第390話

 溜息を吐いたけど。

 優しいから話を進めてやろう。真面目にやるって女の子達に宣言してきちゃったことを、思い出したのでね。

「一件につき、やることが三つある。魔法陣の探索と破壊。魔物の討伐。結界の修復」

 見付ければそのまま破壊するから、探索と破壊は一つとカウントしてあげよう。

 魔物の討伐は、魔法陣を破壊すればある程度は勝手に散って大人しくなるはずだから、大掛かりなものにはならないと思う。ただ、それでも街中に入り込んでしまったら大人しかろうが何だろうが討伐が必要になる。そして何よりも、結界の修復。私がやるのが一番早いようなので、必須だろう。

「それぞれの作業に報酬を設定してもらって、実際に対応した分だけ支払いをお願い」

 転移魔法であちこち移動する分は、まあ、いいや。一件目の対応分に含めておいてあげる。

 そう説明したら王様はお礼の言葉と共に了承を告げた。

 金額も、まあ、提示してくれた額で問題ないというか、いつもちょっと「多いな」って思うんだよね。王様が払いたいなら別に良いけど。村が壊滅したり、追加で兵士と術師を派遣したりすれば、その程度の額では済まないのだろうし。

「終わった後の相手は今回もカンナで宜しく」

 これに答えたのは、王様じゃなくて控えていた本人だった。「はい」と躊躇なく返事をくれて、その後で王様が改めて「承知いたしました」と答えた。

「その夜、城で晩餐も如何でしょうか」

「うーん、いや、止めとく。私、今ちょっと忙しいんだよね」

 今夜から三日にわたって女の子達を愛する予定だったので。あと単純にヘレナの件があって魔道具製作が止まっていることも気になっていて、かなり落ち着かない。

 王様は忙しい時に呼び出したことを申し訳なさそうにしつつ、晩餐のお断りも了承してくれた。

「じゃあ行くかぁ。カンナ、お茶ありがと。行ってくるねー」

「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ。御武運をお祈り申し上げます」

 他でもないカンナから贈られるこの言葉が幸せなんだよなぁ。頬を緩めて彼女を見つめてから、またいつも通りベルクとコルラードを連れて指定の村付近へと転移した。

 飛行魔法で村に向かうと、周囲には興奮状態の魔物がおり、武装した兵士らが石弓などで攻撃しながら、結界に近付かせないように見張っていた。村の内部にも周囲を警戒している男性らが居る。しかし持っている武器がくわや手斧であるところを見ると村民なのだろう。それなら武装兵は、この地域の領主が派遣した兵士か。

 空から降るように現れた私達に一同驚いていたものの、ベルクが名乗ったところで安堵の顔を見せていた。連絡は受けていたのかな。その間に私は一箇所に集まりかけていた魔物を火属性の魔法で焼き払っておく。うーん、風属性の方が良かったかも。火の粉が怖いね。村を焼くわけにはいかない。

「まずは魔法陣探しかな。此処、しばらく任せて平気なの?」

「少し話を聞いて参ります」

「分かった。私は一周だけ村を回って、魔物討伐を手伝ってくるよ」

「ありがとうございます」

 一度ベルクらと別れ、私は上空に飛ぶ。上から村を見下ろすと、「村」と言ってもかなり大きい。この規模を一息で結界に包むのは流石の私も無理だな。

 とりあえず今はいいや。苦戦していそうな場所が無いか、確認しよう。

 多く集まっているところは風魔法で片付けておいたけど。苦戦具合はどこも似たり寄ったりだね。兵士らも既に相当疲れているようだし、守る範囲が広すぎる。村のほぼ全方向を守ってるから、兵士の数が圧倒的に足りていない。

 しかも本来なら怖がって結界を攻撃してこない魔物が、積極的に突進してきているし、普段と違う様子に少し対応が遅れてしまうんだろう。これじゃあ、結界を完全に破られるのも時間の問題だろうな。

 少しは減らしてあげたものの、キリがない。助けになったかは微妙なところだ。同じ位置に戻った頃、ベルクが既に待機していた。彼の傍に下りる。

「かなり状況が悪いようです。あまり長くは保たないかと」

「だろうねぇ、上から見てもそんな様子だ。魔法陣をいつ見付けられるか分からない状況で、これの放置はちょっと苦しいかなー」

 一個小隊を城から転移で持ってくることくらいは可能だけど、転移魔法を隠す方法が分からん。隠した上でそんな人数を運ぶとか、出現先はどうすればいいんだよ。

 この考えも一応ベルクとコルラードに共有したが、二人も難しい顔をしただけで良い案は出てこなかった。

 今いる魔物をいくら減らしても焼け石に水、大した時間稼ぎにならない。それなら――。

「うーん、避難場所を、作ろうか」

 軽く周囲を確認しつつ、ぽつりと呟く。中央部にはそれなりに大きな家屋が多い。一時的に村人を中央に集めることくらいは、出来そうな気がした。

「村全体を覆う結界は流石に一息じゃ無理だけど、範囲を狭めたものなら、すぐに張れる。戦えない人は事前にそこに入ってもらって、兵士や、戦っている村民も有事の際には中に逃げ込む」

 私の結界なら、ドラゴンでも連れてこない限りはそんなに簡単に破れない。村の畑や家屋への被害は出てしまうだろうが、人命優先だ。

 それにこれは外側の結界が破られてしまった場合の話だし、保険としては上等な気がした。ベルクとコルラードも、この案に賛同してくれた。

「村の中心部が良いよね」

「そうですね、どの位置からも逃げ込みやすい場所が」

 村民にも話を伺いながら、私達は足早に中央に向かって進む。

「どの程度の大きさなら、結界が張れますか?」

「此処からなら、あそこのブルーシートの辺りまでは余裕」

「……え、ええと、すみません。どれでしょう」

「だから、あの、今二人の男性が立ってる場所の奥」

 ベルクが想像したよりもずっと遠かったからだろう。すごく困惑しながら目を瞬いていた。

 だからさ、スラン村くらいなら包めるんだよ。この村全体って規模が無理なだけだから。

 少ししてからようやく衝撃を飲み込んだベルクが、結界の張る位置を指示してくれたので、付近の民家、十三軒を覆う結界を張った。

「結界、見える?」

「はい、視認できます」

 良かった。目に見えないと、逃げ込みにくいからね。そうだ、ついでに結界内の家屋の上には照明魔法を付けておこう。日が落ちても、結界位置が分かるように。ぽいぽい。ぽーい。次々に新しいことをする私に、ベルクは目を白黒させながらも「ありがとうございます」と言った。

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