第347話

 美しいナディアにまだ慣れないみんながそわそわと何度も視線を送る中、とりあえず私達は五人でテーブルを囲んで、のんびりコーヒータイムを始める。

「さて。お昼まではのんびりで良いんだけど、ナディ」

「なに」

「誕生日プレゼントは今が良いですか?」

「……今が良いわ」

 そうだろうなと思ったので「いつが良いか」と聞かなかった私。そうだよねぇ。

「あ、ナディアも魔法の杖?」

 ラターシャの問いに、ナディアが頷く。途端、子供達も目を期待に輝かせて私を見つめてきた。可愛いねぇ。

「見た目でがっかりさせたら申し訳ないんだけど……性能はご満足いただけると思うんだよね」

 私の言葉にみんなが首を傾ける。今回のも私は格好いいと思うが、みんなもそう思ってくれるかについてちょっとだけ不安なんだよね。

 少し勿体ぶってしまったが、とにかく今欲しいと言うので出しましょう。追加でテーブルを出してから、その上に、収納空間から取り出した箱を丁寧に乗せた。

「え?」

 全員、箱を見た時点でもう目を丸めている。何故なら箱が立方体で、それぞれ一辺が四十センチにも満たないせいだ。『杖』が入っているにしては明らかにどの辺も短すぎるし、細くもない。壺でも出てきそうな箱だった。戸惑いを理解しつつ、だけど説明はしないでみんなを振り返る。

「はい、どうぞ。ナディにぴったりの魔法の杖です」

「ありがとう……開けてもいい?」

「勿論」

 全員が立ち上がって、箱を置いたテーブルを囲んだ。慎重にナディアが箱を開くのを、みんなも見守る。中から現れたのは、リコットの時とは真逆に真っ白のもの。

「綺麗ね。だけどこれは……?」

 ナディアが不思議そうにしながら、箱から中身を取り出す。どう見ても杖に見えない形状のそれに首を傾け、私を窺った。ちらっと見てくるの可愛いね。私の思考はすぐに女の子の愛らしさの方へと脱線する。

「魔法の杖の一種ではあるんだけど、腕に装着するんだよ」

「この空洞に、腕を入れるのかな?」

 下から覗き込むようにしながらリコットが問う言葉に、私は軽く頷く。この杖は腕に装着すると、白ヘビが腕に巻き付いているみたいな形になる。とは言えヘビを模しているわけではないし、金の装飾と赤い鉱石も付いていて、アクセサリーみたいでお洒落だ。と、私は思う。みんなの表情を少し緊張して見守っていたが、無表情のままでナディアがそれを装着した直後、女の子達が「格好いい!」と色めき立った。

 ほっとした。良かった、みんなから見ても格好いいよね、うん、きっとナディアに似合うし、格好いいと思ったんだ。

「こんな杖もあるのね」

「珍しいらしいけどね。ちなみにこれは火属性の杖だよ。相性はどうかな」

「相性、という感覚なのかは分からないけれど。着けていると、少しほっとするわ」

「そりゃ抜群の相性だね」

 彼女とこの杖の相性は、火属性の中でも特に良いのではないかな。流石に私もそれは購入時に察知できないから、当たりを引いたようで嬉しい。

「此処で固定できるよ」

「ああ、これなら落ちないわね」

 男性でも装着できる杖の為、ナディアの細い腕には少し内部の空間が大きい。でも中に皮のベルトが付いていて、それさえ締めておけば腕から落ちることは無いような仕組みになっていた。きちんとナディアがそれを固定して具合を確認している間、待ちきれない様子でそわそわとリコットが私と杖を見比べる。

「それで、これの機能は?」

 わくわくした様子を隠しもせずに、リコットが問う。ナディアも私をじっと見つめた。此方も同じか。可愛いね。

「じゃあ、実演しようか」

 折角ナディアの腕に格好良く固定してもらったばかりだけど、しばしお貸しください。ナディアは一切の憂いを見せずに頷いてそれを外し、渡してくれる。彼女からも少しそわそわしているのが伝わってきて楽しい。

 とにかく実演だ。まずスペースを確保するために私のベッドを収納空間へと避けて、私だけそちらに移動。みんなには少し離れていてくれるように言ってから結界を張った。火属性だからね。部屋を燃やさないように床も守ります。

「これは二つの機能がある。残念ながらリコの杖みたいに、今のナディが使える機能は無いんだけど。レベル2が安定する頃には、両方が使えるようになるかも。遅くともレベル3が扱えたら使えるよ」

 今すぐに使えないのはちょっと申し訳ないが、ナディアはもうレベル2が使えそうになっているし、そう遠くない未来で使えるようになるはず。

「まず一つ。熱の壁」

 杖には大きな赤い鉱石が二つ付いている。それぞれに固有の機能があって、魔力を籠めた方の機能が使えるという単純な仕組みだ。私が指で示した一つを魔力で灯すと、正面に赤とオレンジの間みたいな明るい半透明の板が出た。

「え、うわ、熱い」

「うん。かなり高温の壁だよ」

 みんなには離れてもらっているし結界も張っているが、それでも伝わる熱気。みんなの表情が緊張していた。

「風障壁のような『防御』じゃなくて、攻撃系ではある。だけど、威嚇や牽制の役割が強い」

 敵の攻撃を防ぐような効果は無い。でもこれを立てていれば、間違いなく敵は近付くのを躊躇うだろう。もしくはぶつかった瞬間に仰け反って逃げていくかも。

「つまり、ある意味では防御なのね」

「そう。火には防御系が無いけど、これならナディの望みに近いと思ってさ」

 私の言葉に頷いてくれたから、喜んでくれていると思う。

「じゃあ二つ目。これは完全に攻撃なんだけどね」

 熱の壁を消して、結界も違う形で張り直す。今度は、杖を装着している右腕側を大きく覆う結界にした。

「いくよ」

 私がもう一つの鉱石に魔力を籠めると、さっきより強く輝いて、鉱石から何かが飛び出してくる。みんな一瞬ちょっと驚いて仰け反った。

「これ……鞭? 鎖?」

「ラタの印象でほぼ正解だね。熱の鎖鞭だ」

 さっきの壁と同じ色をした、鎖のようなものが鉱石から伸びている。今は一メートルくらいしか出していないけど、多くの魔力を籠めるほど、長い鎖鞭を具現化できる。勿論、上限はあるだろうけどね、未確認です。

「振り回して、敵にぶつける感じだね」

 私が腕をぐるんと回したら、それに応じて鎖鞭が暴れて結界内を叩く。みんなびっくりはしているけど、私を信頼してくれているらしく、そこまで怯えてはいなかった。

「鎖鞭を振り回すナディ、格好いいだろうなって、ほぼ私の趣味だね」

「良い趣味してるよ。いやまあ、ナディ姉で想像したら確かに格好いいけどさ」

 苦笑いながらも同意を得たので、私は満足してニカッと笑った。早くナディアにこれ、振り回してほしいよね!

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