第394話

 今度はちゃんと発見できた。届くぎりぎりの位置だったから、村からは約十キロ離れた位置だ。もうちょっと離れていたらまた移動して探さなきゃいけないところだった。良かった良かった~と思いながら、魔法陣のところまで一気に飛ぶ。

「あれ? 小さいな」

 でも、思っていたよりそれはずっと小さかった。いや、小さいと言っても一件目と同じくらいだけど、この大きさじゃ十キロ近くも離れたあの村まで有効範囲に入ると思わない。不思議に思いながら土を避けて魔法陣を確認した。すると、その回答とも言える魔法陣の詳細をタグが教えてくれる。

「ああ~、はぁ~、考えたなぁ。有効な『方向』を限定することで、距離を伸ばしてるよ」

 一件目にはそんな機能、無かったのに。とりあえず急ぎ転写して、魔法陣は潰しておく。

 こうして変化を付けるのが『実験』だとしたら、近くで結果を観察しなきゃいけない。でもこんな辺鄙な場所、余所者がうろうろするには目立ち過ぎる。村の中に入るのは以ての外だ。それなら何の為にこんなことを――。

「いや。考えることが色々残ってるけど。とりあえず、次だね。村に戻ろう」

 私の意見に、ベルクらも賛同してくれた。疑問はあるが、今それに足を止めても仕方がない。急いで村に戻る。

 周囲の残党を狩って、結界の修復。この村には派遣の結界術師らが居るので、破損箇所の把握と、修復後のチェックは彼らにやってもらった。私は指示された場所を修復するのみ。

 その間、ベルク達には村の人や、領主が派遣した兵士達との話し合いを済ませてもらう。今回は怪我人が出ているし、一部の畑や家屋に被害があったようだから、補償や支援の話があるんだろう。最終的には領主と王様間で話をして正式な手続きが必要だろうけど。事前に内容が固まっていれば、早い支援が出来るよね。

 そんなことを考えながら結界の修復に勤しんでいたその時、耳鳴りがして、王様が私を呼んだ。

『なに~』

『ご対応中、申し訳ございません。今のそちらの状況は如何でしょうか』

『二件目の魔法陣破壊が終わって、結界の修復中』

 そう返すと、王様からはホッとしたような、焦ったような呼吸が混じった。何だよ。

『お疲れのところ、大変申し訳ないのですが……至急、三件目の方に向かって頂きたいのです。危険な状態であると知らせが入り、猶予がありません。此方でも援軍を準備中ではありますが』

 はぁ~~~。お腹空いたのに~~~。

 という気持ちでいっぱいになったものの。そんなん知るかと駄々を捏ねる気には、流石にならない。

『はいはい、分かったよ』

 雑にそう答えて、状況を聞く。一か所が崩されてしまった途端、かなりの被害が出てしまったみたいだ。しかも最悪なことに、結界術師が怪我をして動けなくなったと。おいおい。兵士達。気合い入れて守っておきなさいよ。一瞬呆れた気持ちになったものの、三件目は飛ぶ魔物も多く襲撃に来ていたらしい。うん、そりゃ難しいな。私が悪かった。

 地面に敷かれた魔法陣だから、飛ぶ魔物に影響することは考えにくかったんだけど、今回みたいに範囲を絞って上空に影響を伸ばしたのかもしれない。下らないことばっかりやってくれる。

 結界の修復、最後の一か所を終えたところで、はあ、走りたくもないのにベルク達の方へと走った。

「クヌギ様? 何が――」

 私が走るってのが珍しいからだろう、ベルクはぎょっとした顔を見せる。

「三件目が危ないって連絡があった。今すぐ行くよ」

「か、畏まりました。コルラード!!」

「は!」

 少し離れたところで兵士と話していたコルラードも、ベルクの声に素早く反応してこっちに走って来た。いや足早いな。瞬きをする間に傍に立っていてびっくりした。二人共まだ話の途中だったみたいだけど、切り上げたようだ。三件目の後に多分また戻って来ることになるだろう。

 とりあえず結界は修復済みで、避難所と家畜小屋の結界解除も完了している。此処の状況が急に悪くなることはもう無いはずだ。急ぎ私達は飛行して村から離れ、見えなくなったところで岩陰に下りて、転移した。

 その道中で王様から聞いた話を二人にも掻い摘んで共有し、大急ぎで向かったんだけど。

 本当に、ひどい有様だった。

 これはどうしようもないな。守りようが無い。

 結界はあちこちが壊されて、戦いの場も散らばっていて、何処を守ればいいという状況じゃない。もう村の奥まで魔物が入り込んでしっちゃかめっちゃかだ。ベルクとコルラードもそのあまりの光景に息を呑んでいた。

 出来ることは限られている。私はとにかく二人を連れたまま最速で村の中心部まで飛び、着地。それと同時に大きく息を吸った。

「自分の足で逃げ込んで来い!!」

 辺りに響き渡るほどの大きな声で叫んだら。私達を起点に、風船を膨らませるようにして結界を展開する。魔物を結界外に押し出したのだ。限界まで広げても勿論、村を覆うほどの規模じゃない。結界の外側で襲われている人は、守れない。

「っ……すぐに戻ります!!」

 コルラードは堪らず、結界外に駆け出して行った。一人でも多くを救おうと言うのだろう。それを追うように、続いてベルクも駆け出しそうになっていたが。私が彼のマントを引いて止めた。

「やることあるでしょ、殿

「……は、い」

 立場上どう考えてもベルクは指示役になるべきだろ。外に出るな。中から声を出せ。その代わりと言うわけじゃないけど。私はそのまま結界外に出た。可能な限りは、助けて運んでこよう。

 それから、一時間くらいは私もコルラードも、生存者を探して戦い続けていたと思う。まあ、前半で助けられた以外には、あんまりもう居なかったが。

「これ以上はキリがない。魔法陣を探そう」

 亡骸を抱いて泣いている人達を横目に、次の作業に移る。

 魔物に食い散らかされてしまう前にと、出来る限り遺体も運んできたけど。遺体だと魔力探知に引っ掛かりにくいから、正直、全部回収できたとは言い切れない。でも生存者なら魔力探知に確実に掛かる。……もう、結界外には残っていない。

 今生きている人達を守る為に、早く元を絶たなければ。

 手順は同じ形で行った。こっちは凡そ予想の通り、三キロほどしか離れていない場所にあった。効果を上空にまで伸ばしているのなら、二件目ほど村から離すことが出来ないのだろう。ベルクとコルラードも連れてすぐに向かい、前二回と同じ手順で処理した。その瞬間、少し周囲の騒がしさが止んだ気がした。

「もうひと頑張りだ」

「はい。……ご負担をお掛けして申し訳ございません」

 私が溜息交じりにそう呟いたのは、自分の為だった。ベルクもそれが分かっているから、こうして謝ったんだと思う。別に、ベルクが悪いわけでもないが。そんな気遣いを彼に向けてやるのも癪だったから、返事はしなかった。

 村に戻って一通り残党狩りを終えたところで、壊された結界を直す。酷い損傷だったので、修復も時間が掛かった。結界修復の為だけに、二時間近く掛かったと思う。もうヘトヘトだ。

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