第427話_専門店
午後を少し過ぎた時間。私はラターシャとルーイを連れて、宿を出た。ナディアとリコットはまだ部屋に居るけれど、少ししたらエルフ伝統食を作る為の先行の買い出しに行ってくれるそうです。ありがたい。帰りは二人に何か甘いお土産でも買おう。
「ねえ、先にちょっと、寄り道してもいい?」
後ろを歩く二人を振り返って声を掛ける。今日は少し大通りが賑わっていたので、三人の横並びでは歩き辛かったせい。私は一人。寂しい。人が減ったら横に並んでね。
「うん、いいよ」
「何処に行くの?」
言葉に応じて笑顔を見せてくれるだけでも愛らしい天使達に、私は頬を緩めた。
「香油を見に行こうと思ってさ。確か、東通り沿いに専門店があるんだよ」
「わーい、私も見る!」
嬉しそうに笑うルーイの隣で、ラターシャはすぐにふーんって顔になっていた。興味ゼロである。ルーイがちらりと彼女を見上げてさり気なくその横顔を窺っていた。興味が無いラターシャを少し気にしたかな。
「ラタは香油って持ってる?」
「え、ううん。私は何も。持ってた方が良いの?」
「そうだねぇ、苦手じゃないなら一つくらい、好きな香りで持っていても良いと思うよ」
ルーイの顔がはらはらしている。可愛い。無頓着なラターシャにこういう話をしていいものか、この子もずっと迷って、きっと飲み込み続けていたのだろう。
私の言葉に、ラターシャは少し考える顔をした後で、隣のルーイを見た。
「ルーイ達がよく、お風呂上がりに使ってるやつだよね?」
「うん、そう。肌と髪のケア用に。最近は香りでも選んでるよ。好きな香りだと安心して、よく眠れるの」
実際ルーイは毎日きちんと手入れしている。興味が無くとも流石に毎日見ていれば記憶にあるのか、ラターシャは彼女の言葉に小さく頷いていた。
「私も少し髪が傷んできたからさー、新しくお気に入りの香りでも見付けて、使う習慣を取り戻そうって思って」
「ふふ、確かに。新しいの買うと、ちゃんと使うようになるよね」
「ねー」
可愛いルーイが同意してくれて嬉しい。目的をやや忘れてニコニコしちゃった。三秒後に思い出して、もう一度ラターシャを振り返った。
「ラタも気になるものがあったら一緒に買おうか、使ったことはある?」
「うーん、お母さんが元気だった頃、何度か塗ってもらったような気はするけど、自分では」
なるほど。自分でやってみて嫌になった経験があるわけじゃないなら、これから興味を持ってくれる希望がまだありそうだ。
「何事も試しだよ、ラタ。苦手だったら止めちゃえばいいよ」
軽く勧めてみると、ラターシャは興味が無いながらも少しずつ真剣に捉えてくれているようで、頷いて考え込んでいる。
「それに、手の方は塗る習慣を持ってもいいかもね。ラタは弓を引くから」
「ああ、そう言えば、指先が少し荒れてきたかも……」
防具を付けて引いているから、指先が切れることは多分無いけれど。それでも負荷が掛かるのは仕方がなく、防具の中で擦れた部分は赤くなったり、豆が出来たりすることもある。なりやすい箇所っていうのは型が定まるほど狭まってくる為、そろそろラターシャも同じ場所に影響が出ているだろう。案の定、「この辺り」とラターシャが突いている箇所が、他と違って荒れ始めていて、少し白かった。ルーイは「痛くない?」と心配そう。ラターシャは笑って首を振っているものの、これからもっと酷くなる可能性も高い。
ただ、保湿水はみんな小まめに塗っているし、ラターシャもその程度の習慣はある。更にもうひと手間の習慣が無いだけだ。
「そこだけでも塗ったら? 毎日全身にって頑張らなくても、気になるところだけ」
指先の状態を見たせいか、ルーイは熱心にそう付け足し、ラターシャに習慣を付けさせる後押しをしてくれた。私も「そうそう」と相槌する。そもそも私も小まめに出来ていないせいで、先日ナディアさんに軽く苦言を呈されたのでね。
「分かった、じゃあ私も、ちょっと見てみようかな」
前向きにそう答えたラターシャに、ルーイと二人で笑顔で頷いた。
――のだったけれど。
「流石に選択肢があり過ぎて、どうすればいいか……」
「あはは、ごめん」
専門店に来てしまった為、種類が豊富すぎて引かせてしまいました。そうね、初めて買うのにこの選択肢の数は途方に暮れるよね。
「私達でちょっと選択肢を絞ってあげようか?」
「うん!」
ルーイと私でまず、ラターシャへのお勧めを選んでくることにした。その間、ラターシャは好きに見ててね。勿論、気になるものがあったら持ってきたらいいよ。
さて。ラターシャはどんなものが気に入るかな。まず、ある程度の質は確保したいから、その時点でかなり絞れる。ルーイもその考えは同じであるらしい。香りばかりが重視されるブランドの棚には立ち寄りすらしていなくて、賢くてこっそり笑った。
「オッケー、私は六つ持ってきたよ~」
「私は三つ」
うん。私はもう少し絞るべきでしたね。反省。ルーイは偉い。
私達が選ぶ間、ラターシャは当てなくふらふら見ていたらしいが、「効能も色々あるんだね」という学びを得ただけで帰ってきていた。そういうところも可愛いよ。
「最初は使用感や効能の話をしてもピンと来ないだろうし、匂いで好きなの選んじゃうと良いよ」
「私もそう思う」
効能によって髪がどうなるとか、使い心地がしっとりしている・さらっとしているとか言われても、今まで使ったことも無いのだから、全く分からないだろう。私とルーイが選んできたものの中にラターシャが使用して悪いものは無い。どれを選んでも大丈夫だ。
私達の意見に頷いて、ラターシャは丁寧に一つずつ、匂いを確認した。
「うーん、二人ってすごいね。私の好きな香りばっかり……」
彼女の言葉にルーイと視線を交わして、ニカッと笑う。やったね。
その後ラターシャは何とか悩みながら三つまで絞ったのだけど。そこからが、なかなか絞られなかった。
「どうしよう、うーん、どれがいいかなぁ」
弱り果てた声でとうとう私とルーイに助けを求めてきて、可愛くって頬が緩む。
「順番は付けられない感じ?」
「うん……」
ふむ、じゃあ全部買おう。って言いたくなるけれど、ラターシャはそういうのあんまり好きじゃないんだよね。でも全部買おう。結果はともかく物は言いようだと思うから。
「じゃあ、これは私が買おうかな?」
「え?」
「あっ、じゃあねー私はこっち買う!」
私の意図することを即座に読み取ったルーイが乗ってくれた。良い子だねえ。撫でながらラターシャを窺うと、案の定、彼女は私達を見て目を白黒させていた。
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