第342話_追加の製作
そういうわけで、取り急ぎ必要な照明は私達が請け負うことにした。勝手に「達」って入れちゃったけど彫刻部分はナディアとリコット、手伝ってください。後生ですから。
「小型なら私達の分があるよね、すぐに渡せるんじゃない? 私達は今のところ必要じゃないし」
「あー、そうだね。構わない?」
女の子達に確認したら、みんなあっさりと頷いていた。まあ私達は『あった方が便利』なだけで、例え馬車旅の最中であっても必須じゃないからね。基本は私の照明魔法があるし。と言うことで、今すぐ納品できる小型照明が私の分も含めて五つある。
モニカは全て購入したいと即決したので、お買い上げです。ちゃんと領収書を作りましょうね。今回は即席で作ったが、今後は領収書もテンプレートを作っておこうっと。転写して量産するんだ。
そして照明魔道具の製作費を、モニカ達に渡しておいた一覧にも追記。他の魔道具は試作が終わった後に金額を決めていくことにしよう。
「あとどれくらい必要かな?」
分かっている範囲で良いけどね。後から追加してくれてもいいし。ただ、早めに言ってくれた方が、早めにお届けできますよ。モニカがルフィナ達と相談しているのを、ニコニコしながら見守る。一分少々で、中型をあと三つ欲しいとのご依頼だった。つまり小型はさっきの分で良くて、大型は移動式が追加されるからそれで大丈夫だろうってことみたい。
「了解。また追加したい時はいつでも連絡してね」
私の優先順位は、まず移動型の大型照明。フェンスの支柱と中型照明の追加は平行でやろうかな。頭の中で段取りしていると、背中に引っ付いたままだったリコットが前に回していた手で私のお腹をぽんぽこぽんとリズミカルに叩いてから、するっと身体を離す。びっくりして振り返ると、リコットがニコッと笑った。
「私とナディ姉が彫刻してる間、アキラちゃんは支柱とかやったら良いんじゃない?」
「そうね、出来る部分は分担しましょう」
唐突な悪戯とは何の繋がりも無かった。今のは単に叩きたかっただけかな。やや混乱して目を瞬く。それはそうと、提案はとても助かる。私は私にしか出来ない部分に集中できるし、苦手な彫刻部分もほとんどやらなくて良い。つまり時間短縮だけでなく精神面もカバーできる。そんな優しいことがあっていいの? お礼をしなくては――。
「良いの? 二人も金貨いる?」
「だからなんで一番高い硬貨で払おうとするの」
お金で感謝を伝えようとしたらリコットが呆れたような目で私を見つめた。だって。二人は良いよって言ってくれるけど本当はお給料を支払うべき内容なんですよ。しかし以前もその考えを伝えた上で丸めこまれてしまったことを思い出し、あとは下らない発言しか思い付かなかった。
「コウカだけに~? イテッ」
瞬間、勢いよくナディアに脇を平手で叩かれた。激しいツッコミ。
するとモニカの傍に居た従者さん二人が小さく噴き出して笑う。珍しい。普段はどんな状況でも笑いを堪えていて、肩を震わせても声を漏らすことは絶対に無かったのに。でも私が振り返る頃には慌てて居住まいを正し、表情を整えてしまっていた。別に笑っていいのにね。という思いを込め、彼女らにニカッと笑みを向けておく。
常にモニカの傍にいる二人はおそらく元侍女さんか何かだろう。静かに控えるよう努めてしまうのは、職業柄かな。私は確かに彼女らより身分が上でこの地の領主だが、棚ぼたで得た爵位だ。そんなに畏まらないでほしい。
そう思うから、そう伝えようかと思うこともあるけど。私の立場から「気楽に」と言うのは許可よりも命令になっちゃいそうな気もして、何となくそのままにしている。まあ、この辺りも村に住むようになってから、追々で良いだろう。一人で思考して納得し、うんうんと頷いたところで。
「私とラターシャも何かできるかなぁ」
「うーん、家事……とか」
背後からぽそりとそんな内緒話が聞こえた。あまりにも子供達が可愛い。いっぱい撫でたい。お姉ちゃん達が間に入っているので手が届かない。ナディアとリコットも二人の可愛さに頬を緩めていた。結局、二人は掃除や洗濯を頑張ってくれるらしいです。嬉しいね。
そうして今日のスラン村滞在は以上。簡単に挨拶をして立ち去って、宿に戻った私は早速、魔道具製作の作業に取り掛かる。机の上にバサバサと図面を出した。するとそれを見たナディアがスッと傍に寄ってくる。可愛い。
「先に、中型用の彫刻板を用意してくれないかしら。移動式が最優先なのは分かっているけれど、それは製図からなんでしょう?」
「そうなんだよね。だから私もナディの提案に賛成だよ」
移動式は新しい魔道具だから、まずどのように実現するかを考え、それを製図するところから始まる。それが終わってようやく板の切り出しや彫刻作業に入れる為、図面完成まで、二人が手隙になってしまうのだ。でも中型用の板なら今すぐに切り出して転写作業が出来るし、その彫刻作業を二人に進めてもらっている間に、私は移動式の製図に集中すればいい。うん、それが効率的だ。
「アキラちゃん、インク入れも私らで出来ないかな?」
「んー、出来なくはないけど」
あの作業も請け負ってもらえるなら確かに私の負荷はすっごく軽くなる。ただ、一点問題があった。
「乾かす作業と場所と、臭いが大変なんだよね」
「あ~……」
すぐに問題点に思い至った様子でリコットが項垂れる。私は乾燥魔法が使えるからインクを乾かす時間も場所も必要ないし、臭いも消臭魔法で除去できる。風生成ではちょっと乾くまで時間も掛かってしまって代用にならない。あと多分リコットやラターシャじゃ魔力が足りない。
「それなら――浴室でやるのは?」
「なるほど?」
ナディアはいつも名案を出しますね。浴室はお風呂以外には洗濯の時しか使わない。日中、インク入れの作業と乾かす場所として占有しても酷く困ることは無いだろう。そしてベッドのある此方の部屋とは別室だし、念の為、私が結界を張ってしまえば臭いは一切漏れないように出来る。
そんなにめちゃくちゃ広い空間じゃないものの、板自体は小さいわけだから、五枚ずつくらいで作業して放置、乾いたら次の五枚――ってやれば、問題のほとんどは大丈夫かも。お風呂の時間になっても乾き切っていないやつは私が最後に魔法で乾かして片付けてしまえばいいし。浴室に残ったインクの臭いも魔法で消せるはず。
「分かった。じゃあそうしよう。最初の時だけ、教える為に一緒にやろうね」
私が頷くと、二人は少し満足げに頷き返してくれた。
ちなみにラターシャとルーイはこのインク作業も参加させないことにした。まだ子供だから、塗料のような強い臭いは極力、避けさせようという考えだ。子供達には『過保護』と言いたげな顔で見られたものの、この点は私だけじゃなくてナディアとリコットも強く同意していたので、過保護じゃないです。
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