同じタイミングでワインを傾けたモニカが、ふと視線をテーブルに落として、何か考えるような顔をした。

「ところで領主様」

「ん?」

「爵位は『公爵』をお持ちとのことでしたが、……その意味は、ご存じでしたか?」

「意味?」

 爵位には上下だけじゃなくて『意味』とあるの? 私は五爵の序列くらいしか知らない。首を傾けて、一度、女の子達の方を見た。この国での常識ならば、三姉妹が知っているかもしれないと思ったからだ。だけど三姉妹も不思議そうな顔をしている。その隣で、意外にも口を開いたのはラターシャだった。

「この間、ルーイが言ってた話かな?」

「あー」

 続いて、名前の挙がったルーイが声を漏らす。

 曰く、獣人族などの他の種族は男爵か子爵にしかなれないこと。男爵や子爵は平民が何か大きな功績を上げた時に与えられるものだという話を、ラターシャはつい先日ルーイから聞いたと言った。はあ、なるほど。そういう、『どういう人に与えられるものか』という、『意味』があるのか。

「確かにアキラをただの『平民』と思えば、与えられる爵位として『公爵』は不自然だけれど」

「単に、城がアキラちゃんを特別扱いしたんだろーなって思ってた」

 ナディアとリコットもそう続く。つまり、女の子達もよく分かっていないみたいだ。全員の言葉を聞いたモニカは、やや表情を曇らせ、私達はその変化に少し嫌な予感がして、緊張した。

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