第428話

 状況の飲み込めていないラターシャに、私達は殊更にっこりと笑みを向けた。

「三人で一本ずつ買って、みんなで使えば良いよね~」

「ね~」

「ええぇー、そういうのもありなの?」

「ありでしょ、だってこれ良い香りだし」

「これもー」

 私とルーイは『ラターシャが好きそう』で、且つ『自分もいいと思った』香りを選んできている。そりゃ私とルーイだって欲しいよ。しばしおろおろしていたラターシャは、私達二人を言い負かすことは出来ないと判断したのか、肩を落として苦笑を零した。

「じゃあ、私が上手く使えなくなったら、二人が残り使ってね」

 確かに今回は「お試し」と言って買うのだから、最後まで使い切れないかもしれない。その言葉に私とルーイは快く頷いて、三本を購入。ルーイも追加は必要ないと言うので、お買い物は終了です。まあ『それぞれ』買うと言ってもお会計は私なんだけどね。二人はお小遣いから支払うって言ってくれたけれど、今日の記念としてのプレゼントってことで。

「鼻ちょっとおかしいかも」

「私も……」

「あはは、そうだね、少し散歩してからカフェに行こうか?」

 初心者のラターシャにあまり強すぎる香りのものはダメだろうと、比較的、淡い香りを選んでいたが。それでもあれやこれやと試すと鼻には刺激になるものである。嗅覚の回復の為にも、少し爽やかな場所に移動しますか。そう思って、噴水のある広場に移動した。

 冬なので流石に水遊びする子らは居ない。でも日本の冬ほど寒くもないので、極端に噴水を避ける人も居なくて、まばらに人が行き交い、時にはベンチに座って談笑している。

「今日のカフェは、どんなところ?」

「ふふー。今日はね、二人が好きそうな、フルーツたっぷりのパフェ専門店だよ」

「フルーツ!」

 このジオレンは何度も言うがワイン産業が盛んなので、果物もとても質が良い。そんな街で人気のあるフルーツパフェ専門店だから、他の街とはひと味違います。新鮮で美味しいフルーツがふんだんに使われているらしい。もうそれだけで間違いないと思えるよね。

「でもそんな店だったら、混んでないかな?」

「大丈夫だよ、十四時から十六時まで席空けといてって伝えてある」

「……絶対お金使った」

 ラターシャのご指摘に、ニコニコした。そりゃそうでしょ。向こうは商売だもん。ちなみに今は十四時ちょうど。あと少し休憩してから行っても、充分にパフェとコーヒーを堪能できます。

 ということで。私達は噴水広場の爽やかな空気を十五分堪能した後、パフェ店に向かった。

 空けておいてもらったのは一番奥のテーブル。店内はラターシャが言ったようにしっかりみっちり混んでいたけれど、私達は待ち時間も無く真っ直ぐに席へと通される。

「ちょっと、あの、これはこれで目立つよね」

「ははは、ごめん」

 幾らか並んでいるグループがある中を顔パスで奥に通された為、ちらちら周りから見られてしまいました。ふふ。まあでも貴族とかが来てもこの程度のことはあるのでしょう。苦情を言う人は居なかった。

「さ、気を取り直して。ほら、沢山あるから、存分に迷ってね」

「うわぁ、本当に種類が多い」

「ええー、さっきの香油くらい大変」

 ラターシャの言葉が面白すぎて声を上げて笑った。そりゃ難問だね。頑張って悩んでほしい。

 私は色んなフルーツが使われているスペシャルフルーツミックスにチョコレートソース追加しよーっと。その後、五分ほど掛けて二人は注文を決定。ルーイは期間限定に負けていて、ラターシャは桃系の甘い果実に負けていた。

 程なくして並んだパフェ三つ。どれも可愛らしく盛り付けされていて見ているだけでも楽しい。しかし眺めていたら乗っているアイスが溶けてしまいそうだ。それぞれスプーンを入れた。

「美味しいねー。今度はお姉ちゃん達も一緒に、みんなで来たいなぁ」

「絶対リコットとナディアも好きだよねー」

「ふふ、そうだね。みんなで来よう」

 桃系の果物はナディアが元々好きだし、今ラターシャが食べているやつ、喜ぶだろうね。リコットが好きそうなすっきりとした味わいの果物も、色んなメニューで使われている。普段は注文を即決する彼女も、此処では少し悩むかもしれない。そんな想像をするだけで愛らしくて楽しいねぇ。

「一部メニューはテイクアウトも出来たと思うんだよね、確か……ほら、このマークが付いてるやつは、持ち帰れるよ。二人へのお土産にしようか?」

「賛成! どれがいいかなぁ」

 流石にアイスクリームが使われたパフェは無理だけど、焼き菓子とか、プリンやゼリーをメインにしたパフェならテイクアウト出来るようだ。二人は自分の分を選ぶのと同じくらい目をきらきらさせてメニューを見ていた。愛らしいなぁ。癒されます。

 そうして三人共パフェを食べ終え、お土産も選び終えて。のんびりとコーヒーを飲み始めた時。

「パフェでちょっと忘れそうになっちゃった。あのね、アキラちゃん」

「はい」

 なんだか改まってルーイが話し出す。ラターシャは軽くルーイを見た後、何も言わずに同じくらい真剣な顔で私を見つめた。二人の間では今から話すことを、事前に決めていたようだ。

「私達に、何かしてほしいことない?」

「してほしいこと……?」

 二人にしてほしいこと。してほしいこと?

 脳内には広大な宇宙が広がって、何の反応も出来ず、私はフリーズした。

「アキラちゃん固まっちゃった」

「多すぎて選べないのか全く浮かばないのかどっちかなぁ……」

 その状態が五秒間ほど続いたところで、二人が目の前で私の話をしている。しかしその声もやや遠くに聞こえるほど、放心していた。

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