第341話_優先順位
全員で倉庫から出ると、丁度、ケイトラントが歩いてきた。おはよう~。みんなで挨拶し合う瞬間がちょっと呑気で好きだ。
「そうだアキラ。私から一つ、魔道具について相談してもいいか」
「勿論。どうしたの?」
合流してすぐに意見をくれるなんて、ケイトラントはなんて協力的な試験ユーザーなんだ。まあ普通に村で使うものだから当たり前だが。あとこの村で最も私に対して遠慮なく言えるのがケイトラントだからってのもありそう。
「大型を、移動式には出来ないか?」
「ほう」
今、大型照明は畑の奥に設置してある。あの魔道具はよくある街灯のイメージで作っており、地中に芯を埋めていて容易く移動は出来ない。また、その芯の部分にも術が入っているので「好きに改造して」とは言えない。されると照明として動作しなくなる。
でも確かに、移動式があれば一台でも色んな場所に使用できるし、防獣フェンスの設置や私達の屋敷建設にも利用できて、作業効率という意味では段違いなのだろう。
「今の大型とは別に、移動できる大型を新しく作る方がいいね。形状が変わってくるから」
「む、そうか……それだと、またお前に負担を掛けることになるな」
「いやいや、それはもう言いっこなしだよ」
大体、私の屋敷建設でも君らには負担を掛けているんだから。防獣フェンスのこともそうだけど、移動式を作ることでそれらが安全に、そして迅速に進められるって言うなら、作るのはお互いにとって都合がいい。新しい図面が必要だからちょっと時間は必要になるが、惜しむところじゃないと思う。
「モニカ、どの順序でやろうか?」
「そうですね……残量が分かるという改良の優先度は高くありませんので、いつでも構いません。移動式の大型を最優先にして頂けますか?」
「分かった。支柱よりも先で良いの?」
私の問いにモニカが頷く。金網の製作にはまだ時間が掛かるそうだから、早くに支柱だけが揃ってもあんまり意味は無いみたい。試作分の三十本はもう納めてあるし、試しの設置作業などはそれだけで出来るとのこと。照明魔道具の恩恵で『予定より』早く進んでいるとは言え、村を覆うだけの金網の製作には時間が掛かって当然だ。
「それと、領主様、こちらも」
「うん?」
徐に差し出された一枚の紙。魔道具の一覧の写しだった。横に、私が書いていない情報が追記されている。ああ、優先順位か。
「村の者、全員の意見をまとめまして、そのように優先順位を付けさせて頂きました。番号未記載のものに順位はございません」
「使わなそうなものはある?」
「いいえ。いずれも、あれば必ず使用すると思います」
モニカの返事にちょっと満足しながら頷く。あったら便利だろうってものを厳選したつもりだったので、外れていなくて良かった。
「ただ、今までそれらが無くとも我々は生活しておりました。全て急ぎではございません。どうぞ、ご無理をなさいませんようにお願いいたします」
これはさっき話題にしていた移動式や支柱の製作の、更に先の話だとも念を押される。いつもより丁寧に言い聞かされている気がした。
「その、今後は、我々もこの魔道具を作れるようになりたいのですが」
小さく挙手しながらヘイディがそう言うと、ルフィナも頷いていた。前にも言ったように、二つ目以降は彼女ら自身で作ってもらうつもりなので、それ自体を反対する気は全く無いけれど。
「一番大変なのはやっぱり、魔法陣の板だねぇ」
リコットとナディアが頑張ってくれたあの彫刻部分だ。まず道具としては彫刻刀が必須。説明しながら、私の持つ一組を取り出して見せた。名前は『彫刻刀』で伝わるらしいが、この村には無いそうだ。
「じゃあその内、この道具も揃える必要があるね」
作業者が何人居るかによって、どれだけ用意すべきかも変わってくる。少なくとも五セットくらいは必要になるかな。まあ、めちゃくちゃ高価なものではないので、今のスラン村なら出せるとは思う。
「ランプがもう少しあれば、もっと作業が進むと思うと……」
「ふむ、小型か中型は、今の作業と並行して作りたいんだね」
私の問いにヘイディが頷く。その横でモニカが難しい顔をしていて、今なら、私も彼女の気持ちが分かると思った。
「君らも作業が沢山ある。流石に重たいんじゃないかな?」
この村の住民は、たった十九人しか居ない。自分達の食糧調達の為に畑や家畜を世話したり、狩りに出たり、採取したり。その上で、防獣フェンスを製作して魔道具も製作する。明らかに無茶だと思った。
私はうーんと首を傾けてから、一つ、強く息を吐く。
「小型が金貨一枚、中型が金貨三枚、大型は金貨五枚だ」
「領主様……」
これが『支払うなら作ってあげる』金額だと即座に理解したモニカは、やや困惑しながら私を呼んだ。
でも今回は結構、真っ当に金額を付けたと思います。貴重な魔道具だってことは理解しているからね。個人的にはこの半分くらいの金額にしたかったけど、いつも安いって怒られるからさ。とは言え、中に魔法石が一個入っていることを考えればこの十倍でも安いんだろうけど。
「最低限をお金で解決して、後は自分達で作る。それでいいんじゃないかな。他の魔道具も、試作品を除いた追加注文分はお金で請け負うよ」
私としては、これが妥当な案だと思うんだけどね。それでもみんなは一様に口を噤んで、難しい顔を崩さない。誰一人、頷く様子が無かった。頑なだねぇ。
「そもそもね、モニカ。私は此処の領主だ。領地に必要な道具や資金を私の方で工面したって、何も変じゃないんだよ」
「しかしそれは、領民が税を支払っている場合です」
「そうだね。だから私は無償で提供せず、君達にお金を少し要求している」
彼女らが私へ手数料や購入代金を支払うのが、その『税金』の代わりだ。私の言葉に、モニカは黙り込んだ。
「モニカさん、アキラちゃんが無理しないようには、私らが見張ってますよ」
不意に私の背へと抱き付いてきたリコットが柔らかな声でそう言う。腰に巻き付いた腕を反射的に撫でてから、少し首を傾けた。既にいつも監視されてるけどな。今まで通りにってことかな。ちょっと惚けた反応をしてしまった私を、リコットは苦笑いで見上げてくる。
「私達もスラン村も、アキラちゃんが倒れちゃったら困るって、分かってくれるよね?」
ふむ。なるほど。
確かに倒れている間はみんなを守れないし、私が動けない間はみんなも不安になってしまうね。ただでさえ魔法の反動を受けて動けない期間があるのに、それ以外にも倒れる時間があったら怖い。そりゃそうだ。
「理解しました。気を付けます」
「だそうです~」
歌うようにリコットが付け足したところで、モニカも毒気を抜かれたみたいにふっと笑った。
「承知いたしました。お嬢様方、どうぞ領主様をよろしくお願いいたします」
その言葉に、女の子達は口々に了承していた。今後もきっちり見張られるってことだね。
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