第344話_聞き取り調査
移動式の大型照明は四日で無事に製作が完了して、納品も終わった。
ただ、ちょっと課題が残る。足場の悪い中でも一般女性が一人で移動させられるほどには軽量化が出来なかったのだ。可能な限りは軽くして、車輪部分に摩擦軽減の魔法陣を組み込むなど色々と工夫はしたんだけど。
ケイトラントなら一人でも問題なく動かせるだろう。でも他の女性だと二人は居た方が安定する。スラン村のみんなはそれで充分だと言うが、あの村は少数で回しているんだから、一つの作業に複数人の手が掛かるのは、ちょっとなぁ。とりあえず余裕が出来たらもう少し、試行錯誤したいと思います。
そして私達は引き続き、追加の中型照明と、防獣フェンスの支柱の製作を並行して進めていた。しかし気が付けばもうすぐ月末。来月――
「ナディ」
「……なに」
この日は私とナディアとリコットの三人で部屋に居た。私が支柱の足となる部品の製作をしている傍らで、二人は彫刻作業を頑張ってくれている。細かい作業の真っ最中だった為か、ナディアの返事は少し慎重で静かだった。ちなみに子供達は日用品の買い出し中。偉い。帰ってきたらめちゃくちゃ撫でる。
「誕生日が近いけど。プレゼントは何が欲しい?」
私も作業をしながらの問い掛けだった為、ナディアが此方を見たかどうかも、どんな表情をしてこの言葉を受け止めたのかもあんまり見ていなかった。態度の悪さを怒られるかな。部屋に落ちた短い沈黙に一瞬ひやりとしたものの、どうやら考え込んだことによる沈黙だったらしい。ナディアが「うぅん」と可愛く唸った。
「魔法の杖」
そうなるよね。直後、くすっと笑うリコット。私も笑顔にはなったが、笑い声は漏らさない。多分、私は睨まれるので。
「分かった。どんなものがいい?」
私は今度こそ、作業の手を止めてナディアの方を向く。彼女は彫刻刀をテーブルに置いていたけれど、視線は板に向けられていた。また考え込んでいるようだ。じっとして動かない。その様子が何だか可愛くてニコニコしながら回答を待った。リコットも笑いを堪えているので手が止まっています。部屋には、時計の針がチクチク静かに鳴っていた。
「……悩ましいわね。あなたに任せるわ」
「そう? ちなみにどんなことで悩んだの?」
私の問いにナディアが軽く首を傾け、眉を寄せる。また「うぅん」って言った。可愛い。
「リコットのように防御系が使えるなら、私の望みに近いけれど。火属性に防御系の術は無いでしょう? 私とは相性が悪い気がするわ」
賢いねえ。その通りだね。ナディアが持つ属性適性は火だけだし、他の属性が入った杖は扱えない。または相性が悪くて持っているだけで不調になる可能性があった。
「それなら攻撃補助、とも思ったけれど。攻撃魔法があれば心強いとは言え、使い道が無い可能性の方が高いのよね」
基本は私という護衛が君達の傍に居るもんねぇ。それに今は馬車旅中じゃないし、魔物と対峙することが無い。勿論、街中では何かあっても火の魔法をぶっ放すわけにいかない。いや、流石に命の危険があれば何も考えずにぶっ放してほしいけどね。何にせよ、可能性が低いという意味では正しい。
「私ではこれ以上のことは分からないし、下手に要望を伝えてしまわない方が良い気がしたの」
「なるほどね」
やっぱりナディアは賢いねぇ。あと、割と私を信頼して、「任せる」と言ってくれているのだと感じた。これはしっかりと期待に応えなければならないだろう。少し天井を見上げて、一度目を閉じる。
「……うん。よし、じゃあ当日、楽しみにしてて」
元々、彼女が欲しがりそうな魔法の杖の性能は予想していた。大体それに近かったけど、改めて彼女の口から聞けて良かった。今の内容を踏まえて、魔法の杖をプレゼントしましょう。
「それから」
話は終わったつもりだったが、ナディアがまだちょっと言葉を続けたので、作業の手を止めたままで振り返る。
「当日、何かしてくれる気なら」
「勿論お祝いしますよ」
私達の長女の誕生日なんだから全力でお祝いだよ。その気持ちを込めて間髪入れずに返すと、ナディアは一瞬だけ口元を緩めた。真面目に言ったつもりだったんだけど、何か面白かったかな……。すぐに表情をいつもの形に戻して言葉を続けてしまった為、問うタイミングは無かった。
「私はあまり目立つことは好きじゃないから、出来れば部屋で済ませてほしいのだけど」
あら、なるほど。高級店を貸し切ってパーティー! とかは苦手なんですね。折角大きな街に滞在しているからと、何処か店を探すつもりだった。読まれていたらしい。
「分かった。じゃあ当日はこの部屋でのお祝いにしよう」
私の言葉にナディアはやや安堵した様子で頷く。私は賑やかなことも目立つことも大好きだから、ついつい変に張り切ってしまうけど。みんなが同じってわけじゃないもんね。言ってくれて本当に良かった。誕生日に変な我慢をさせたくない。
「楽しみだねぇ」
しみじみとそう言ったら、リコットがまた笑った。
「絶対、アキラちゃんの方が楽しみにしてるよね」
そうだね。いつもそう。数日後に控えるナディアの誕生日祝いの計画を頭の中で思い描き、ニコニコしながら作業を進めた。
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