第414話

 真剣に作業した為、二人の方をあんまり見ていなくって。私が一枚を仕上げて顔を上げたら、何故かリコットも筆を入れていた。

「なんで?」

「何が?」

 笑いながら返すリコットは、問い返すまでも無く私の疑問など分かっている。

「私の作業が無くなっていく……」

「でもアキラちゃんこういうの嫌いでしょ」

「嫌いです」

 とても正直に返したら、ナディアが「今は笑かさないで」と唸った。怒られたよ。リコットの問いに答えただけなのに。ひどい罠だよ。

「二人に押し付けてる感じがして、申し訳なくなる」

 自分が苦手な分、余計に、人にさせる時に大きな罪悪感が湧き上がる。勿論、人には得手・不得手があるし、適材適所って言葉もある。だからって全部はちょっとな、と思うわけだ。一部くらいはちゃんと自分もやって、出来ない範囲を手伝ってほしいと言うか。

 だけどリコットは、やっぱり可笑しそうに目尻を下げていた。

「好きでやってるから良いの。ナディ姉は?」

「……好きでやっているわ」

 うう。良い子達です。金貨あげたい。そっと四枚の金貨をテーブルに積んだところでナディアに冷たく「片付けて」と言われた。うう。

「ほら、さっき淹れたコーヒーまだ減ってないじゃん。休憩してて」

 とうとうリコットに宥められてしまいました。むしろこれ以上騒ぐと、頑張ってくれている二人の集中を妨げるだけになってしまうね。大人しく「はい」と答え、温くなったコーヒーをのんびりと傾けた。

 そして二人が丁寧に作業している手元をぼーっと見つめる。

 いや、これはこれで、良いな。

 綺麗な手をした綺麗な女の子が黙々と工芸品を作ってる感じ、見ていて飽きない。幸せ。作っているのは工芸品ではないけれど。

 しかも全部、魔道具の内部に入れる物だ。人の目に触れるのは私達が作っている間だけ。そう考えるとちょっと勿体ない気もしてしまうね。スケルトン魔道具にしたい。女の子達が丁寧に作ってくれた彫刻板を隠さずに見せ付ける為に。強化ガラスとかが必要になってくるかな。よし、開発、するか……!

 そんな突拍子もない妄想をしている傍らで、二人は彫刻板を仕上げてくれた。細かいところもあるから、慎重に丁寧にやってくれたけど、六枚、いや私が一枚やったので五枚を一時間半ほどで仕上げてくれる。助かるなぁ。

 丁寧に礼を述べた私はそれらを軽い乾燥魔法でインクを乾かし、仕上げ塗料を塗ってそれも乾かしたら、部品は全部完成。早速、組み立てです。リコットが見たいっていうから机じゃなくてこのままテーブルで組み立てた。

「ジュッてするところは直視しないでね」

「はーい」

 各所、丁寧に溶接をして。よし、完成。では二つの術を発動しよう。まず一つは本来の目的、魔法陣に反応して鉱石を光らせる術。もう一つは、外装強化の術。発動よし。問題なし。

 顔を上げて、最初に時計をみた。日が暮れるより早く終わったな。リコットとナディアのお陰だね。

「使ってみたい!」

「はいはい。と言っても君らは守護石があるからなぁ」

「そっか、これも反応しちゃうんだったね」

 起動と同時にずっと点灯しちゃうと思う。眉を下げるリコットが可愛いのでこのままその顔を見ていたい気持ちも少しあるけれど、使いたいと言うのだから、使わせてあげなきゃね。

「収納空間に入れちゃえば流石に反応しないよ。一旦、しまってみて」

 言うと二人はさっさと守護石を外して、収納空間に入れていた。ナディアの動きも存外早くて、可愛かった。代わりに私は、自分の収納空間から虫除け魔道具を取り出す。

「じゃあそれ持って、好きなだけ離れて」

 リコットは嬉々として立ち上がり、新型魔道具を持って、窓際まで離れていく。私が虫除けを起動すると同時に、リコットの持つ魔道具がチカチカと点滅した。

「わ、もう結構早く光る」

「そりゃねぇ」

 本来は野外で魔法陣を探すものだから、室内程度の距離だともう点滅が早く、『近い』の判断だ。でもそれなりに精度があるので、リコットが近付くほどに明らかに点滅が早くなり、離れれば緩やかになる。

「わはは! 楽しい!」

 本当に楽しそう。うろちょろしてるリコットが可愛くて、ナディアも僅かに目尻を下げていた。

「じゃあ次は対象を変更してみようか」

「うん?」

 首を傾けているリコットを再び窓際に移動させ、虫除け魔道具を止めて、収納空間に入れた。

「ナディア、守護石を貸して」

「ああ……どうぞ」

「ぶわ! 眩しい~!」

 ナディアが守護石を収納空間から取り出した途端、リコットの持つ魔道具は輝きを増した。目に痛いほどではないけど、虫除け魔道具より明るいことは一目瞭然だ。つまり、対象の強さで明るさが変わるという機能の実演である。

「守護石ってこんなに強い魔道具なんだね~」

「そりゃ、みんなを守る為のものだから」

 大体の危険を回避できるようにと思って作ったからね。弱い術では駄目なんですよ。

「ところでその魔道具は、そんなに光り続けていても平気なの? 魔力は減らないのかしら」

「うん、これは周囲に漂う魔力を吸収して光る仕組みだからね、起動用に籠める魔力以外は全く必要ないんだ」

 だから破損してしまうまでは、無限に利用できる仕組み。私の説明にナディアとリコットが声を揃えて感心を示したのが可愛くてまた笑った。

「ただいま~、あ、それが新しい魔道具?」

「きれい!」

 遊んでいたら子供達が帰ってきた。二人が楽しそうに近付くと、途端に点滅が激しくなって、最後には点灯状態になる。守護石が二つも駆け寄って来たらそうなるね。リコットがけらけら楽しそうに笑いながら、魔道具の説明を二人にしていた。

「あれ? アキラちゃんこれずっと光るの?」

「ううん。底に付いてる鉱石に触れたら止まるよ」

「お。これかぁ。そういえば最初は光ってなかったね、オフだったんだ」

 みんなに見せたデザイン画には書いていなかったが、製図中に思い付いてスイッチオフも搭載した。

 対象物が見つかった後も無限に光られたら煩わしいかもしれないと思ったのだ。勿論、点けっぱなしでも魔力は減らないし、邪魔じゃないなら点けっぱなしで構わない。常時どこかにぶら下げておけば、不測の危険回避だって出来るかもしれないからね。まあ、守護石の例で分かる通り、他の魔道具とは併用できないけど。

 ちなみに起動中は底の鉱石の色が白になり、停止中は黒くなる。色を変える程度なら人が帯びる魔力で充分。だからそれも特に魔道具から消費されるものではない。

「そんなに難しい魔道具ではなかったわね、スラン村に納品したものに比べれば」

「そうだね。だから、その内もう幾つか作っておいてもいいかなぁと思ってるよ」

 冒険者ギルドから幾つか納品してほしいと言われるかもしれないし。もしくは、女の子達やスラン村で必要になることもあるかもしれないし。念の為ね。

「何にせよ、二人もお疲れ様。お手伝いありがとうね」

 お礼は貰ってくれないから、言葉でしか言えないが。二人は軽く頷いて応えてくれた。

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